第百五話 「予期せぬ訪問者」
「なん……だって……?」
ウロウとサロウ、二人の口から明かされたコルニクスとカルヴィスの野望。
それは半魔を今一度迫害し、再度純血の世界を創りあげることであった。
「そ、そんなことしてどうするんですか!?
せっかく皆一緒に仲良く暮らせているのに……!」
「狐族のガキ、テメェは新たな世界の恩恵に預かれるんだ。文句を抜かすな」
「そうですよお嬢さん。父上達はあくまでも純血には寛大な御方です。ただし――」
ウロウとサロウが俺を見てニヤリと笑う。
新たな世界の代償、その犠牲となりうる存在をルコンも悟って隣の俺を向く。
「貴方は別だ。ライル・ガースレイ。
『龍殺しの半魔』にして半魔共生の立役者。世間じゃ随分と持て囃された様ですが、なにもそれが全てじゃ無い。
貴方の存在を快く思わない者もいるのですよ」
「そういうことだ。今のうちにド田舎へでも隠居するこったな」
「させる訳ないだろ! そもそもそんなこと出来るはずが無い! 反対者だってかなりの数が出るぞ!?
いくら魔王と領主だからって不可能だ!」
世界はここ数年で良い方向に変わり、確実に幸せになった人が増えた。
それを壊すだと? 許されないことだ。許してはならない。
何よりも世界がそれを良しとしない。
初めから破綻している計画であり、こいつらが言っていることは愚かな夢物語に過ぎない。
なのに、なのにこのモヤモヤはなんだ?
笑い流せばすむだけのことに、妙に心が引っかかる。
「不可能、ですか。でしょうね、我々だけであれば。ですが――」
「サロウ、話しすぎだ」
「おっと……いけないいけない。ともかく、今後の身の振り方には気をつけた方がよろしいですよ」
そう言って二人は俺達の横を通り過ぎて子供達の方へと行ってしまった。
未だ敵意こそ感じられないが……いや、半魔を迫害するという発言こそ敵対表明と取れるか。
「お兄ちゃん……」
「……一旦戻ってリメリアにも共有しよう。リメリアも親父さんとの会話で何か掴んでるかもしれない」
帰り道の雰囲気は重く暗いものであった。
憤りこそあれど、実際問題どのようにして対処すればいいのかさっぱり分からない。
大声で民衆に向けてバラしてしまうか?
いや、いくらなんでもそんな突拍子も無いことを信じないだろう。
いっそのことコルニクスの寝首を掻くか?
いやいや、それはもっと無理がある。
相手は現役の魔王なうえに周囲にはウロウやサロウ、他の部下だっているだろう。
なによりゼールがいる。
先ずは彼女の真意と目的、それも確かめなければ。
俺やルコンを育ててくれたゼールが、あんな奴らに加担するとは思えない。
屋敷に戻ると門兵が笑顔で開けてくれ内に通してくれた。
館の入り口では若いメイドが掃き掃除をしており、隅々まで丁寧に行き届いている。
メイドは俺たちに気づくとお辞儀をして扉を開けてくれた。
この館の従事者達は皆一様に快く迎えてくれる。
それだけ教育が行き届いている証拠なのだろう。
「おかえりなさいませ」
「どうも。リメリアを見ませんでしたか?」
「お嬢様でしたら自室にいらっしゃると思いますよ。お呼びして来ましょうか?」
「いえ、自分で尋ねます。ご丁寧にありがとうございます」
自室にいるというリメリアの元へと向かうため二階に上がり、廊下の突き当たりを目指す。
部屋の扉をノックして呼びかけると、少ししてリメリアが顔を出す。
「あぁ……おかえり」
「おう――って、顔色悪いぞ? どうした?」
「熱ですか? どこか体調悪いです?」
「ううん、平気よ。入って。私がパパに聞いたことを教えるわ」
どう見たって元気の無いリメリアだが、それでも強がって内に招いてくれる。
部屋の中は必要最低限の家具と観葉植物しか無く、女の子らしい装飾や可愛らしい置物等は一つも無い。
女子の部屋だ! なんて期待してはいなかったが、これでは高級な宿と大差無い。
少し残念な気持ちを抱えつつも中央の椅子に三人で座り、話を切り出す。
「俺達はコルニクスの息子達、ウロウとサロウに話を聞いて奴らの目的を聞き出した。
奴らの目的は半魔共生の世を壊して、もう一度純血主義の世界を創ることらしい」
「私がパパに聞いたことと一緒ね……それと――――」
リメリアも父カルヴィスに聞いたことを話す。
内容こそ俺達が聞いたものと大差無いが、それを行う理由である根幹、人魔大戦で台頭した『魔人王』の存在とその真実には驚くべき事実が隠されていた。
半魔は皆何かしらのデメリットを抱えて生まれるが、ごく一部の者はリミッターが外れると純血種を上回る力を発揮する例もあるという。
現に俺の『暴狂魔』は本来闘魔族では制御出来ない現象である。
それを人間の理性が強く残る半魔の身である俺は制御可能になっているという訳だ。
つまりカルヴィスやコルニクスは半魔が迎え入れられ増え続ける世界で、新たな『魔人王』の様な力ある存在が生まれるのを危惧しているということだろうか?
理由は理解出来ないことも無い……が、それでも今の世界を壊すという思想はやりすぎだ。
そもそもどうやって? どのようにして世界を変えるような革命を起こすのだろうか?
「親父さんは手段や方法については何か言ってなかったのか?」
「何も。話の途中でコルニクスが割って入ってきたからそれ以上は聞けなかったわ」
「そうか……」
「ダルド王みたいに演説するんじゃないです?」
「流石にそれだけじゃどうにもならないだろ……ん?」
突然扉がノックされ、全員で振り返る。
使用人の誰かだろうか?
リメリアが立ち上がって扉に向かい『誰?』と尋ねる。
「私よ。三人とも、いるわね?」
声の主は俺達三人の共通の師である、ゼールのものであった。
リメリアは驚きで一瞬立ち止まるもののすぐさまドアノブに手をかけて扉を開く。
そこには純白のローブを纏い四つの魔石が収められた『四元の杖』を持つ薄紫髪の美女、ゼールその人が立っていた。
見たところゼールは一人で他に連れ立っている者もいない。
「安心して。私一人よ。貴方達に伝えたいことがあるの。良いかしら?」
「え、あ、はい……どうぞ……」
ゼールは俺達同様にテーブルを囲う椅子に座ると、口を開いて衝撃の一言を放った。
「貴方達三人とも、明日にでもこの街を出なさい。
この街は消えてなくなるわ」
「「――え?」」
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