第五十四話 「お友達」
「不躾な質問なのですが、どうして俺やルコンを?」
「そうですね。興味が湧いたから、でしょうか?」
「興味、ですか?」
「ふふ……ライルさん。どうか他の方々に接する時と同様に、もっと砕けた話し方で結構ですよ。
むしろ、お願いします。私はその方が嬉しいので」
とは、言われても。
セバスチャンを盗み見る。
タメ口で話しかけて、万が一彼の怒りを買ってしまったら。
殺される……
『お嬢様に何たる無礼! 死で償って頂きましょう!』なんて言われかねない。
「ライル様、どうかお嬢様のお望み通りに接してさしあげて下さい。それがお嬢様のためにもなります」
「そ、そうですか……?では、ンンっ……その興味っていうのはどういうとこが?」
「勿論、ライルさんのご勇名です。貴方のご活躍はロデナスから遠いここアトラでも聞き及んでおります。
そんな貴方がこの学校に入学したとあっては、こうしてお近づきになる機会を逃す手は無いでしょう?」
なんだかこそばゆいな。
だが、それだけでは無いだろうな。
「私、ライルさんやレオドロンさんのような『力』ある方々とは是非ともお友達になりたいんです。もちろん、ルコンさんとも」
『力』あるお友達、ときたか。
含みのある言葉に、勘ぐらずにはいられない。
「下らん言い回しだな。王女よ、ハッキリと支持者がいると言えばよかろう」
「まぁ、支持者だなんてそんな」
「王女って……えぇ!?」
「? レイサさんってお姫様だったんですか?」
レオドロンの思わぬ指摘に、混乱しながらも思考をフル回転させる。
『ここアトラでも』、王女、つまりレイノーサとは――
「レオドロンさんの言う通り、私はレイノーサ・アトラ。現国王セイルバン・アトラの第二子であり、王女です」
「そうだったのか……いや、これまでの無礼、お詫び致します」
「もう、ですから嫌だったんです。ライルさん、何度も言いますが、普通に接して下さい。
ここにいる間はあくまでも『学生としてのレイノーサ』です。立場は皆様と一緒ですのよ。
それよりも……思ったより動揺と言いますか、驚かれてないのですね?」
「驚きはしてますよ? ただその、ロデナスに居た時に王族関係者の方々にはお会いしてるので、慣れと言いますか」
「なんと! ロデナスの王家とも既に繋がりがあるだなんて! ふふふふ……! それはそれは、ますますライルさんとルコンさんとは仲良くさせて頂かないと」
ますます仲良くって。
天然かと思えばこの王女、とんだ強かさを併せ持ってやがったな。
第二子と言っていたな、つまり長男か長女がいる。
『お友達』ってのはレオドロンの言う通り、将来的な支持者の事で間違い無さそうだ。
「なるほど。つまり、レイサさんは未来の王となる為、学生のうちに有力な支持者を確保しておきたいと」
「『龍殺しの半魔』であり、半魔達の人権回復にも貢献なされたライルさん。魔土の一部を支配し、凡人土とも交流を持つ魔王の息子であるレオドロンさん。
そして――」
「?」
チラリと、ルコンに思わせぶりな視線をレイノーサが送る。
ルコンは政争関連の話には疎いため、何がなんだかといった様子で首をかしげるばかりである。
「それで、何が望みだ?
支持者になれと言うのならば、俺様の答えは否だ。
理由は二つ、今の俺様には未だ王としての意思表示は出来ん。
そしてもう一つ、現時点で支持するならば貴様の兄だ。生徒会長として人望名声、力も備えるヤツならば支持してやらんでもない」
「望みだなんて。そんな大それた事を言うつもりは……私はただ本当に、皆さんと仲良くなりたいだけですのに」
「そうですよ! レイサさんが可哀想です!
あと、いっつもなんか偉そうです! もうちょっと優しくしたらどうなんですか?」
「フン、生意気なルナ――」
「ジーーーー」
「……ルコンよ。俺様は元よりこうだ」
名前で呼ばせる事に成功し、フフンとドヤるルコン。
可愛いけど、ちょっと今は違うかも……
「俺はお友達になるって言葉、額面通りでいいなら大歓迎です。
入学したばかりで右も左も分からない俺達にとっては、仲良くしてくれる人は多い方が良いですから。
な、ルコン?」
「はい! 私もレイサさんとは仲良くしてほしいです!」
「嬉しい……お二人共、ありがとうございます」
またもジーーーっとレオドロンに視線が投げられる。
たじろぐレオドロン、睨むルコン、微笑むレイノーサ、どうすればいいか分からない俺。
これまでの間、セバスチャンはじっとレイノーサの背後で立ち控えているのみである。
レオドロンがレイノーサに対して厳しい意見を口にしても、その表情は変わらず。
主人の行動には口を挟まない主義なのか、レイノーサ自身言いつけてあるのか、真偽は不明だが、この場のジョーカー的存在である彼が動かないのは有り難い。
実際、彼が武力による実力行使に出れば俺達に選択肢は二つしか無い。
服従か、死か。
正直言って、内心はびくびくしている。
「分かった分かった……友として、という意味ならば構わん。既にライルと俺様は友である。
一人や二人増えたところで不都合なども無いしな」
「お兄ちゃん、この人面倒臭いですね」
「こ、こらルコン!」
「ふふ……アハハハ! ごめんなさい、あのレオドロンさんが面倒臭いだなんて……私、おかしくって!」
「う、うむぅ……ライルよ、友としての忠告だ。妹の躾も兄としての責務だぞ」
「はぁ!? ルコンはいい子ですぅ! お前がそんな態度なのが悪いんだろ!」
「お、お前だと……!?」
思わず口が悪くなったが、段々とレオドロンの扱い方が分かってきたな。
こいつは案外、男子学生のノリでイケるタイプだろう。
それからは小一時間、他愛無い話をしてお茶とお菓子を楽しんで会はお開きに。
何事もなく終わり帰路につき、胸を撫で下ろすばかりだ。
「お茶もお菓子もおいしかったです! また行きたいですね、お兄ちゃん!」
「そうだな……」
「お兄ちゃん?」
「ん、あーいやごめん。何でもないよ。
また美味しいクッキーを買っていこうな」
「はいっ!」
幕を開けた学園生活。
魔王の息子との決闘に、裏で工作する王族達の政争。
面倒事は勘弁してほしいが……
――――
夕日が差し込む校舎の一室にて、数人の生徒が集まる。
赤青のライン関係無く集まる数人は、一人の青線持ちをリーダーとして話を進めていく。
「妹様がレオドロン氏と、かの『龍殺しの半魔』と接触なされた様ですが。よろしかったのですか?」
尋ねられた赤髪の男は事も無げに呟く。
「構わん。レイノーサが何をしようと、俺のすべき事は変わらん」
「承知しました。我々からのアプローチはいかがしますか?」
「放っておけ。未だ魔王足り得ん魔族と、半血など」
立ち上がり、男は窓から赤焼に染まる校内を見下ろす。
「父上も父上だ。なぜ今更半血如きを受け入れたのか……ロデナスの入れ知恵か、例の『龍殺し』がそうさせたのか」
彼が呟く間、周囲の人間は誰も口を開くことは無い。
彼の言葉を遮る意味を、その不敬を承知しているから。
「正しき世界の為、穢の無い国を築くため。
王位はこのスタリオル・アトラのものだ――――」
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