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バゼルはカールセンに指示を出した。


「ここの周辺を念入りに調べてみてくれ。あと、港に連絡して応援を呼べ。今朝の事件のことでバタついているだろうが、こちらはこちらで重要だ」

 

カールセンはうなずいた。

「この偽物のベルパールはどうしましょうか?」

 

それを聞いたエレナはガゼルに「部屋まで持ってきてくれないかしら。偽物との区別の仕方を、私も知っておきたいの」と言った。ガゼルも「私もカールセンから教わろうと思います。今までは偽物があったとしても粗悪品で、見る者が見ればすぐにわかるものでした。でもカールセンがあんなふうに日の光にかざして調べたということは、精巧な偽物なのでしょう」

 

バゼルはカールセンを部屋まで呼び、本物と偽物の区別を訊いた。カールセンは丁寧に説明し、本物は光に当てると玉の中央部分も透過するが、偽物は中央部分だけが透過しないと教えた。

 

「この部屋にもたしかベルパールがあったはず」

エレナは机の引き出しを開けて、順番に物を取り出していく。そして奥から小さな木箱を取り出した。蓋を開けると、ベルパールがぎっしりと詰まっていた。

 

「たしか私が五歳になる誕生日、アルトーにこの箱をもらったの。そのときは一個しかベルパールが入っていなくて『一個しかないじゃない、つまんない』って言っちゃった。そうしたら海に出て見つけるたびに、アルトーはベルパールをくすねるようになっちゃって」

 

ガゼルは、うつむきつつもほほえみを見せた。


「私もあの当時のことは覚えています。アルトーがベルパールを持ち帰るたびに連帯責任で親父に怒られていましたから。いとこでしたが、兄弟同然だったんですよ」

 

エレナは木箱からベルパールを二つ取り出し、バゼルとカールセンに一つずつ渡した。その後、自分の分を手に取り、カールセンから偽物のベルパールを受け取ると、窓際へ歩いて日の光に当ててみた。

 

「え、カールセン、さっきの説明を聞いてもわからないんだけど。なにか違う?」

エレナは本物と偽物を見ながら言った。

 

「偽物をよくご覧ください。中央部分に、わずかな濁りを見つけられると思います。本物にはないんですよ」

 

「……ほんとだ! たったこれだけ?」エレナは驚いた様子で言った。

 

カールセンは淡々とうなずいた。


次にバゼルがエレナから偽物を受け取り、日の光に当てた。「確かに違いがわかりますね。ただ、言われなければ気づかないくらい微妙な違いです。『天然なのだからそういう玉もあるか』で終わってしまいそうな、巧妙な偽造ですね」


「本物は外に向かって光るというより、内側に光を蓄えているんですよ。だから玉の内側に濁りがないんです」

カールセンが付け加えた。

 

バゼルとカールセンが本物のベルパールをエレナに返そうとすると、エレナは、「一粒ずつ、あなたたちにあげるわ。アルトーの形見みたいなものだから」と言った。

 

ガゼルは「お心遣い感謝します」と言い、カールセンも軽く会釈した。

 


 

「ご主人様がお戻りです」

部屋の外からサリーの声がする。

 

 


「お父様が戻ったのね。行くわ」と返事をし、エレナは部屋を出て、廊下を急ぎダスタンを迎えに行った。

 

ダスタンはエレナを確認すると、ぎゅっと胸元へ引き寄せ、頭を撫でた。


「エレナ! 襲撃されたって? 誰も怪我しなかったか? サミュエルとソラの話はすでに聞いたが」


エレナも父親を見るとほっとした様子で、

「おかえりなさい、お父様。誰も怪我はしませんでした。家の物を少し散らかされたくらい。サミュエルとソラが心配です。あと、バゼルとカールセンも来ています」と返した。


「バゼルとは今日たまたま約束してたからな。よかったよかった。ところで、今日のベルパール査察は中止だ」


「非常事態ですものね」


「そうだ。いろいろとまずいことになる。特にウィステリアとバナームは」


「やはりすべてはバナームのしわざなのですか?」


「これから調べるところだ。バナームにも使者を派遣する必要がある。サミュエルとソラのことも徹底的に探すからな、安心しろ」


「来る途中に、偽物のベルパールを押収しました。ソラが持っていたのですが、サミュエルといなくなりました。今回の件と関係あるのでしょうか?」


「そうか……偽物がウィステリアにも持ち込まれるようになったか……」

 

ダスタンは何かを知っているようだったが、エレナは特に深入りしなかった。エレナにとって、いなくなった二人を探すためにどうすればよいかということで頭がいっぱいだった。

 

「二人はどこへ行ったのでしょう。やはり連れて行かれたのでしょうか。ヴァレンタイン家の力を知っている者はここを襲わないと思いますが、バナームならやりかねないのでしょうか」


「そうだな。……そういえばチャールズ様からなにかお便りはあったか?」


「サミュエルにも言われたんだけど……ごめんなさい、今朝届いた手紙をまだ開けていないんです。夜読もうと思って」


「そうか……であれば、今すぐ本邸に帰ってその手紙を読んでほしい。なにか今日のことを知らせてくれているかもしれない。バゼルとカールセン、それにサリーをつけるから戻りなさい」


「お付きはそんなにたくさんいらないわ」


「何が起こるかわからない。もしかしたら狙われているのはエレナ、という可能性もないわけではない」


「わかりました。バゼルとはお話があったから約束したのではないですか?」


「急ぎの用事ではないからかまわん。気をつけてな」

 

エレナが部屋に戻ると、バゼルとカールセンは偽物のベルパールを手に持ちながら、熱心に話し合っていた。カールセンは真剣な面持ちでメモをとっていた。

 

エレナはバゼルとカールセンに「出発するわよ」と言い、剣を手に取った。


「本邸までの護衛をお願いします。辺境伯の命令です」


まるでこれから戦争に行くかのような、引き締めた声でバゼルとカールセンに命じた。

 

「かしこまりました」


バゼルとカールセンは騎士としての作法に従い、ひざまずいて命令を受けた。

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