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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第六章 ―魔石鉱山―編
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第九十四話 「決意新たに」

 小一時間は経っただろうか、オー姉と一緒にルコン達の元へと戻る。

 腕組をして不機嫌そうなリメリアに反し、俺の顔を見てルコンは心配そうに駆け寄ってくる。


「お兄ちゃん……!」

「ごめん、驚かせたな。もう大丈夫」

「ねぇ、その『もう大丈夫』ってのは()()対して? 暴走したこと? それともあれだけ躊躇ってた殺しを平気で行ったこと?」

「――どっちもだ。暴走もしてないし、俺は自分がした事を受け入れる。そして、これから先……また大事な誰かが危険な目にあったなら、俺は迷わず相手を殺してでも守ってみせる。それが俺の迷わない生き方だ」

「…………そう。ならいいわ」

「本当に、本当にそれでいいんですか!?」

「あぁ。もうしたことは巻き戻らない。これから先、またあんな奴らと対峙して一切躊躇なんてしてられない。だから、俺は決めたよ」

「……ルコンの、せいです……」


 ボロボロと涙を零し、自身の負傷のせいと自責に陥るルコンを優しく撫でる。

 それは違うと、あの時俺に力が有れば、覚悟があればもっとマシな結果になっていたかもしれない。

 でもきっと、それではルコンは納得しないだろう。

 ロデナスでのウルガドとの一件もある。

 だから――


「違うよ。違うんだルコン。俺も足りなかった、何もかも。だから、二人で強くなろう。

 二人でお互いを補い合って、もっともっと強くなろう」

「〜〜っ! はいっ!!」


 クシャクシャの泣き顔で、けれど精一杯の笑顔を見せてくれる。

 金色の耳と尻尾はゆらゆらと揺れ、優しく陽の光を弾いていた。



 ----



「んん〜〜! 帰ってきたわね、我らがアトラ!」

「あっという間の二週間弱でしたね」

「凡人土の近場ならこんなものよ。それでオーレン、ギルドに直行でいいのよね?」

「えぇ、皆で行きましょう」


 アトラを発ち、二週間弱の往復を経て久々に人々が行き交う光景を見た。

 短いながらも壮絶な旅路であった。

 盗賊達との交戦、村の惨状、鉱山での死闘。

 そして、オー姉という新たな人生の師との出会い。

 それら全てが、俺の糧となるだろう。


 ギルドの扉をくぐり、オー姉が代表してカウンターへと報告に向かう。

 少し話すと受付嬢が奥へと引っ込み、白髪混じりの短い黒髪に傷だらけの肉体を持つルギオン・バーゼンを連れて現れる。


「良く戻ってきてくれた。四人とも無事で何よりだ。奥へと行こう、詳細はそちらで」


 依頼の説明を受けた時と同様の部屋へと案内される。

 テーブルの向かいにルギオンと書記が座り、その横角にオー姉が一人で、俺とルコンとリメリアがソファへと掛ける。

 基本的にはオー姉が一人でほぼ全てを説明してくれた。

 流石はSランク冒険者、こういった依頼の報告は慣れたものなのだろう、スラスラと淀み無く、無駄無く報告を続けていく。

 鉱山の状況とガヴとギウ、そして先んじて依頼を受けた冒険者達の末路。

 報告を受ける間、ルギオンは腕組みをして黙って聞き入り、書記はペンを走らせ続けた。


「なるほど……ガヴとギウがな……いや、良くぞ、良くぞ無事に戻ってきた。

 亡くなったトーンとメナも報われるだろう。

 オーレンバックも、そして三人とも。有難う。ギルドを代表して礼を言う」

「礼ならいいわ。それよりも報酬と約束の昇級、きっちりお願いよ?」

「ガッハッハ!! リメリアくんはせっかちだな! 無論、そちらもしっかりと用意しているとも。

 報酬はそれぞれ二騎紙を用意した。そしてルコンくんとリメリアくんはAランクへ、ライルくんをSランクへと昇級することをここに認める!」

「おめでとう、三人とも。貴方達ならそれぞれのランクに恥じない活躍が出来るはずよ。お姉さんも鼻が高いわ〜〜!」


 先日は自称おばさんだったろ……コロコロ変わるオッサンだな。

 ともあれだ、これで俺は晴れてSランク冒険者だ。

 リメリアも得意げな顔をしているし、ルコンはもらった騎紙を目を輝かせて掲げている。

 驚いたな、実際これはかなりの大金だ。

 一般的な月の生活費が三剣紙(三万円程)に対し、二騎紙(二十万円)は年の七割近い生活費にあたる。

 ルコンに持たせてもいいものか兄としては悩みどころだな……


「それではこれにて本件は完了とする。皆、本当にご苦労だった。それぞれ疲れを癒やしてくれ」

「アタシもまだアトラで依頼をこなすつもりだから、また縁があれば会いましょう。じゃあね三人とも」

「オー姉さん、お世話になりました。また必ず」

「また一緒に冒険しましょう! 今度はもっと強くなってます!」

「まあ……世話になったわね。またね」


 三人で部屋を出てギルドを後にする。

 リメリアがう〜んと背伸びをし、ルコンは大きな欠伸をしている。

 時刻は夕暮れ、直に暗くなる頃合いだ。


「それじゃ、私は宿に戻るわ」

「ご飯一緒にたべないんですか!?」

「疲れたからパス。どうせまた会うでしょ?」

「薄情なんだか合理的なんだか……まあそうだよな。じゃあ俺達も帰ろう」

「うぅ〜〜……リメリアさん! また〜!」

「はいはい、またね」


 街並みへと溶けるリメリアを手を降って見送り、学校の方学へとルコンと歩き出す。

 疲れはしたが腹は減っているし、ルコンの言う通り何か一緒に食べて帰るとするか。

 すると、ルコンがキュッと俺の袖を引っ張ってきた。


「ん? どうした?」

「その……今日は久しぶりに……」

「?」

「お兄ちゃんと一緒に寝たい……です……」

「はうあァッ!!??」

「お兄ちゃん!?」


 危ねえッ! 死にかけた……!!

 ルコンと兄妹の様に接してきて約四年、すっかり可愛さには慣れたものだと思っていたが……

 いかんな、油断は禁物ということか……


「ダメ、です……?」

「ンン駄目じゃないッ!! 今日は宿を取ろう!」

「〜〜! ヤッターーです!」


 断っておくが、俺とルコンの間に兄妹愛以上のやましい関係は一ミリたりとも無い。

 ルコンの言う『寝たい』もただの添い寝だ。

 俺からしたら可愛い妹とモフモフを同時に堪能できる、この異世界最強最高の至福の時間である。

 アトラに来るまでは当たり前だったその時間も、学校の寮に入ってからはしばし縁が無かった。

『添い寝したい』なんて俺からは中々言い出せないため、ルコンからの申し出はまたとないチャンスなのだ。


 近くの宿で部屋を取り、入浴を済ませる。

 約二週間ぶりのお湯は染みる……前世なら一日シャワーを浴びないだけでも考えられなかった。

 夕食は宿が用意してくれた簡単なものであったが、落ち着いて危険もない環境で温かな食事を摂れることは幸福なことなのだと再認識させてくれた。

 なんてことはないものでも笑顔で舌鼓を打つルコンを見ていると、改めてこの光景をまた見れたことに感謝の念が湧いてくる。


 ベッドに入って布団を被ると、ルコンが小さな体をモゾモゾと動かして胸元へポスリと入ってくる。

 もう一度断っておくが、決してやましい事は無い。

 ルコンを超絶ウルトラハイパーケモミミ美少女だと認識してはいるが、妹としての情が強すぎて異性としては見れないのだ。


「お兄ちゃん」

「ん〜?」

「ルコンは……ルコンは役にたってましたか?」


 ルコンが一人称に『ルコン』を使う時は、ベタベタ妹モードの時だ。

 ここ一年程は人前では『私』を使っている分、こうして妹しての甘えを見せてくれる時は嬉しくなるものだ。

 しかし、その口を突いて出た言葉は重たいものだった。


「当たり前だろ。そもそもあの時ルコンが助けに入ってなかったら、俺は間違いなくここにいないよ」

「んへへ……それなら、良かったです」


 俺の胸に頭を擦り付け匂いを嗅がれる。

 精神はアラフォーだが肉体は十代、体臭は大丈夫だと思うがあまり嗅がないで欲しい。

 あと耳がちょうど鼻に当たってくすぐったい。もうモフモフがワサワサ当たってくる。


「ルコンはもっともっと強くなります。お兄ちゃんに迷惑かけないように……お兄ちゃんを守れるように……」

「そりゃ楽しみだな。俺も、もっと強くなるから。

 二人で一緒に強くなろう」

「…………」

「ルコン?」

「ス〜〜……ス〜〜……」


 決意を語ったルコンは既に夢の世界へと落ちていた。

 疲れが溜まっていたのだろう、今はゆっくり休んでくれ。

 さて、明日からはどうしようか?

 まだ一ヶ月以上も休みはあるし、ルコンと特訓でもするかな。



 ――――



「クソッ!」


 自分への怒りからベッドを殴りつける。

 鉱山での一戦、自分が一番役に立たなかった。

 状況や環境的にも二級以上の魔術は使えなかった?

 だから何? 一級魔術が使えるとかそういう話じゃ無い。

 シンプルに実力不足だったのだ。

 私がいたから治癒魔術で皆が助かった?

 違う。私がもっと強ければそもそも治癒魔術に頼ることも無かった筈だ。


「もっと……! もっと強くならないと……!」


 物にあたっても仕方無いのだが、拳を止められない。

 あの時のライルもこんな気持ちだったのかな……


「おい! バンバンうるせーぞ! 部屋追い出されてーのか!」

「あ……ご、ごめんなさい! はぁ……」


 何をやっているだと、自分で悲しくなってくる。

 こんなの全然合理的じゃない。

 先生ならもっとスマートに、もっと合理的にこなせていたのかな。


「私も早く一級を……もっと、力を……!」



 ――――



「それで? 何か隠しているんだろう」

「あら、お見通しなのね」


 遡ること、ライル達が部屋を去ってすぐ。

 残ったオーレンバックにルギオンが問いかける。


「――ライルちゃんの潜在能力、とてもじゃないけど無視出来ないものだったわ」

「……魔人王にも届くと?」

「さあね。アタシは大戦を経験してないから魔人王は見てないし、又聞きしてるくらいだもの。

 ただ、()()が半魔全員に起こり得る事象なら半魔を排斥した理由も納得出来るわね」

「今さら受け入れた半魔を拒絶は出来んだろう」

「それはそうよ。それに国が決めたことだもの、アタシ達がとやかく言うことじゃ無いわね。そもそも半魔を排斥しようとも思わないけど」


 言い終えてオーレンバックは椅子から立ち上がり、窓へと寄りかかる。

 夕暮れに染まりゆく街並みと人混みを感慨深く見つめる。


「今回の一件、首謀者の情報はおろかガヴとギウ、鉱山労働者達も誰一人生き残りは無し。

 解放した労働者と捕らえた者達はギウに皆殺しにされ、おまけに下っ端達には束縛(ギアス)の付与までの徹底ぶり。

 臭いと思わない?」

「…………ガヴとギウを雇い魔石を確保し、何かを企んでいる者がいるか。邪智(じゃち)魔王か?」

「どうかしらね。とりあえずアタシはアタシで探ってみるわ。放っとくとマズイ気がするのよね。女の勘ってやつ?」

「無理はするなよ」

「ふふ、パーティがあれば呼んでちょうだいね。バーイ」


 真剣だった声音と表情は一瞬にして崩れ、お気楽な調子でオーレンバックは部屋を出ていく。

 実力こそSランク内では下位にあたるものの、その性格と実績からルギオンが最も信を置くと言っても過言では無い。

 そのオーレンバックが、嫌な予感がすると言っている。


「国も、人も、思想も一枚岩ではない。新たな大戦の種になるか……はたまた……」







お久しぶりです、狐山です。

これにて第六章「魔石鉱山編」完結となります。

ここまで書いて脳内構想の半分程しか進んでない状況に驚愕すると同時に、風呂敷を広げすぎたと若干後悔しております。

六章ではライルが初めて人を殺します。

異世界転生モノでよく平気で生き物を殺したりしますけど、それが同じ人形なら……?

はたして簡単に出来るでしょうか? 割り切れるでしょうか?

日本という平和な国で育った人間だからこその倫理観を、そしてそこからの葛藤と決意を描きました。

長々と失礼しました、それではまた第七章で!




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