第五十三話「お茶会へようこそ」
レオドロンとの決闘を終えた翌日から、俺を見る周囲の視線は更に複雑な色になった。
純血主義からの差別や忌避、そんなことは気にしない者からの興味と好奇、同じ半魔である者からの羨望と尊敬。
俺が望んだ安寧たる学園生活は早くも崩壊してしまった。
いや、半魔である以上はある程度の向かい風は覚悟してたが。
これはなんか、うん、違う。
「ハァ〜〜…………」
「お兄ちゃん、疲れてます? ルコンがマッサージしますよ!」
「ううん、大丈夫……ありがと」
「そうですか? あ、そうだ! 今日の十五時からお茶会に誘われてるんです。
お兄ちゃんも一緒にって! ね、行きましょう!」
「え、お茶会って……誰に?」
「レイノーサさんっていう、銀の髪がすっごく綺麗なお人形みたいな人です!」
あぁ、昨日ルコンの隣にいた。
どうやら本当に友達になれたみたいで、お兄ちゃんは嬉しいぞ。
「それ、俺も行っていいの?」
「もちろんです! お兄ちゃんとも仲良くなりたいって言ってましたし」
「ふ~ん」
「む。今ちょっと鼻の下が伸びてました」
「へ? いやいや、違うから! 別に綺麗な人だから嬉しいとかそんなんじゃ……」
「フン、別に良いですけどね!」
ヤベぇ、なんとか話題を逸らさなくては!
「あ~でもほら! お茶会なら何かお菓子とか持ってった方が良いかもな! 手ぶらってのも悪いし!」
「! お菓子!? クッキーとかチョコとかですか!?」
「そうそう。よし、売店が有るみたいだし、何か買ってから行こうか」
「フフ〜ン♪ おっかっし〜〜♪」
助かった、ありがとうお菓子……
しかしまあ、お茶会、ねぇ――
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「ここ?」
「ですかね?」
約束の十五時より十分程早く、指定の校舎のテラス席へと到着。
そこには美しい銀髪を携え、青線が入った制服に身を包んだ人形のような美少女と、灰色っぽいショートヘアを綺麗にセットした大柄な老齢の執事がいた。
少女はこちらに気づくと椅子から立ち上がり、丁寧にお辞儀をして挨拶する。
「ようこそ、お越し下さいました。
はじめまして、ライル・ガースレイ様。
私はレイノーサと申します。どうぞお気軽に、レイサとお呼び下さいね」
「はじめまして、ライル・ガースレイです。
この度は素敵な会にお招き頂き、ありがとうございます。昨日は妹とも良くして頂いたみたいで、重ねてお礼申し上げます」
「これはご丁寧に。そんなに畏まらないで下さいませ。
今日はお二人と親交を深めたくて、この様な会をご用意したのです。
どうぞ、肩の力を抜いて下さい。普段どうり、皆様に接されるようにしてお話くださいね」
柔和な笑みを浮かべながらリラックスを促すレイノーサ。
そんな彼女の喋り方は以前丁寧なままだが、雰囲気や物腰は柔らかい。
深窓の令嬢といった彼女だが、決して関わりにくいとは思わせない。
「では、お言葉に甘えてレイサさんと」
「ふふ、嬉しいですわ。私も、ライルさんとお呼びしますわね」
「レイサさん、こんにちは! お菓子を持ってきたのでお茶と一緒に食べましょう!」
「こんにちは、ルコンさん。お気遣いありがとうございます。
私も焼き菓子を用意してますので、ご一緒にどうぞ」
美少女二人の微笑ましいやり取りに目を奪われそうになるが、実際に俺の意識の大半を割いているのはそこにいる執事の方だ。
見ただけで、痛いほどよく分かる。
クソ強い。
戦えばハッキリ言って勝ち目が無い。
もしもの話、この会が俺やルコンを良く思わない何かの陰謀によって仕組まれたものであるならば、きっと俺達は生きて帰れない。
そんな飛躍した妄想に至るほど、目の前の執事は警戒せざるを得ない存在だ。
「あら? セバスが気になりますのね。
失礼しました。セバス」
「お初にお目にかかります、ライル様。
お嬢様の身の回りのお世話を仰せつかっております、セバスチャンでございます。
お気軽に、セバスとお呼び下さい」
「あぁ、これはご丁寧にどうも……」
ゆったりとした丁寧な物腰に、洗練された一流の所作。
ひと目見ただけで、彼が卓越した技術を持つ執事だということが分かる。
すると、横で楽しげに話す二人には聞こえぬように、セバスチャンがそっと語りかけてくる。
「そう警戒されずとも、ご安心下さいませ。
私はあくまで、お嬢様の執事。
仕える主の大切なご友人に何かをしようなどと、滅相もございません」
「っ……いえ、こちらこそ不躾な視線を。失礼しました」
「とんでもございません。
昨日の決闘、お見事でした。良き戦いを見せて頂きました」
読まれてたか。いや、当然か。
これだけの実力者ならば、向けられた警戒や敵意などは容易く察知できるだろう。
しかし、そんな彼の対応は穏やかで一切の敵意も感じさせないものであった。
俺の警戒を下げるには十分過ぎるほどに。
しかし、しかしだ。
この場で警戒すべき事が、いや人がもう一人。
「ところで、あの〜……なんでレオドロンさんまで……?」
そう、テラス席の入り口から離れた場所で、椅子二つを繋げてドカリと腕組みをして座る者が。
この場には不釣り合い、失礼だがそう形容せざるを得ない。
「ふふっ、ご一緒の方がお話も弾むかと!
それにほら、お二人は昨日決闘なされたばかりでしょう? でしたら、この場で仲直りもすればよろしいですわ!」
「あ、え? えっと〜」
セバスチャンに視線を送るが、目を伏せたまま小さく首を横に振るだけだ。
レイノーサ、このお嬢……まさかド天然……!?
「レオドロンさん、お兄ちゃんにちゃんと謝って下さい!」
「フン、狐族か。放っておけ。
俺様は無理矢理、そこの執事に連れてこられただけだ」
連れてこられたって……
外傷は無さそうだから、きっとコイツも勝てないと分かったうえで従ったんだろうな。
なんか急に気の毒になってきたな。
「それと、私は狐族じゃなくてルコンです! ちゃんと名前で呼んで下さい! いいですか!?」
「う、うむ」
おお! 押してる! ウチのルコンがあの俺様を圧倒してるよ!
見てるか? グウェス、サラ……
「ライル・ガースレイよ」
おっと危ない、遠くに行ってる場合じゃなかった。
真面目な顔で呼びかけるレオドロンに向かい合う。
「先日の非礼を詫びる。済まなかった。
貴様は半血だが、その身は紛れも無く戦士である。
これからは俺様の盟友として、共に学道に励む事を許す」
「え? 偉そうすぎん?」
「なに?」
「あ、いや、オッホン……! なんか一言二言多い気もするけど、まあ仲良くするってんなら俺は良いよ。あと、ウチの妹とも仲良くしてよ。怒らせると俺より怖いから」
「う、うむ。承知した」
熱い(?)握手を交わし、過去の事は水に流す。
何だかんだでこれぞ青春ってやつか。
良いじゃない、ちょっとこのシチュエーションに酔ってる自分がいるよ。
「あぁ、良かった! これで心おきなくお茶を楽しめますね! セバス、早速用意をお願い」
「承知致しました」
主からの命を受け、即座にお茶の用意を進めるセバスチャン。
目にも止まらぬ早業で次々にテーブル上にティーセットが並べられ、中心にはレイノーサと俺達が用意したお茶菓子がケーキスタンドに美しく飾られていく。
てか、どっから出したのこの道具たち??
「さあ、準備は整いましたわね! それでは楽しいお茶会を始めましょう!」
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