天才はなくそほじり師
俺は鼻くそほじりの天才だ。
押し寄せる民衆の前で鼻くそをほじる。
「うおおおおおおお! すげえええええ!
天才だあああああああああああああ!」
「きゃー---あ! かっこいい!」
「SUGEEEEEEEEEEEEEE!!!」
嵐のように吹き荒れる称賛の声。
全ての人たちが無条件で俺を褒めたたえる。
――ここは地獄だ。
前世はしがない一般市民だった俺だが、転生して神様から特別な力を与えられた。
それが「鼻くそほじり」の才能。
新しい命を得た俺は「天才はなくそほじり師」としてこの世に生を受ける
で――これだよ。
この世界の人間は俺が鼻くそをほじると無条件で称賛する。
馬鹿みたいに大騒ぎするのだ。
あのさぁ……誰が鼻くそなんかほじって褒められたいと思う?
ふざけんなよ、マジで。
「ほっほっほ、お若いの。お困りのようだな」
道を歩いていたら老人が話しかけて来た。
「どうせあんたも俺を馬鹿にしてるんだろ。
ほら、見ろよ。鼻くそをほじるぞ」
俺はそう言って自分の鼻のあなに小指を突っ込む。
「うむ、見事な鼻くそほじりじゃ。
しかし……本当にそれでいいのか?」
「……は?」
「おぬしは与えられた天才的な才能を無駄にしておる」
は?
馬鹿かコイツ?
「才能を無駄にしてるだと?
こんな才能に使いみちなんてないだろ」
「やれやれ、何もわかっておらぬな」
わざとらしく肩をすくめて頭をふる老人。
「じゃぁ、教えてくれよ!
どうすればこの才能が役に立つんだよ!」
俺が言うと、老人はにやりと笑った。
「さぁ、ならんで、ならんで」
俺の目の前には大勢の人が列を作っている。
「はい、鼻を見せてくださーい」
「お願いします」
俺は椅子に座らせた患者の鼻に細長いへらを突っ込む。
「動かないでくださいねー。あっ、取れましたよー」
「すごいですね、やはり天才だ」
へらを引き抜くと患者さんは実に清々しい表情を浮かべている。
鼻の詰まりが取れてスッキリしたようだ。
あの老人は実に的確なアドバイスをしてくれた。
自分の鼻くそをほじくるのではなく、他人の鼻くそをほじくれと。
よくよく考えたら当たり前のことなのだが、自分のことばかり考えていた俺はこんな事にも気づけなかった。
本当に感謝している。
「はい、次の人」
「お願いします」
列を作っている患者は100人近く。
今日中に全員分ほじってしまわねば。
鼻の詰まりに悩まされている人は多い。
天才鼻くそほじり師の俺であれば彼らを救える。
誰かのために力を使えるって、素晴らしい。