待ちわびた人(2)
目は口ほどに物を言う。
その通りだった。
彼の目には、こちらを気にかけ、慈しむような想いが浮かんでいる。それは、こうして再び会えるまでの間も、彼が私のことを決して忘れてなどいなかったと伝えていた。
そして、私に彼への強い信頼を抱かせた、あの“何か”も感じられた。それは智慧であり、優しさでもあり、力強さでもある。だが、そうした言葉だけでは説明できない……私の心を惹きつけてやまないものだった。
……それでは私は?
私の目は何を語るのだろう?
混乱、安堵、レンへの信頼、そして、彼の側で感じる心地良さ……。
レンには、心の奥まで見られてしまう気がした。
彼の視線から逃れようと思わず目を伏せると、レンは安心させるように言った。
「心配しなくていい。君の心の中を読んだりはしないよ。私にそんなことは出来ない」
彼は諭すように、落ち着いた声で続ける。
「君がひどく疲れていて、ベッドから起き上がるのも辛そうだったとアメリアから聞いた。エレノアとは随分耐え難い時間を過ごしたようだね……。どんなに辛くても、君は『大丈夫』だと言い張るだろうから、こうして本当の状態を確かめておかないと……」
レンは、無理矢理、自分の方を向かせようとはしないが、私の頬に触れている手を離そうともしない。
彼の手の温もりを感じている頬は、まるで熱を帯びているようだった。
私の目を見て納得するまで、彼は諦めないつもりだ。
……。
……このままでは埒が明かないな。
結局のところ、私には知りたいことが山ほどあるのだから、こんな風にまごついている場合ではない。
私が『話しが出来る状態』にあるとわかるまでは、レンは何も教えてくれないだろう。
私が少しずつ視線をあげてレンの目を見ると、彼の眼差しは柔らかく、更に優しさを増したように感じられた。
彼の瞳があまりにも美しくて、その後はもはや「全てを見透かされるかも」なんて心配をする余裕もない。
私はただ見惚れるように、彼を見つめ返していた。
見つめ合っている間、レンは何か話していたようだが、私の頭にはその内容がひとつも入ってこなかった。
「……沙希?」
ようやく意識に届いたレンの声に我に返り、私は慌てて口を開いた。
「ご、ごめんなさい。今なんて……?」
レンは私の頬から手を離して、優しい声で言った。
「話しが出来ない状態ではないが、かなり疲労しているね……。君には無理をさせたくないんだ。私が話さなければならないことには、君に負担をかけてしまう件も含まれる……。今日は休んでもらうことにして、話しはまた明日にしよう」
私は、レンに部屋を出て行かれてはたまらないとばかりに、急いで彼のローブを掴んだ。
「……い、いいえっ! 大丈夫です! 今あなたと話しができなかったら、きっと一睡もできません! あんなにゆっくり寝たいと思っていたのに、この世界に来てまで睡眠不足なんて……」
我ながらおかしな事を言っていると思いながらも、そう捲し立てると、レンは軽く目を見開いた。
彼はしばらく考え込んでいたが、やがて私を安心させるように微笑み、「わかった」と頷いてみせた。
そして、ベッドに視線を向けると静かにこう尋ねた。
「君はここで目覚めたんだね?」
「……はい。向こうの世界で普通に眠りについて、次に目が覚めたらこのベッドに横たわっていました……」
レンは意識を研ぎ澄ますように目を細める。
さっきまでは何度も微笑みを見せてくれていた彼が、その様子を変え、今はひどく深刻な表情だ。
レンがこれからしようとしている話は、あまり喜ばしいものではないようだった。




