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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第四章 ―赤龍討伐―編
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第三十九話 「未来へ向けて」

 それは足跡であった。

 二つに分かれた(ひづめ)を持つ、一メートルは優に超える巨大な足跡。

 グランロアマウンにおいてこの様な蹄を持つ魔獣は一種類しか存在しない。

 冠山羊(クラウンゴート)

 しかし、この大きさは。


「これ、()()()()よりも大きい、ですよね……」

「まさか、ヤツはサンガクではなかった?」

「この足跡の主がサンガクだとしたら、俺達が倒した個体はせいぜい群れのボスってとこだろうな。

 なぁイラルドのダンナ、サンガクの大きさについての詳しい情報は無ぇのか?」

「判明しているのは五メートル程の巨体を持ち、他の個体とは全てにおいて一線を画すということだけだ。

 なにしろ、討伐から逃げ延びた冒険者達も半狂乱に陥っていてまともに会話を出来る状態ではなかった。

 サンガク自体、元々標高の低い場所での目撃例は極端に低く、人間に対して進んで接触してくることはなかった」

「ともかく、だよ。

 この足跡はそこまで日数が経ってない。

 サンガクと思われる個体は僕達が倒したもの以外にも存在しており、この先にいる可能性は十二分にある」


 なんてことだ。

 ゼールが魔素瓶を使い、一級魔術で仕留めきれなかったヤツが、サンガクではなかった?

 群れのボスと思しき個体でさえあの威圧感を放っていた。

 それ以上の、Sランク魔獣。


「ま、いるもんはしょうがないわな。

 出てきたらそん時は仕留めるだけだ」

「その通りだ。

 ここまで来た以上、後戻りは出来ん」


 レギンとグウェスの二人がお互いを見合ってフッと笑う。

 この二人、たまに謎の共鳴をするんだよな。


「サンガクの存在が改めて確認された以上、ここから先はより一層の警戒を心掛けてくれ。

 今日の目標は3000メートル地点だ。行くぞ」



 ――――


 同時刻、王都ロディアスにそびえる、王城ロードス内。

 臣下の一人も居ない王の間にて、ダルド王はある人物と話していた。

 アトラ王国国王、セイルバン・アトラ。

 ホログラム映像の様に映し出される男はおよそダルドと変わらぬ六十代程の年齢で、肉体は屈強な戦士の如く鍛え上げられているのが見て分かる。

 遠く離れたアトラとロデナスでは、急をせく際にはこのように、通信魔術陣によって遠方とのやり取りを可能とする。



「…………貴様、正気か?」

「正気もなにも、ワシは昔からそうしてきた。

 それを、これからは大陸全土に広げようというだけよ」

「半魔の人権を認めるなど……かの人魔大戦が何故起こったのかを忘れたのか?」

「無論忘れてなどおらん。

 だが、半魔が皆あのようになる訳ではない。

 それはおヌシもわかっておろう?」 

「可能性が僅かでもある以上、危険分子をむざむざ野放しになど出来るものか。

 我々は国を、民を守るために行動せねばならん」

「半魔は民では無いと?」

「そう言っている」


 その返答に、ダルド王は思わず溜息をつく。

 なんて頭の固いやつだと、心のなかでごちる。


「ロデナスでは既に半魔を人間として正しく迎え入れる準備を進めている。

 これは民達にも公表済みで、皆納得の上での政策だ。

 現段階で半魔を自称する者も数人名乗りを挙げている。

 分からんか、これは民意でもある」

「貴様……!既に、だと!分かっているのか、それは世界の均衡を崩す行いかも知れんのだぞ!」

「ハッハッハッハ!!

 全ての人が正しく人間としてあれん世界であれば、崩してしまった方が良かろうよ。

 セイルバンよ、おヌシらアトラも半魔を受け入れよ。魔土と凡人土を繋ぐアトラだからこそ、それには大きな意味がある」

「……ならん。断じて否だ」

「そうか……これは独り言だが、ロデナスが半魔を受け入れる以上、大陸に散っておる半魔、アトラにも多少はおるだろう半魔達が居場所を求めてロデナスに渡るのは時間の問題だろう」

「脅しているのか?」

「独り言だと言ったであろう。

 なんにせよ、アトラも変わらざるをえんということよ」


 セイルバンはダルドの言葉を受け、目を瞑り静かに考えを巡らす。

 葛藤、逡巡、王として下すべき決断を、決めかねている。


「あぁそうじゃ! 近々数年内に、アトランティア魔術学校に半魔の少年が通うことになるでの。

 よろしく頼むぞ」

「なにを勝手な――」

「ほい、通信終了」


 王同士の会話とは思えない程の気軽さで、ダルドは通信を切る。

 背もたれに深く身体を預けながら、大きく息を吐く。


「老いぼれが出来るのは、若い世代が歩く道を少しでも(なら)してやることぐらいだろうよ」


 ドアがノックされ、返事を待つことなく開かれる。

 定刻になれば入れと言いつけたのは、他でもないダルド自身だ。


「王、お疲れのところ申し訳ございませんが……」

「よい、受け入れた半魔達の居住区についてであろう。王都西方の一ブロックを解放して――」


 人々を変え、世界を変える。

 今日もどこかで、人は戦う。



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