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【連載再開】眠れる君に出会うまで  作者: 里凪


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姿を見せ始めた人たち(5)

「お嬢さまは、貴族の誕生を描いた物語をご存知でしょうか? 今ではほぼ“おとぎ話”として扱われていますが、れっきとした事実に基づくお話です。もちろん本も出ていますわ! 表紙こそ『貴族の物語』とだけ書かれている質素なものとはいえ、中の挿絵や色づかいは絵本のように可愛らしくて……そして、なぜか本の最後には何も書かれていない空白のページが何枚もあるのです。……ご覧になったことは?」

「えっと……どうだったかしら……。あるような……ないような……」


 冷や汗をかきながら、私はしどろもどろに答えた。

 アンドレアならきっと知っている……。だが、内容がわからない私は明確な返事を避けたかった。


 幸いにもそれ以上の答えを求めず、アネットは微笑んで先を続けた。 


「よくあるように、物語はこう始まるんですよ。『昔々、あるところに……』」


 それを聞いて、私の口元に微笑みが浮かんだ。

 私にとって馴染みのあるフレーズは、この世界でも定番なのだ。そう思うと、なんだか嬉しかった。


 アネットは記憶を辿るようにして、本の内容を口にし始める。歌うようにリズムをつけて話す彼女は、楽しんでいるようだった。

 ずっと森に響いているあの歌声が、物語を彩るBGMのようにアネットの声に寄り添う。


「昔々、あるところにライザという王女さまがいました。

 聡明なライザは、いつか父親のように立派な王になることを夢見て毎日学びに励みます。

 

 しかしある日、王はライザに言いました。


『私の後を継ぐのは、おまえの弟フィリップだ。

 娘であるおまえは王にはなれない』と。


 ライザはがっかりしましたが、文句は言いません。

 ただ『わかりました』とだけ答えます。


 数年後、成長したライザは農家の青年と出会い、運命的な恋に落ちます。

 娘を他国の王子と結婚させたかった王は怒りますが、ライザは決して譲らず、愛を貫く姿勢を見せました。

 渋々結婚を認めた王ですが、結婚祝いとして土地を贈った後、ライザとは縁を切ると宣言してしまいます。

 ライザはそれにも動じません。

 贈り物に対するお礼を言い、静かに城を去りました。


 王から贈られた土地。

 それは広大ですが、草一本さえ生えない荒れ果てた土地でした。王家が持て余し、以前から手放したかった土地です。


 しかし、ライザは不満を言わず、夫と共にこの土地を愛し、大切に育みます。


 それから30年後、荒れ果てていた土地は、草木が生い茂り、多くの美しい花が咲く、恵み溢れる大地となっていました。心優しき魔法使いの助けを借りて、ライザはひび割れた土地を豊かな大地へと生まれ変わらせたのです。

 この地で、ライザと夫は、子供たちと一緒に幸せな生活を送ることになります。


 やがて、たくさんの人々がこの地に移り住みました。聡明なライザが営む大地で、彼らも幸せな生活を送ります。

 かつて王を志し学んでいたライザの知識、農家である夫の技、そして友人である魔法使いの力が結集し、全てが豊かさをもたらす方向へ進んだのです。


 ライザが所有する土地は、最も繁栄している場所として評判になりました。

 その頃、王となっていたライザの弟フィリップは、賞賛と敬意を込めてライザに何か与えたいと思い始めます。

 そこで彼は、地位と権力が役に立つことを願い、ライザのために『爵位』と『公爵』を作り出したのです。


 公爵となったライザは、家族と共にその立場を賢く使い、さらなる繁栄をもたらすようになりました。

 やがてライザを模範とし、同じような生き方を目指す地主が次々と現れます。


 王は張り切って、彼らにも爵位を与えようとします。

 姉ライザを見て、爵位がこの上ないほど皆の助けになるものだと確信したからです。

 公爵を一番上の爵位とし、侯爵、伯爵、子爵、男爵…… こうして5つの爵位が出揃うことになりました。

 そして王は、高い志を持つ地主に対し、功績と責任の大きさを踏まえて、それぞれに見合う爵位を与えました。

 こうして『貴族』が誕生します。


 王は言いました。


『さぁ! 爵位を持つ貴族の方々よ。

 皆で協力し合い、これからも平和で豊かな生活を!』


 ライザはとても喜びました。

 爵位が役に立ち、人々が安心して幸せに暮らせる環境がどんどん増えると思ったからです。


 しかし、そう時を経ないうちに、不穏な空気が漂い始めます……」


 アネットがそこで話すのをやめると、それに合わせるようにあの美しい歌声もピタッと止まった。


(……まるでこの歌声も、アネットの話に耳を傾けているようだわ……)


 私は恐る恐る、目だけを動かして辺りを見回した。

 柔らかな陽射しに照らされ、森は変わらず穏やかで美しいままだ。そして、やはり歌声の出所はわからない。

 少しの沈黙の中、そよ風が葉を揺らす音が聞こえる。


 私が話の先を促すようにアネットへ視線を向けると、彼女は考え込むように伏せていた目を上げ、再び口を開いた。

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