「邂逅」
いつも拙作をお読みくださりありがとうございます!
更新が遅くなってしまい申し訳ありません……
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、先日新作短編である「崩壊世界のマキナ」を新たに投稿致しました。
一話完結のポストアポカリプスものです。
そちらもよろしければ是非ともご一読下さいませ!
旧暦九百九十四年、ゼールが故郷であるボッセルを旅立ち三年が経過した。
最初の一年は頭の中に記憶していた地図を頼りに魔土を北へ進むが、幼い少女一人での旅路が安全な筈も無く。
野盗に魔獣、悪天候や環境までもが彼女を襲うが、この全てを尽く退けてみせた。
道中の食事は本で得た知識を頼りに、路銀はゆく村々で魔獣退治をして日銭を稼いだ。
旅をしながらゼールが感じたことは『世界は広い』というありきたりな感想と、『どこか虚しい』という空虚であった。
ゼールは稀代の魔術適性を持って生まれ、その才能を開花させたものの、本人は魔術自体に特に思い入れは無い。
ゼールにとって魔術とは、生きていく上で自身が最も得意とする武器。それだけであった。
故に、魔術を極めたい訳でもない彼女にとって目的の無い旅は、ただ世界を彷徨うだけの、彼女が最も忌避するべき『無駄』に過ぎなかった。
空虚なまま迎えた二年目にして、ゼールは魔土の北端付近の村へ辿り着く。
そこでは数年〜数十年に一度の海魔襲来に備え、多くの人族と魔族が集結していた。
ゼールは『海魔』と『海』に興味が湧き、海魔討伐隊に志願した。
当然ながら、杖すら持たぬ幼いゼールを見て誰もが彼女の志願を鼻で笑った。
しかし、ゼールは一切歯牙にかけず持ち前の魔力で周囲を威圧し、自身の参加を認めさせる。
そうして来る海魔襲来時、誰よりも早く術名を口にし、一番槍となってみせる。
「山落とし!」
幼き少女が唱えた土性一級魔術に、誰もが息を呑んだ。
山のような土塊を海魔達の頭上に落とし、一人で半数以上を仕留めてみせた。
触手を持つ軟体動物のようなものから、魚の頭を持つ魚人、はたまた手足の無い巨大なヒトデまで、多くを殺し多大な戦果を飾った彼女の名は瞬く間に大陸を駆け抜けた。
「まだ十三の子どもが一級魔術を使うんだとよ!」
「今回の海魔討伐数はダントツでそいつらしいぞ」
「いったい誰なんだそのガキは!?」
ゼール・アウスロッド。
ゼールが旅立って二年と僅かにして、その名を知らぬ者はいないほどに、彼女の存在は広く知れ渡った。
そうして三年目、ゼールは十四歳になり旅の進路を東へと進め、凡人土へと足を踏み入れた。
当時はアトラへ渡る橋も常に開け放たれており、人々の往来は自由であった。
初めての国、そして街。大きな建物に溢れんばかりの人。
この時ばかりは流石のゼールも僅かに気持ちが高揚した。
だがすぐに彼女は足を進め、目的地である冒険者ギルドへと向かう。
当時の冒険者ギルドは、アトラ王国とロデナス王国の各地にしか拠点を構えておらず、魔土にはその手を広げていなかった。
これからの生活を考えれば冒険者になっておくに越したことは無いとゼールは考えた。
受付から加入まではスムーズに進み、ゼールはEランク冒険者としての証を手に入れた。
そこから当面の間はアトラを拠点に生計を立て、着実にランクを上げてその名声を轟かせた。
一年前から広まりだしたゼールの名は当然ながらアトラにも浸透しており、彼女とパーティを組みたがる者は後を絶たなかった。
しかし、ゼールは誰とも組まずただ一人で依頼をこなし続けた。
『他人は信用出来ない。それは魔土でさんざん見てきた。だから一人でいい』それがゼールの考えである。
ある日ゼールがアトラ王国から少し東に位置する村に訪れた時、二人に囲まれた鍛工族を目にする。
「おいドルフ! いい加減俺に武器を作ってくれよ!!」
「待てよ、こっちだってずっと待ってんだ! おい、俺から頼むよ!」
「おめぇさんら、勝手を言うんじゃねぇよ。ワシは気に入ったヤツにしか打たんと決めてんだ。まずはその態度から改めてきな」
「んだとぉ……!?」
(喧嘩……絡まれているのは鍛工族……面倒なものを見たわね)
いっそ無視してしまおうか、なんてゼールが考えていると、鍛工族の男が大きな声を挙げて呼びかけてくる。
「おいそこの嬢ちゃん! あんた魔術士だろ! こいつらをどうにかしてくんねぇか!? 礼ならするぞーー!!」
「…………」
「テメェ……! 俺達がこんなガキなんかにどうにかされるとでも思ってんのか!?」
「けっ、おめぇさんらじゃそこの嬢ちゃんに勝てんよ。そんな男共に作ってやる武器が泣くとは思わんか?」
「いいぜ、やってやるよ……! おいガキ、恨むなよ。ここまでコケにされて黙ってらんねぇんだよ」
「コケにしたのは私では無いと思うのだけれど」
「うるせえ!! ちょっと寝てろやッ!!」
完全に逆上した二人の男がゼールへと襲いかかる。
峰打ちのために鞘から抜かれぬまま武器は振るわれるが、それでも生身に当たればひとたまりもないだろう。
それが当たればの話ではあるが。
「吹雪」
「あ――冷ッ!? つ、あちょ、待っ」
「ヒィィッ!? こおっ……凍るぅ!!??」
「ガーッハッハッハ!! 情けないのう! あんだけ偉そうにしておったのに、ざまあないわい!」
「…………」
一瞬で頭以外を氷漬けにされた男達の横を通り過ぎ、勝手に男達をけしかけた上に一人で爆笑している鍛工族へと近寄る。
120センチ程しかない体、顎には豊かな髭を蓄えている。
ゼールが感じ、この男に問いかけようとしたことは怒りではなく、ある疑問だった。
「貴方、どうして私が魔術士だと分かったの? 私は杖も持ってないし魔力だって隠しているわ。なぜ?」
「ハッ! ワシは人を見る目には自信が有るんでのう。そんなのは一目見るだけで一目瞭然じゃ!」
「質問に答えて。なぜ、分かったの?」
「……分かった分かった。話してやる。ワシの家まで来い。礼のついでに茶でも淹れてやる。あぁ、お前さんら! もう来るなよ!」
「「あのクソドワーフ……!!」」
渋々ながら鍛工族に付いていくと、村の外れにある小さな一軒家へと辿り着く。
家の外には同じくらいの大きさの工房らしきものもある。
家の中は質素で、机や椅子などの家具は全て標準よりも小さく作られていた。
「小さくて悪いな。座んな」
「早く話してくれないかしら」
「ったく、可愛げのない嬢ちゃんだ。……まあいい。おめぇさん、魔力が綺麗過ぎるんだよ」
「どういうこと?」
「魔力ってのは抑える過程で、多少なりは漏れ出るもんだ。その漏れは揺らぎやブレに繋がる。だがおめぇさんの魔力は全身を均一に包んだまま、全く揺れてねえときた。自然体ならもっとブレる。つまり、おめぇさんは極上の魔力操作術を備えてるって訳だ。そんなやつが魔術士じゃねぇなんて方が無理があるってもんだ。大方、昔から魔力操作鍛錬をずっとやってきたんだろうよ。え?」
「……ごめんなさい。少し貴方の事を侮っていたわ。確かに、人を見る目は確かなようね」
鍛工族が語ったのは独自の着眼点による分析であったが、それは正確に真実を捉えていた。
それに関してはゼールも認めざるを得ず、素直に驚嘆していた。
「だから言ったろ。それに、おめぇさんを見た時は我が目を疑ったぜ。杖も持たねぇ嬢ちゃんが、芸術みてぇな魔力を纏ってやがんだからよ。おっと、忘れてた。ワシはドルフだ。改めて礼を言わせてくれ。さっきは助かった、ありがとな」
「ゼールよ。ゼール・アウスロッド」
「ゼールか、良い名だな。ところでゼールよ、なんで杖を持たねぇ? 魔術士は大抵が杖を持つもんだろ?」
「魔石による強化は勿論知ってるわ。けど、両手が空いてる方が便利でしょ?」
「――ガッハハ! おもしれぇ! そんな理由で杖を持たねぇ魔術士は初めてだ! どうだゼール、杖を持っちゃみねぇか!?」
「はぁ……別に要らないわ」
ゼールとドルフ、これが二人の出会い。
後に『全一』と呼ばれる者と、名匠として多くの作品を残し続ける者。
その出会いの縁はやがて、未来の若者へも繋がっていく。
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