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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第五章 ―アトラ王都魔術学校―編
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第五十七話 「兄妹」

 両者いきなりの九尾励起(ナインライブズ)、しかも三本状態。

 薄々使えるとは思っていたが、イズリも容易く三本とはな。

 感心するのも束の間、先に仕掛けたのはルコンであった。


 的を絞らせないよう蛇行しながら距離を詰め、勢いのまま一気に尻尾を振るう。

 俺の怒り狂う鉄槌(イーラスレッジ)から着想を得た、ルコンなりの必殺の一撃。


尾束重打(びそくちょうだ)ッ!」

「甘いッ!!」


 尾を重ねた一撃はイズリの掌底により弾かれる。

 やるなぁ……


「ほう、中々やるではないか」

「あぁ、結構強いなあいつ」

「違う。お前の妹のことを言っている」


 あ、そっちね。

 珍しい、こいつも人のこと素直に褒めるんだな。


「魔力出力もさることながら、使い方が上手いな……あの歳であれだけ魔力操作に長ける魔族もそうはおるまい」

「ま、ルコンも頑張ってたからな……」


 ルコンはイズリを中心に円を描くようにして駆ける。

 腰から伸びる追加の尾と、元の尾を魔力で覆い伸ばして三本の先端をターゲットへと固定する。


「食らって下さいッ!」


 マシンガンの様に、絶え間なく魔弾がイズリへと襲いかかる。

 一つ一つの威力は精々が五級魔術といったところだが、秒間にして九発もの魔弾が射出される。

 観客席からは驚きの声が挙がるが、その対象はすぐさまイズリへと移ることになる。

 イズリはその場を動かずして、飛来する魔弾を的確に掌底で穿ち、時には手刀で切り裂き、時には蹴りで鮮やかに薙ぎ払う。

 弾かれた魔弾が次々と観客席や周囲の壁へと跳弾するが、試験場に張られた結界により被害を齎すことは無い。


「凄いですね! ルコンさんがここまで強いだなんて!」

「同感でございます。一目お会いした時から光るものを感じておりましたが、よもやここまでとは」

「だが……」

「あぁ。――このままじゃ足りない」


 実際に、ルコンの猛攻はイズリをその場から動かすことすら出来ていない。

 もしかすると、余りにもの勢いに防戦一方になっているだけかもしれないが、それは楽観的に過ぎるだろう。

 恐らくイズリの狙いはルコンの消耗。

 このまま三本(サード)を維持させて魔力を消費させ、消耗したところを制圧するのが狙いだろう。

 守るべきルコンに対して力を振るうイズリの、最大限穏便に事を運べる立ち回り。

 きっと俺が同じ立場でもそうするだろう。


 イズリの事情を知った今、彼に対して思うところが無い訳ではない。

 だが、それでもルコンに勝って欲しい。

 ルコンには、自分で決めて生きて欲しい。

 その結果が魔土の故郷に戻ることになろうと構わないし、学校に残っても構わない。

 ただ、その選択をする過程には、ルコン自身の意思が介在していなくてはならない。

 だから、ここでイズリに負け、道を決められてしまうことだけはなんとしても……


「無茶するなよ、ルコン……」



 ――――


「〜〜っ!!」


 ダメです、これじゃ足りません!

 こうなったらしょうがないのです。

 お兄ちゃんには『()()()()使()()()』って言われたけど、負ける訳にはいかないのです!


 一旦距離をっと……


「どうしました姫。もう終わりですか?」

「ふん! ここからが本番――ですッ!!」


 やってやります! 見せてやります!

 ――ルコンの本気!!


四本(フォース)ッ!!」


 身体が熱い。

 やっぱり四本(フォース)からは負担が大っきいです。

 今のルコンじゃだいたい五分が限界です。

 速攻で勝ちます!


「これは……!! 驚いた。姫よ、よくぞここまで……」

「びっくりしても待ってあげません……からッ!!」


 一気に! 一気にいくですっ!!


四面牢尾(しめんろうび)ッ!! 逃げ場はありません!」


 お兄ちゃんと開発した尻尾の包囲網です!

 これなら――


四尾(よんび)

「え、なっ!?」


 全部弾かれた!? そんな!?


「決して侮っていた訳ではありませんでした。ですが、姫は既に私の想像の更に上を行かれていた。

 ならば、私も全霊でお相手するまで」


 この人も、四本まで使えるなんて……

 ううん、ダメです! だからってルコンが負けるとは決まってません、負けられません!


「私からも、行きますよ!」


 はや――


「きゃッ!?」


 うぅ、尻尾が間に合って良かったです……

 この人、強い……ルコンだって強くなったはずなのに、それ以上に。


『姫、今日は何を?』


「ッ!?」

「? どうかなさいましたか、姫?」

「な、何でもないです! さあ、続きです!」


 何、今の? 記憶……? いつの? ルコンの? 

 ……ううん、知りません。

 今はとにかく集中しないと!


「やあアァァ!!」

「ふっ! はっ、せぁっ!」


 ダメだ、届かない! 何をしても全部弾かれる!

 まだ足りない、もっと、もっと!!


『これを、私に……?』

『ありがとうございます、姫』


 っ、また!? 何なんですか、これ……! 

 知らないのに、知らないのに……!

 ――何でこんなに悲しくなるんですかっ!!


「隙あり!」

「あァッ!」


 この人も、さっきから全然本気で殴ってこないし……

 なんなんですか、もうッ!!


「っャァアアアーーーー!!!!」

「ルコンッ! それは止めておけ!!」


 ごめんなさい、お兄ちゃん。

 でも、負けられないんです!!


「姫……!? これは、まさか!?」

九尾励起(ナインライブズ)――」


 尾に集中するんです! もっと、もっともっと魔力の流れを!!

 更に一本を、捻り出す感覚で!!


「――五本(フィフス)ッ!!」


 っ! やっぱり五本はかなり辛いです……

 頭がクラクラするし、すっごく気だるい感じがします。


「姫、鼻から!」

「構わないで下さい! これは決闘です!」

「っ……」


 鼻血が出たって構いません。

 ちょっと怪我したって、傷ついたって、今は!

 今はただ――全力でッ!!


「これが、ルコンの……! 全力ですッ!!」


 お兄ちゃんには負担が大きすぎるから止めておけって言われてるけど……

 この人には、今のルコンの……成長した力の全部をぶつけたい!


五窮閃火(ごきゅうせんか)ッ!!」

「ッ、少しでも早くその意識を! 御免!」


 来る! 来い! 真っ直ぐに最短距離で来るとこを狙い撃つ!

 魔力を尾に急速集中――射出!


「やぁアァァァァッ!!」


 一つ、二つ、三つ、四つ、全部弾かれても……


「捕らえました、姫ッ!」

「こっちが、です!」

「なっ!? これは――」


 撃ち終えた尾はそれで終わりじゃありません。

 懐に来てくれるなら好都合、手足を捕らえます!

 そして、残りの()()です――


「食らって……下さい!!」

「誠に――立派になりましたね。姫」


 あれ、何でこの人、笑って……?



『今日から姫に仕えます、イズリと申します』

『姫、着物が汚れますよ』

『兄などと……姫、ダメですよ』

『姫。私はいつでも、貴方のおそばに』



「あ――イズリ、おにい、ちゃん……?」



 待って、撃ったらダメ――



 ――――



「結局、ルコンは魔力切れで気絶、あなたは意識はあるもののダメージで起き上がれず両者引き分け、か……」

「なにを馬鹿な……私の、完敗だ……」


 最後の瞬間、イズリを尾で捕らえたルコンの渾身の魔弾が放たれる直前。

 明らかにルコンには動揺の色が見られた。

 あるいは、最後の一撃を躊躇していた様にも見えた。

 しかし、魔弾はそのまま発射され、ほぼ零距離からの直撃を受けたイズリは壁まで一直線に叩きつけられた。

 試験場全体を揺らすほどの衝撃に、誰もがイズリの生死を疑った。

 だが、流石は九尾励起(ナインライブズ)を四尾まで解放した者か。

 ボロボロになりながらもイズリは意識を失うことなく、俺の手の中でスヤスヤと眠るルコンを慈しみの眼差しで見つめている。

 ルコンはというと、五本(フィフス)の負荷は想像以上に重く、その上での魔弾の収束射出でガタが来てしまった。

 最後の一撃とほぼ同時に気を失い、兄兼保護者(仮)として立会人の教師から許可をもらった俺が抱き抱えている。


「とりあえず、傷を癒したらどうです? ほら、あそこが治癒魔術陣でしょう。動けないなら、肩を貸しますよ。嫌なら仲間の方々を呼べばいいでしょう」

「…………ライル・ガースレイよ」

「何ですか」

「姫を、頼んだ」

「えぇ。勿論」

「言いたいことはそれだけだ。――行ってくれ」


 何も言わず。否、言えず。

 彼には彼なりの事情があると知り、それを理解できた今だからこそ。

 彼が立つはずだった居場所に収まった俺が言えることなど、何も無いのだ。


 こうして黙って背を向け、会場を後にすることしか、俺には。




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