第百十八話 「解呪」
「リメリア――!? 貴方何を……!?」
「先生――堪えていて下さいね……!!」
そう言ってリメリアはゼールに抱きついたまま魔力を高め始める。
それは先程の一級魔術を行使した際と同等、またはそれ以上の出力であり、ゼールはリメリアの狙いを理解出来ないまま混乱した。
(まさか自爆!? いえ、そんなことをする子じゃない……それに敵意は感じられない。それなら……)
「――!?」
突如として体を襲う違和感。
それは、外部から入り込んだ触手が体内を這い回って頭へと登っていく様な気持ちの悪さであった。
しかし同時に、その正体が自身にしがみつくリメリアの発する魔力と気づくのにそう時間はかからなかった。
「見つけた……! 先生、束縛を抑えていて下さい!」
「まさか貴方――束縛を解呪するつもり……!?」
「はい! ずっと思ってたんです。仕掛けられたなら解呪することだって出来る筈だって。それはきっと被術者には不可能。なら他に出来るのは仕掛けた本人か第三者だけ!」
リメリアの推測は概ね正しい。
束縛に限らず、対象を蝕む呪いの解呪は可能である。
モノにもよるが、中には被術者本人で解呪可能なモノもある。
束縛はその効力故に被術者本人での解呪は不可能であるが、第三者であれば話は別だ。
同時に、ある問題も存在する。
それは解呪難易度の高さである。
束縛が作用するのは対象の脳。
解呪には魔力を脳へと直接流し込み、脳に巣食う根源を丁寧に剥がす必要がある。
おまけに魔力を他人の体内に流し込む都合上、他者の魔力が常に蠢く体内での魔力操作は困難を極める。
通常であれば理屈は理解出来れど、到底成功する試みではない。
――――はずだった。
(外れていく……! 私の内の束縛が!)
次々と頭の中で結び目が解かれていく感覚。
初めこそ体内を弄られる感覚に不快感を覚えたが、自身を蝕む呪いを解いていくリメリアの卓越した魔力操作技術に関心する気持ちが勝っていった。
同時に、自身のすべきことを再認識する。
(私はコルニクスからの干渉を全力で抑える!
この子が解呪を完了するまでッ! 待っていなさい――コルニクスッ!!)
「「ハアァァァァァァッ!!」」
師弟の想いが交わり、決意の猛りが共鳴する。
――――
「――! なんだ……これは……?」
「いかがなさいましたか、王?」
突如自身の脳を弄られる様な感覚に不快感を示すコルニクス。
共に竜巻の内で街を見下ろす配下達が顔色を伺うが、コルニクスは頑として部下に打ち明けることは無い。
コルニクスは部下はおろか、息子達でさえ自身の目的を達成するための道具としてしか見ていなかった。
昔仕えた『魔人王』のような半魔の可能性を追求するため、捉えた良質な人族と番って成した子ども達。
その中で最も出来の良かった三人が、ウロウ・サロウ・ムロウであった。
手塩にかけて育て、活魔剤という秘策まで持ち出してなお期待に応えられない息子達。
期待外れだと、また新しい半魔を作ろう、くらいにしかコルニクスは思わなかった。
そして、せっかく捕らえたゼールの敗北。
全てが想定を下回った結果に苛立ちを覚えていたところに、追い打ちをかけるように。
(なんだこれは……何かが入ってくる……? いや、違う。これは――接続への干渉か!?)
だが、気づいた時にはもう遅い。
噛み合っていた歯車が軋み、外れる様に。
自身の手から握っていた手綱が離れる様に、ゼールを縛っていた束縛の制御権が失われた。
「なっ――まさか……あの小娘が!? この――下等な雌がァァァッ!!」
「お、王!?」
コルニクスは展開していた竜巻を解除し地に降り立つ。
前触れもない激昂に部下たちは困惑しながらもそれに追従する。
「これより特級魔術の発動にかかる! 貴様らは魔石の準備に取り掛かれ!」
「はっ……しかし王よ! まだ街には同胞やウロウ様達が――」
「聞こえなかったか? 我輩はなんと言った?」
「い、いえ……承知しました」
王の命を受けて動き出す部下を尻目に、コルニクスは丘の上から街を見下ろす。
もはやなりふり構ってはいられない。
この街にいる者たちは生かしては返さぬと、その瞳は怒りに燃える。
「我輩をここまでコケにしてくれたのだ。我輩が手ずから、この街ごと消し去ってくれよう!!」
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