第九十七話 「サントールへ向けて」
会談を終えて、カルヴィスが用意してくれた来客用の迎賓館にコルニクス達は戻る。
そこにはコルニクスとゼールだけでなく、コルニクスが連れてきた臣下達も共にいた。
「いやはや、カルヴィス殿が話の分かる方で良かった。
貴方もそうは思いませんか? ゼール・アウスロッド」
「…………」
「釣れない方だ。さて――息子達よ、凡人土の空気はどうだね?」
コルニクスが見渡した広間には十数名の鴉族の他に、彼等を従えるようにして三名の若者が中央に立っていた。
一人は鴉の様な右翼を持ち、父親譲りの白髪を右に流している。
一人は対照的に左翼を持ち、同様に白髪を左に流し。
そして残る一人は翼を持たず、髪をセンター分けにしている。
「魔素が薄いってとこ以外は気にならないかな」
「ウロウ兄は呑気だね。まるで平和ボケした人族みたいだ」
「んだとぉ!? サロウ! まずテメェから八つ裂きにしてやろうか!?」
「あーうるさいうるさい。ところで父上。
こんな出来損ないまで連れて来る意味ありました?
ただでさえ荷物は多いのに」
ウロウとサロウと呼ばれ合う双子の鴉族は揃って、少し後ろに控えているもう一人の人物を見る。
センター分けにした白髪の間からは、自信無さそうな瞳が二人を見つめている。
「こらこら、大事な家族であり兄弟だ。
ムロウの事をそんな風に言うものじゃない。
ムロウも、特に問題は無いか?」
「は、はい……お父様……」
「うむ、結構。我輩は忙しくなる。
細かい事はお前達で上手く進めておいてくれ」
息子達はそれぞれに返事をし、それを確認してコルニクスはゼールへと向く。
「貴方は自由にしてもらって結構ですよ。
まぁ、不自由なりにですがねぇ」
「……」
嫌味な笑顔を作るコルニクスをゼールは意に介さず、そのまま広間から出て行ってしまう。
それを気に食わないと言わんばかりに右翼のみのウロウが声を張る。
「父上! なんでアイツまで連れて来る必要が!? そもそもあんな奴は殺してしまって良かったじゃないか!」
「こればかりはウロウに賛成ですね。『全一』ゼール・アウスロッド。
かつて父上の片翼を奪った程の実力者とは言え、不安要素が過ぎるのでは?」
「お前達の言い分はもっともだが、彼女は逆らえない。
アレらがある限り、な」
――――
「よし、行くわよ」
「はいですっ!」
リメリアと話した翌日には準備を整えてアトラを発つことになった。
急だったのであまり大した用意は出来てないが、とりあえずは旅の軽装として外套を羽織って『禍穿ち』を持ってといったところか。
ルコンも動きやすい半袖とショートパンツに赤龍の外套を羽織っている。
リメリアは元々冒険者として動き回っている為、普段通りの白のローブにパンツスタイルの冒険者装だ。
今回は凡人土の中で最も栄えるアトラの王都に比較的近い街が目的地なこともあり、そこまでゴテゴテに装備を整えなくて良いのは気が楽だ。
リメリアの故郷であるサントールという街までは徒歩で四〜五日くらいらしい。
号外で見た邪智魔王との会談日が三日前になるので、恐らく新聞屋は早馬か転移魔術便でも使ったのだろうな。
「なあリメリア。良かったら家族について聞いてもいいか?」
「え、なんでよ……」
「なんでって、これから会いに行く訳だし俺達だって多少の事情は知っておいた方がいいだろ?
そりゃあ嫌なら言わなくてもいいけど」
「いや……嫌ってわけじゃあ……あ〜〜もう、分かったわよ!」
当分の間は暇な時間が続くし、せっかくなのでリメリアの実家について聞いてみた。
彼女は最初こそ渋っていたが、流石に付いてきてもらう手前何も喋らないのも筋が通らないと観念したのだろう。
「私はサントールって街のテオール家に生まれたわ。テオール家は代々サントールを治める事をアトラ国王より任せられて、今は私のパパ、カルヴィス・テオールが領主となってるわ」
「ほむほむ……」
「ルコン、わかってる?」
「なっ!? ば、バカにしないで下さいお兄ちゃん! リメリアさん! 続きを!」
「え、えぇ……」
リメリアは他に弟と妹がいること。
カルヴィスはどちらかと言うと保守派寄りで、リメリアいわく頭でっかちの石頭らしい。
言い出したら自分が正しいと思い込み、子ども達の意見は聞かないと。
確かに、以前リメリアと話した時には、父親は魔術の道に進むのを反対していたと言っていたな。
貴族のお家事情は色々あって俺にはわからないから何とも言えないが、自分が親なら子の好きにさせてあげたいとは思っちゃうな。
まあ子ども出来たことないけど。
「それでパパったらなんて言ったと思う!? 『お前には魔術の才が無いから諦めろ。ゼール殿には一生かけても追いつくことは無い』って言ったのよ!
腹立つ〜〜!! そんなこといちいち言わなくたって、自分の才能くらい自分で分かってるわよッ!!」
「あわわ、リメリアさん落ち着いて!」
いつの間にやらヒートアップして父親の愚痴が止まらなくなっている。
マシンガンのようにあれやこれやと過去に鬱積された思いが放たれている。
よし、ルコンに任せよう。
「ちょっとライル!! 聞いてるの!?」
「ひッ!? き、聞いてます!」
「じゃあどう思う訳!?」
「え、いやその……リメリアは実際魔術士として卓越した技量を持つとは思ってるし、それでも一級魔術は中々辿り着けないってだけで、才能が無いとかでは――」
「今話してるのは私が飼ってたウサギの名前についてよッ!!」
「あべァッ!!??」
「お、お兄ちゃーーーーん!?」
右頬に平手打ちがクリーンヒットする。
錐揉みしながら倒れ、ヒリヒリする頬を擦る。やだ、凄い腫れてる……
何だよウサギの名前って……さっきまで父親の話だったじゃん。
え? リメリアが付けた名前が気に食わなくて勝手に改名された話? そんなぁ……
「まぁ、でも? その、私に才能が有る……って? アンタは思う訳でしょ……? それはまあ、ありが、と……」
「お、おう……」
謎のツンデレを発揮されてお礼を言われるが、まずは平手打ちを謝って欲しいものだ。
そうだな、とりあえずは
「もう、殴らないでね……?」
「あ、ごめん」
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