表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第五章 ―アトラ王都魔術学校―編
55/137

第五十話 「入学試験」

「筆記試験、お疲れ様でした。

 お次は実技試験となります。こちらへどうぞ」


 ルコンと共に筆記試験を終え、促されるまま教員の後に続く。

 丁寧に掃除が行き届いた校舎を歩く。

 広々とした廊下には教員や生徒が行き交い、そのたびにジロジロと視線を投げられる。

 ちょっと居心地悪いな、なんて思っていると。


「お兄ちゃんお兄ちゃん、テストどうでしたか?」

「ん? まあまあかな。八割くらいは取れてると思うけど」


 謙遜も慢心も無く本心だ。

 入学試験ということなら問題無いレベルで高得点は取れているはず。

 ロディアスにいた二年、アトラまでの一年の計三年間である程度の勉強はしてきた。

 元々勉強は苦ではないが、この世界のことならばゲームの説明書を読む様なものだ。

 苦手意識を抱くことなど無く、意欲的に取り組む事が出来た。

 ルコンも持ち前の真面目さ故か、俺が勉強している時は見習う様にして隣で勉強してきた。

 同じ問題であるならば、ルコンは何も問題無いはずだ。


「流石お兄ちゃん! ルコンもバッチリです!」

「なら後は実技試験だな。でも実技って何するんだろうな?」

「簡単ですよ。今のあなた方が得意な事をお見せ下さい」


 前を歩く教員が背中越しに会話を継ぐ。


「実技試験はこの先の講習ホールにて行います。

 魔術でも、体術でも、はたまた魔族として生まれ持った特性でも。

 披露する事が無ければ、追加の筆記試験を受けて頂いても構いません」


 語り終えるや、扉の前で止まりこちらを振り返る。

 そのまま穏やかな笑みを浮かべ、そっと扉を開ける。


「シュラウド先生、入学試験を受験するお二人をお連れしました」

「あぁ、ご苦労」


 扉の先のホールに立っていたのは一人の老人。

 年の頃は六十半ば、背筋は真っ直ぐに伸び、顎には綺麗に整えられた髭を蓄えている。

 ベテラン教師といった風格を漂わせるこの男が試験官だろうか?

 よく見るとホールには一般生徒も何名かおり、どうやら各校舎を繋ぐ連絡通路の役割も担っている様だ。

 上階もあるようで、何名かは物珍しさに吹き抜けからこちらを見下ろしている。


「君達が入学希望の二人か」

「はい、ライル・ガースレイです。よろしくお願いします」

「ルコンです。よろしくお願いします!」

「ほう……! 君があの……うむ、礼儀正しく良い挨拶だ。

 私はシュラウド・バーチテウス、本校で教鞭を取っている。よろしく頼むよ」


 ピシリとした外見とは裏腹に、穏やかで誠実そうな人柄に安堵する。

 浮かべられた笑みも自然なもので、この人から何か教わってみたいと感じさせる程の好感だ。


「さっそくだが試験に入ろう。

 ホール中央に設置されている魔人形(ドール)に対して、魔術でも体術でも、君達が得意としていることを披露してくれたまえ」

「質問なんですが、威力はどれくらいまで出してもいいんでしょうか?」

「心配せずとも、ホール中央には三級魔術までならば問題無く閉じ込められる結界魔術が施されている。

 それ以上を、というならば良識的な範囲で抑えてくれたまえ」

「分かりました、ありがとうございます」

「では、どちらからいくかね?」


 三級魔術まで、か。

 これならば実技試験も何の問題も無さそうだな。

 問題があるとすれば周りの生徒達の目か。

 実りある健全な学園生活を送るためにも、ここで悪目立ちする訳にはいかない。

 適度に力を抑えて、あまり注目を浴びないようにせねば……


()からいきます!」


 元気よくルコンが右手を挙げる。

 フンスと鼻を鳴らし、自信満々の表情だ。

 いけない、ルコンはきっとやりすぎる。


「ルコン、なるべく抑えて、な?」

「もうっ! お兄ちゃんは心配しすぎです!

 安心して見てて下さい!」

「あっ、ちょ!」


 真意は伝わっただろうか。

 こちらの心配をよそに、とっととホール中央に進んでスタンバイするルコン。


「では、はじめたまえ」


 合図、と同時に。


三本(サード)ッ!!」


 ルコンを中心に魔力が吹き上がる。


 ルコンがこの三年で身につけたこと。

 それは、自前の尾と九尾励起(ナインライブズ)により発現する尾の自由操作。

 ルコンは常々武器を欲しがっていたが、ゼールや()()()()()()の助言により一つの結論に至る。

 それが、尾を武器とすること。

 尾を自由自在に動かす事が出来たならば、それは立派な武器となり杖となる。

 現に、今までも尾を叩きつけたりして攻撃に応用はしてきた訳で、これにはルコンも目から鱗であった。

 今では、追加の尾の大きさは魔力操作である程度までは変更でき、元の尾も覆う魔力量を操作して()()の大きさを変えられる。

 の、だが。

 相変わらず魔術は苦手なようで、せいぜいが火性四級魔術を使えるか、といったところだ。

 そんなルコンが身につけた戦法は至極単純で。

 強化された身体能力を駆使した接近戦、複数の尾を杖に見立てた魔弾での面制圧、そして――一点集中砲火(チャージショット)


「やあぁぁぁぁッ!」


 体の前に伸ばされた三本の尾の先端が一点に集まり、魔力を集約させる。

 ゼール等が言うには『回りくどい魔力の集め方』らしいが、本人曰くこれが一番やりやすいらしい。

 ルコンはお世辞にも魔力操作が上手ではないので、ほぼ感覚の問題だろう。


 と、いけない。

 これ以上は止めた方がよさそうだ。

 さっきまで威厳を放っていたシュラウドが、目と口を開けっ放している。


「ルコンッ! ストップストップ! もういいから!」

「へっ? じゃ、じゃあ――」


 そうして魔力を溜めるのを止めたかと思うと、そのまま魔人形(ドール)目掛けて撃ち放ってしまった。

 魔人形は直撃と同時に粉々に砕け散り、中央を囲むようにして張られた結界を突き破って壁に直撃し、大きなクレーターを作る。

 誰もいなかったから良かったものの……なんで撃ったのさ……


「フフン! 見ましたか、お兄ちゃん!」

「やりすぎ!! 抑えてって言ったでしょ!」

「で、でもでも! ちゃんと途中で止めたし、()()でしたもん!」

「ハァ〜〜……そういう意味じゃ……いや、仕方無いか」

「――――ハッ!? いかんいかん、いやはや……素晴らしいものを見せてもらった! 

 だがルコン君。出来れば、もう少し控えめにしてくれると助かったかな」

「はうッ!? ごめんなさい……」


 やれやれ、と思うのも束の間。

 周囲の生徒達の反応が耳に入る。


「え、なにあれ……?」

「なんつー火力だよ……魔弾だけで三級魔術以上!?」

「しかも狐族(ルナル)だぜ!? 見ろよ、超可愛い!」

「お、俺、声かけようかな……」


 マズイ、ルコンが悪目立ちしてしまっている!

 このままではその美貌と実力により周囲から距離を置かれてしまい、楽しい学園生活を送れない……最悪の場合イジメの標的になるかも……!

 あとルコンはやらん。


「よしっと……待たせたね、ライル君。

 さあ、君の番だ。君はその……分かってくれているね?」

「はい」


 新たな魔人形の準備を終えたシュラウドが促す。

 ゆっくりと、中央に進む。


「頑張って下さい、お兄ちゃん!」


 シュラウド先生、すまない。

 可愛い妹を守るのは、お兄ちゃんの役目なんだ。


「では、はじめ――」


 暴狂魔(バーサク)

 またもやホールの中央から魔力が吹き上がる。

 しかし、先程とは比べ物にならない程に。

 仕方ないんだ、こればっかりは。

 ルコン以上の衝撃を皆に与えて印象を上書きする。

 俺一人の犠牲でルコンが楽しく過ごせるなら……

 魔力を右手に集め、いざ。


「す、ストップ!! 辞めたまえ! 結構、もう結構だ!」


 シュラウドからの制止で試験は強制終了。

 周りの生徒達から漏れる声は一層強さを増した。


「え、あっちも?」

「おいおい……なんだあいつら……」

「お兄ちゃんって呼ばれてたけど……え? 種族違わない?」

「てことは……お義兄さん(おにいさん)!?」


 グッバイ、俺の安寧な学園ライフ。

 あとルコンはやらん。誰だ最後のヤツ。



 こうして俺達の入学試験は終了。

 結果は文句無しの合格、おまけに特待生枠。

 ついでにおまけで周囲からは『無加減兄妹』と呼ばれてしまうことになるのだが……

 さて、どうなることやら。

ブックマーク登録や☆評価での応援、よろしくお願い致します!

感想やレビュー等、皆様からの全てのリアクションが励みになります!

感想は一言からでもお気軽に♪


どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ