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【連載再開】眠れる君に出会うまで  作者: 里凪


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姿を見せ始めた人たち(6)


「これくらいにしておきましょうか」


 そう言ったアネットの微笑みは、物語の続きを聞きたそうにしている私に気づいたことで困り顔に変わった。


「お嬢さまが熱心に聴いてくださるので、つい調子に乗ってしまいましたが、これ以上長々とお聞かせするのは気が引けます……」

「そんなこと……! 語り方がお上手なので、とても楽しいです!」

「まぁ……! ありがとうございます。実は家庭教師をしていた時、子供たちからせがまれて、よくこの物語を読みましたの。でも、まさか自分がこんなに覚えているとは思いませんでしたわ。なんだか懐かしくなります……。子供たちは、難しい! なんて言いながらもこのお話が大好きで、『貴族ごっこ』をして遊ぶくらいでしたのよ」


 当時の思い出に浸るように、アネットが目を細める。


「……では、その子たちにしてあげたように、私にも最後まで聞かせてください」


 そう言って私がにっこりすると、アネットは目元を緩ませて「承知いたしました」とゆっくり微笑んだ。


「それでは続きを……。


 ……次第に一部の貴族から、思いも寄らない声が出てくるようになったのです。


 ある公爵は言いました。

『子爵や男爵など、到底“貴族”とは言えない!』


 ある侯爵は言いました。

『なぜ私は公爵ではなく侯爵なんだ? あと少しで一番上になれたのに……』


 ある伯爵は言いました。

『いったいどんな功績をあげれば、今より高い地位を得られるのか?』


 ある子爵は言いました。

『今の地位には不服だが、自分より下がいるのでまだ我慢できる』


 そして、ある男爵は言いました。

『見ているがいい。いずれはもっと上にのしあがってやる!』


 これにはライザも慌てます。

 役に立つはずの爵位が、あっという間に傲慢と優劣争いの原因になったのです。


 ライザは傲慢になっている者をたしなめ、

 高い地位を得ようと躍起になる者を諭します。

 もちろん彼らは、ライザに表立っては歯向かいません。ただただ素直に聞き従う姿勢を見せます。

 なぜって、ライザはただの公爵ではないからです。

 彼女は王が敬愛してやまない姉であり、そのライザに歯向かうことは、彼らにとって得策ではありません。


 幸いなことに、傲慢と欲に囚われる貴族はそう多くありませんでした。爵位を得る前と変わらず、高い志を持ち続ける者たちの方が大多数です。


 しかし、ライザにはわかっていました。

 このままでは、一部でくすぶっている不満と競争意識が、どんどん水面下で広がってしまうと……。


 そう感じていたのは、ライザだけではありません。

 彼女のように高潔な姿勢を貫く他の貴族たちも、同じように感じていました。

 そこで彼らはライザと共に、魔法の森に住む気高い一族に助けを求めることにします。ライザが土地を生まれ変わらせるのを助けてくれた、あの魔法使いの一族です。


 ライザたちは彼ら一族に頼みました。


『どうか“守護者”として、我々と共に居てください。そして、強欲に囚われた時には正しい心を示し、誤った道を選ぼうとした時は警告してください。争いをしかけそうな時にはそれを止め、平和と豊かさを維持できるように力を貸してください』


 ライザたちの真摯な思いを認めた魔法使いたちは、この頼みを聞き入れました。

 こうしてライザは、『全ての貴族が“守護者”をそばに置くこと』という決まりを作ります。


 この決まりを嫌がる者もいましたが、もし反発すれば『私は己の強欲に歯止めをかける気もないし、争ってでも高い地位を得るつもりだし、高潔さなんて維持しない』と思っていることが周囲に露呈してしまいます。それを避けるため、結局は彼らも従順な態度で守護者を受け入れたのです。


 貴族はその権威と責任が大きくなるにつれ、数々の誘惑や困難にさらされますが、守護者の助けもあって高潔な意志が完全に消え去ることはありません。


 こうして彼らは、平和と繁栄の道を進み続けます。

 守護者に支えられ、崇高な理念と希望を胸にして……。


 ……これで物語は終わりです」


 いつのまにか戻ってきていたあの歌声が、アネットの言葉を盛り上げるように強くなった。

 その後すぐに歌声は遠ざかっていくように感じられたが、そのままフェードアウトすることはなく、私がこの森で初めて耳にしたのと同じメロディを再び歌い始めた。


 アネットは慣れているようで、歌声について全く気にしていない。強いて言えば「BGMをありがとう」くらいの反応だ。だが私にとっては、動揺するほかないような不思議な現象だった。


 歌声から意識を引き離し、私がアネットに向けて拍手を送ると、彼女は優雅にお辞儀をした。


「でも……このお話を鵜呑みにして何が問題なのですか? だって、これはきちんと事実に基づいているのでしょう?」


 私がそう口にすると、アネットは静かに微笑んだ。


「ええ……これはライザの息子リアムが、当時のことを後世に伝えるために書いたものなのです。読みやすいように物語の形をとっていますが、彼自身の経験とライザから聞いた話に基づいて書かれたものだと言われていますわ。ライザが爵位を授与された時、既に息子さんも彼女と共に活動していたので、一連の出来事を間近で見ていたのですね。ですから、ええ……確かにこのお話は事実に基づいています。けれど、わたくしには見落としていたことがあったのです。それは、あまりにも単純なこと……。ですが、それに気がついた時、なぜ本の最後に空白のページが何枚もあるのか……その理由が、わかった気がいたしました……」


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