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【連載再開】眠れる君に出会うまで  作者: 里凪


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閃き


「私に……『その人自身を見るように』って言いたいんです!」


 私はあえて、「私に」という部分を強調して言った。

 この閃きは他の人には他愛ないものに聞こえるだろうが、私にとってはまさしく目から鱗の気づきだった。

 それを伝えたくて、私の身振り手振りは自然と大きくなる。


「これまで『その人自身を見るように』なんていうのは、エジャートン夫人みたいな人に必要な忠告であって、私には関係ないと思っていたんです! だって私は、『お金持ち』や『身分が高い』といった理由で、誰かに近づきたいとは思いません。だから、たとえローレンスさんに会ったとしても、ローレンスさん自身を見ることに自信がありました。他の誰もが『公爵令息だ!』なんて目を通して見たとしても、私は澄んだ目で彼を見れるとわかっていたんです」


 私はレンに向かってわずかに身を乗り出し、内緒話をするように小さな声で言った。


「つまり、私は華やかな身分に目は眩まないし、上辺だけで誰かに惹かれたりしない人間なんだっていう自負がありました。……もちろん私に見える部分は、その人の一部分でしかない。そのことはわかっていますけど、少なくとも見かけに騙されてはいけないって意識していたし、そんな私にはきちんとその人自身を見る目があるって自信がありました。……でも……。……」

「でも?」


 レンに優しく促されて私は話を続けたが、これまでの自分の自信が根拠のないものだとわかった気まずさを感じていた。


「……でも、今の“彼”についての話ではっきりしましたよね。私は「エース」という言葉や目立った優秀さに飛びついて、彼自身を見るどころか、彼だって疲れるという当然の事実さえ無視したんです」


 私はレンから身を引き、背もたれに全身を預けた。そして、やれやれというように手を上げ、深い溜息をつく。


「私の人を見る目には、かなりの偏りがあります……! お金とか身分や権力……それには特にこだわりがないから、私はそれに流されません。でも、それ以外のもの……私が欲しいと思っているものには簡単に引っ張られました。私は“彼”の活躍ぶりに目が眩んだし、彼が持っている全てを私も欲しいと思ったんです……!」


 そこまで言い切ったところで、私は昂った感情を落ち着かせ、その先を静かに続けた。


「……私と違って、彼はいつも力に満ち溢れていて、仕事では活躍して一目置かれ、その人柄からみんなからも愛されている。確かに彼は、そう非の打ち所がない人に見えていました。でも、それだって結局は、私が勝手に作り上げた妄想みたいなものだったんですよね……。彼を嫉妬と八つ当たりの標的にすると決めてしまった以上、私は最初から、彼のことをきちんと見るつもりもなかったんです」


 私は再び溜息を漏らし、それから呟くように言った。


「『その人自身を見るように』……これは他人事ではなく、私自身にとって必要な忠告なんだと、あなたの“力”は教えてくれているんです、きっと……。もう……もう……“彼”のことを曇った目で見たくはないです。彼を特別視したくもないし、逆に貶めたりもしたくありません……」


 それを聞くと、レンは優しく微笑んで口を開いた。


「忠告というよりは、助言といった方が正確だよ。“力”は君のことを助けたいから、その彼のことを私に知らせたのであって、君の見方が誤っていると批判したかったのではない。それは疑いようがないことだ」


 彼の口調はとても穏やかだが、その声は力強く、私の気づきに意味があることを確信しているようだった。


「自分に都合の良いところだけを見て決めつけるのではなく、なるべく澄んだ目で人を見ることが、この先かなり重要になる。君はこれからたくさんの人に会うことになるからね。ローレンスだけではなく、彼を取り巻く大勢の人々とも接することになるだろう。それに、スペンサー家の他の者たちとの交流も避けられない。……ジェームズの弟夫婦には気をつけてもらわねばならないな……。彼らは異様なまでに愛想が良いが、その本心は全くの別物だ。だが、彼らの息子ルーベンとは、きっと仲良くなれると思うよ」


 レンは私にプレッシャーをかけないように気遣いながら、言葉を選んで話しているように見えた。


「ジェームズは私の力を信頼してくれている。そのことには感謝しているが、時に彼は過信しているようにも感じられるんだ。君にそうなってほしくはない。私は全力で君を支え、助ける。だが、どうか君自身の考えや判断も大切にしてほしい。他の誰でもない、君にしか気づけないこともあるんだよ」


 レンの真剣な眼差しを受け止めて、私はしっかりと頷いた。


 彼の言ったことは事実だと心の奥底から感じていた。正確に言い表すのは難しいが、“そんな気がする”というよりも“知っている”という感覚だった。



 この先、私にしか気づけないことがある。

 そして、それは人生を左右するものになる。



 金色の門をくぐり、馬車が目的地に到着するのを眺めながら、私はその予感に思いを馳せた。

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