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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第五章 ―アトラ王都魔術学校―編
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第六十話 「至れり尽くせり」

「残念ながら、今期の人魔平泰祭の出店枠は既に埋まっておりまして……」

「そ、そんな……」


 学生課に行き許可を取り付けようとしたものの、返ってきた答えは無情極まりないものだった。

 冷静に考えればこれだけ大規模な祭り、一月前に行動するようでは遅すぎるのだ。

 しかし、なんてこった……これでは充実した学校生活への一歩が――


「ご機嫌よう、ライルさん。こんなところでどうかなさいましたか?」

「レイサさん……」


 いつ見ても気品と美しさが漏れ出しているレイノーサと、それに従うようにしてセバスチャンが現れる。


「実は――――」


 説明したところでどうとなるものでもないが、聞かれたからには話さねばと謎の責任感に駆られる。

 ていうか、ヘラヘラ逃げようものなら後ろのセバスチャンが怖い。


「まあ、そうでしたのね。よろしければ、私が学校側に手を回しましょうか?」

「え!?」

「その代わり、一つ私からもお願いがあるんです」


 レイノーサがその権力と立場を持ってして学校に口利きしてくれるのは願ってもないことだが、『お願い』とやらが引っかかる。

 例の、未来での支持の確約? それとももっと別の何か?

 何にせよ、二つ返事でお願いするのは考えた方がよさそうだ。


「私も、その……お店のお手伝いをさせて頂けないでしょうか……?」

「はい?」

「で、ですから! 私もおにぎりとやらを握ったり、唐揚げなるものを調理してみたいんです!」

「ライル様。お嬢様は昔から好奇心旺盛であらせられるものの、その立場上自由に振る舞うことを許されませんでした。

 しかしながら、学生としての時間を御父上から与えられた今は、ある程度の範囲でならば自由を満喫することが出来るのです。もちろん、私という目はございますが」

「せ、セバス!」


 人形の様に整った美しい顔を赤らめながら、セバスチャンをポカポカ叩いている。

 おぉ……早くも意外な一面を垣間見れたな。


「そんなことで良ければよろこんで。むしろ、猫の手も借りたいくらいです」

猫族(キャッツ)の手ですか? あの方々は熱いものは苦手だと思うのですけど」


 しまった、現代の慣用句は通じないか。

 キョトンと首を傾げてこちらを見つめるレイノーサに、そんな言葉があったのかと関心するセバスチャン。

 いかん、話題を逸らさねば。


「と、とにかくレイサさんが出店許可を取り付けて下さるなら助かります。

 そうしたら後は、食材集めとテントやらの資材確保、出来ればもう何人か人手も欲しいな……」

「食材集めと資材の確保は私の方で手配致しましょう。セバス」

「承知しました。

 ライル様、後日で結構ですので必要な物を纏めてお教え下さい。最上の品をご用意させて頂きます」

「え!? ちょちょ、そこまでやってもらわなくても大丈夫ですよ! 出店許可を取り付けて貰うだけでも有り難いのに、必要な物まで用意してもらうなんて……」

「ライルさんは今回が初めての人魔平泰祭なのでご存知無いのでしょうけれど、毎年この時期には祭りの影響で、市場や商会の在庫は軒並み手に入りません。

 既にパイプをもつ商人や学生、その他遠方から参られる行商人の方々へ優先的に卸されてしまうんです」 

「ですので、お嬢様や私にお任せして頂くのが一番かと。確実に納得のいかれる品をご用意致します故」


 そうか、市場での食材確保にもそんな問題があったのか。

 確かに現代社会と違って、この世界では流通ルートも大量生産も十分に実現されていない。

 限られた資源を奪い合う形になるのも無理はない。

 それならば、確実に手配すると言い切ってくれる二人に任せるのが一番か……?

 いやしかし、何から何まで用意してくれるなんて至れり尽くせりだな……なんだか後が怖いぞ……


「そういうことなら……お願い、しても?」

「ふふふ、最初からそう言ってますのに。えぇ、もちろん。お任せくださいませ」

「では、また後日必要な物を。

 お嬢様、そろそろ御時間が――」

「あら、そうでしたね。それではライルさん、ご機嫌よう」


 行ってしまった。

 突然現れこっちの事情を聞いたかと思ったら、問題を解決してくれるどころかアフターケアまでバッチリと来た。

 女神か……?


「っと、いけない。あとはルコンにも話をしとかないとな」



 ----



「皆でお店を出すなんて楽しみです! フッフッフ、磨き上げた料理スキルの出番ですね!」

「まだ一ヶ月そこらだろうに……ネリセちゃんもありがとう」

「いえいえ! ルコンちゃんとお兄さんのお力になれるなら喜んで!」


 ルコンは当然のように快諾してくれたうえに、友達であるネリセまでも手伝ってくれることになった。


 ネリセ・ケネルワード。

 彼女は人族であり一般家庭の出身だった。

 齢は十二歳とルコンと同い年。

 短めの黒髪に整った顔立ち、誰とでも分け隔てなく接する優しい心の持ち主だ。

 入学試験の噂と兄ポジである俺のせいで少し……かなり浮いていたルコンにも率先してコミュニケーションを図ってくれた子だ。

 元々のルコンの性格を考えれば、周囲と打ち解けるのも時間が解決してくれただろう。

 それでも彼女の存在は年頃のルコンには大きく、兄としても嬉しい限りだ。

 料理学で一緒になってから仲は深まったようで、今では俺がいないところではいつも一緒だ。

 そんなネリセも、俺の話を聞いて率先して手伝いを買って出てくれたのだ。

 なんて良い子なんだ、こういう子こそ国の宝だ……


「ネリセちゃんはずっとアトラにいるんでしょ?

 毎年祭りの時はどんな感じなの?」

「学内外問わずお店がいっぱいで、とにかくたくさんの人で溢れて、道によってはまともに進むことも出来ないんですよ。

 私も一年生だからお店側に回るのは初めてなんですけど、自分達で色々用意してお客さんに売るのってワクワクします!」

「ところでお兄ちゃん、食材とかはどうするんです? 一狩り行っちゃいます?」

「なんでハンターみたいになってんのさ」

「そっか、ルコンちゃんもお兄さんも冒険者証持ってるんだもんね。凄いなあ……でもお兄さん、お祭りの前だから今の時期から準備し始めると間に合わないんじゃ?」

「食材や諸々の資材はレイサさんが確保してくれることになったから大丈夫だよ」

「レイサさん?」

「レイノーサさんって、お人形さんみたいに綺麗な人のことですよ」

「レイノーサさんって……えぇ!? レイノーサ王女のこと!?」


 あ、そっか。

 はたから見たらレイノーサ王女だもんな。

 そんな人がバックに付いてるなんて知ったら驚くのも無理はないか。

 他に知られてもいい顔はされないだろうし、ここだけの秘密にしといてもらおう。


「まあ、そういうことなんだよ。あんまり周りに知られてもレイサさんが困るだろうし、内緒でね?」

「は、はい……なんだか凄い事に参加してる気分です……」


 俺やルコンはダルド王や()()、その周囲の人達で何となく王族関係には慣れちゃったんだよな。

 不敬と言えば不敬なんだろうけど、この世界の王族の人達って意外と大らかというか気にしないというか。


「あ、でもでも! お祭りの醍醐味と言えば、王様や有名な人達、魔王様達にも会えることなんですよ!」


 ダルド王達が以前にも訪れたことは知っていたものの、魔王達まで来るのか。

 それはちょっと興味あるな……


「数年前にはロデナスからダルド王にあのパルヴァス様まで! あぁ〜本当にかっこよかったな〜……」

()()ですね」

「だな」

「…………えぇぇぇッ!!??」


 耳が痛ぇ……


「師匠って、()()パルヴァス様がですか!? え、二人の!? パルヴァス様ってあのロディアス騎士団の第三師団長で、大陸五指にも数えられてる方ですよ!」

「そ、そうだよ。あと、これも秘密でね……」


 そうか、言ってないもんな。

 いや、自慢みたいになるからわざわざ言うことでも無いんだろうけど。

 とりあえずこれもチャックしておいてもらおう。

 それよりネリセを落ち着かせないと、先に彼女の頭が限界を迎えそうだ。


「とりあえず人手も揃ったし、食材なんかは任せてあるし。あとは一旦の準備を待って皆で試作だな」

「人手って、私とルコンちゃんとお兄さん、レイノーサ様も手伝われるとして……四人だけですか?」

「ん~、レイサさんは実際のところ手伝えるかは微妙なとこだろうな。立場的な問題もあるだろうし……」

「レオさんがいるから実質五人ですよ。あの人腕四本ありますし」

「レオ、さん? 腕も四本って、え?」

「レオドロンだよ。ほら、三年の偉そうな魔族の」

「――ブクブクブク…………」


 トドメの魔王の息子がネリセの脳に突き刺さってしまい、泡を吹いて倒れてしまった。

 夕暮れの学校に、友の安否を叫ぶルコンの声がこだまする――

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