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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第五章 ―アトラ王都魔術学校―編
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幕間 「パーザの親心」

「団長、先日捕らえた窃盗団ですが――」

「尋問は第三師団の残っている者に回せ。お前は数人を選抜して引き続き市街の警戒を」

「団長! 東に現れた魔獣の群れの影響により、周辺の街や村への供給に難が……」

「直ちにシベルディア殿に報告し、ギルドにBランク依頼として張り出せ。報酬は国から出す」


 次々に訪れる部下達へ迅速かつ最善の指示を出していく豹顔の男。

 彼の仕事は第二師団の管轄。

 その第二師団の主な役割は、王都周辺の警戒や犯罪者達の検挙捕縛。

 赤龍討伐時の索敵等も担ったことから、機動力に長ける者達(主に魔族)で構成される。

 現在は国を離れている大多数の第三師団の仕事を、第一師団と分け合う形で担当しているため、こうして引っ切り無しに訪れる者の対応で手一杯となっている。


「ようパーザ。お疲れさん」

「貴様……暇なのか?」

「そんなわけないだろう。わざわざ合間を縫って会いに来たのには理由があるさ」


 そう言って第一師団の長は、指で挟んだ便箋をこれ見よがしに見せつける。


「手紙、か?」

「誰からだと思う?」

「勿体ぶるな。私は忙しい」


 こいつはイチイチ……とごちりたくなるが一旦抑える。

 それすらも面倒だとパーザは切り捨てた。


「ライル君とルコン君からだよ。

 どうやら二ヶ月ほど前にアトラに着いて、無事に学校に通っているらしい。

 こうしてわざわざその報告を寄越してくれたんだ。それも、転移魔術便でな」


 転移魔術便とは、遠方間での物資の移送を可能にする輸送方である。

 互いの地を繋ぐ魔術陣の設置、距離と物資のサイズに応じた必要魔力量、いざ輸送に至るまでの多くの許可を得てようやく実現するものである。

 故に、手紙一枚を遠く離れたロデナスへ送るのにも多額の費用がかかる。

 手紙数枚で一騎紙(日本円で十万円、この世界なら約三ヶ月程の生活費)は下らないだろう。


「読むだろ? 俺はもう読んだからな。

 手紙にも皆に回してくれって書いてある」

「忙しい、私は後でいい。どうせ近況報告だろう。

 急いで目を通すものでもあるまい」

「ルコン君から名指しで一枚入ってるのにな〜?」

「…………早くよこせ」


 素直じゃないなと笑いながら、イラルドは手紙を渡す。

 そっぽを向いて手紙に目を落とすパーザの細長い尾が揺れているのを確認して、また口角を上げる。


「じゃあ俺は行くぞ。読み終わったら返しに来てくれよ? 残りの者に回してやらんといかん」

「おい」

「ん?」

「今夜は空いているのか?」

「まあ、空いてるが……」

「どうだ、その……たまには一杯付き合え」


 イラルドは思わずキョトンとする。

 パーザと飲んだことが無いわけではないが、こうして向こうから誘ってくるのは初めてだ。

 いつもイラルドからか、または大勢の飲みの場でしか縁が無い。


「珍しいな、どこか悪いのか?」

「黙れ。嫌ならいい」

「冗談だろ! 行くさ! それじゃあまた終わってから会おう」


 完全にイラルドが立ち去ったのを確認して、もう一度手紙に目を通す。

 パーザは当初、半魔を受け入れることには消極的であった。

 完成された体制を崩し、新たな不安要素を迎え入れる。

 これほど非合理な事は無いと、王に直訴しようとした程だ。

 しかし、ライルという半魔の人間性に触れ、彼と関わり()()()()()者達を見て、次第に自身の考えも変わった。

 元々人付き合いは得意ではないと自負しているパーザも、王都に残り力を付けようと練磨する彼やルコンを見て、微力ながら稽古を付けたこともある。


 その際に、魔術の発動に難儀していたルコンに方向を示したのはパーザであった。

 魔族同士教えられるものも多かったのか、まるで娘の様に手取り足取り体の使い方を教えこんだ。

 今のルコンの魔力コントロールや体術スキルはパーザの教えが大きい。

 その時のパーザの様子を知る者達は『あれは団長では無い』『まるで別人』と口にしている。

 恐らくは、ルコンに関わった騎士団員で最も(ほだ)されたとも。


「決闘だと!? 全く、無茶をしよって……ライルには説教だな。しっかり面倒を見ろ――」


 ぶつくさと独り言を呟く彼の後ろ姿には、高く上がった尾が揺れていた。



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