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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第五章 ―アトラ王都魔術学校―編
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第六十一話 「試作会」

 校舎の一室。

 調理器具などが揃えられたいわゆる家庭科室にて、レイノーサによって手配してもらった食材の一部と調理器具等を前に、俺やその他メンバーが集う。

 集まったのは俺にルコン、レオドロンとネリセの四人。

 レイノーサとセバスチャンは用事があるらしく、今日の試作会には立ち会えないとのことだ。

 教室には当然他の生徒達も居り、やはりというか、俺達のグループはかなり浮いており周囲からは好奇の目で見られている。


「レオさん、ホントに来たんですね。ちょっと驚きです」

「俺様とて好きでこんなことをするわけなかろう。それよりもだ――」

「あわわわわ……魔王様のご子息様が……」


 ネリセの反応を見ると、改めてレオドロンが学内でどの様な評価を受けていたのか分かる。

 しかし、せっかく手伝いに来てくれたネリセがこれでは困る。

 今後のレオドロンとの関係の為にも、早く打ち解けてもらわねば。


「ネリセちゃん、大丈夫だよ。レオは見た目程危ないやつじゃ無いからさ」

「そうです、何かあればお兄ちゃんがボコボコにしてくれます!」

「ルコンちゃん! レオドロン様にそんなこと言ったら……!」

「貴様ら、言わせておけば……!」

「まあまあ。いつも仏頂面で絡みにくいおまえがダメなんだぞ?

 ちょっとは親しみやすさを持てよ」

「俺様はいずれ魔王となる者だぞ。親しみやすさなど不要だ」

「んなこと言って、王として人心を得られないと民はついて来ないぞ?

 俺はロデナスのダルド王を知ってるけど、あの人は正に人望の塊だ。

 親しみやすさってのはなにも話しかけやすいとか、友達になりやすいとかだけじゃなくて、他者を威圧せず遠ざけないってのもあるんじゃないか?」


 レオドロンは王になると息巻いているものの、今の状態ではそれも難しいだろう。

 魔王とは人の王と違って物理的な『()』が重要なのかも知れないが、結局それでは人の心は集まらない。

 これはネリセや俺達のみならず、レオドロンの為でもある。


「む、それも……そうかも知れぬな……分かった、他でも無い貴様の言うことだ。

 おい、そこの黒髪」

「ネ・リ・セ、ちゃんな?」

「……ネリセよ」

「ひゃ、ひゃいぃ!」

「これから共に商いをする者同士、へつらうことは無い。友として接することを許す」

「あ、ありり、ありがとうございますぅ!!」

「なんでそんな偉そうなんだよ。ネリセちゃん、気にせず接していいからね」

「そうですよ。何かあればルコンも叩きますから!」


 なんとか互いの距離を埋めつつ、ようやく試作会を始められた。

 始められた、ものの――


「ルコン、もっとこう、三角っていうか……せめて丸く出来ない?

 レオ! 強く握り過ぎだって! 米が潰れてグチャグチャじゃないか!」


 魔族二人の不器用さには困ったものだ。

 ルコンは炊き立ての米が熱くて上手く握れず、レオドロンは力加減が終わってる。

 唯一の救いは……


「よっ、ほっ! 出来ました!」

「おぉ、もうバッチリだね。ネリセちゃんが居てくれて本当に助かったよ!」


 チラリと後ろの二人を見ると、申し訳無さそうに肩を竦めている。

 慣れないものはしょうがない、回数を重ねて上達すればいい。

 それに、まだ一ヶ月弱はある。

 おにぎりくらいはなんとかなるだろう。


 あとは唐揚げだ。

 鶏肉は王都で飼育されている上物を卸してもらい、他の食材もどれも質が良い(セバスチャン談)。

 祭りの本番前には、全ての食材を大量に用意してもらえるとのことだ。

 衣は小麦粉、下味はとニンニクと生姜、都合よく醤油もあったのでそれも入れて。

 こういうのは無難でいいんだよ、そもそも俺は料理得意じゃないし。

 いざ、大口の鍋に熱した油を用意して肉を入れる。


「ぬおぉっ!?」

「ひゃあぁ!?」


 油によって熱せられた肉が音を立て、パチパチと周囲に油を散らす。

 興味津々に鍋を覗いていた魔族の二人に散ったのか、素早く後ろに下がる。


「ライルッ! 散るなら先に言え!」

「そうですそうです!」

「いや、事前に危ないよーって言ったじゃん……」


 トングで揚げ、油を切って完成。

 四人で出来立てを試食する。


「うん、やっぱり揚げたては最高だな!」

ふぉいひぃ〜(おいしい)!」

「ルコンちゃん、油が垂れてるよ」

「なんと……! ここまで美味いとは!」


 よしよし、好評だな。

 手応えはバッチリ、あとはレモンやマヨネーズ等を用意して味のラインナップを整えれば問題ないだろう。


「お兄ちゃん、こんなに美味しい料理をどうやって知ったんですか?」

「ん? あ~、昔母さんに教わったんだよ。ほら、ナーロ村にいた頃にさ」


 当然その疑問は出てくるよな。

 だが、こう言う他に術は無い。

 転生者なんて言っても信じてもらえないだろうし、何より言うことにメリットが無い。

 無いならば黙っておいて、余計な詮索を躱したほうが良いだろう。


「失礼」


 突然、俺達の背後から声がする。

 なんだ? と振り返った先には、青線が入った制服を着流しの様に改造した男がいた。

 黒髪を後ろにかき上げて結い上げた、武士のような見た目に、腰には日本刀の様な刀まで提げて。

 いや、武士そのものだな……そもそも学内での銃刀法はどうなってる? あれが本物なら余裕でアウトだろ。

 にしても、こんなやつは教室にはいなかった。

 外からやってきたのか?


「何か?」

「ライル・ガースレイ殿とお見受けする。

 拙者はイダチ・ケンマと申す。以後、お見知りおきを。

 よろしければ、一戦お手合わせをお願いしたい」

「それはまた、急ですね……お断りします」

「ふむ、そうであろうな。……む? 握り飯とは、また珍しい物を」

「おにぎり、ご存知ですか? よかったらお一ついかがです?」

「いや、結構。人が握った飯は食えぬ(タチ)で。ましてや、()()()であっては尚更」


 こいつ……急に現れて手合わせと言い出したかと思えば、今度はルコンとレオドロンの事を……

 流石にこれは許容出来ない。


「おい、アンタいったい――」

「待て、ライル」


 怒りに任せて立ち上がる俺を制止したのは他でも無い、侮辱されたレオドロン自身であった。

 ペロリと舌で指の油を舐め取り、ゆっくりと立ち上がる。


「今侮辱されたのは俺様とルコンだ。友の為に怒る貴様の気持ちは有り難く受け取っておく。

 だが、これは俺様の諍いだ。口出しは無用だ」


 立ち上がったレオドロンとイダチの身長差は、頭二つは違う。

 おまけにレオドロンは魔力を立ち昇らせ、静かに怒りをあらわにしている。

 はたから見れば、イダチが小さく圧されているようにも見えるのだろうが、当のイダチは動じること無く、真っ直ぐに見つめ返すのみであった。


「すまぬな、正直に思った事を口に出してしまうんだ」

「何が狙いだ? ()()使()()で来た?」

「ほう――野生の勘というやつかな? 存外、鋭いではないか……」


 薄っすらと笑みを浮かべ、クルリと背を向けるイダチ。


「邪魔をした。またいずれ」


 ヒラヒラと後ろ手を振りつつ、教室を後にするイダチを、レオドロンを始め、誰も止めることはなかった。


「なんですかあの人! 嫌な人です!」

「そうだね……イダチ・ケンマさん、かぁ……」

「ネリセちゃん、何か知ってる?」

「いえ、ごめんなさい。生徒数が多いから、あまりお名前を聞かない人は分からなくて」


 名前を聞かないということは、そこまで有力な生徒では無いということだろうか。

 レオドロンの言っていた事が気になる。

()()使()()』と言っていた、その意味は?


「…………」

「なあ、レオ。さっきの――」

「悪いが、今日は帰らせてもらうぞ。また後日な」

「あ、ちょ……」


 結局、聞きたいことは聞き出せないまま出ていってしまった。

 レオドロンの表情は重く、何かを悟ったかの様な様子ではあったが。


「何なんだよ、いったい……」


 モヤモヤする気持ちのまま、その日は後片付けをして教室を後にするのだった。



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