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4話:二日酔い


 翌朝、目覚めたカレナはずきんずきんと痛む頭を抱え、寝起きからあえぐことになる。


 あまりに起きてこないと、様子を見に来た侍女とカラムが見たのは、ベッドから起き上がれないカレナだった。


「飲み過ぎたね、二日酔いだ」

「二日酔いって何?」

「お酒を飲み過ぎて、翌日頭が痛くて、気持ち悪くて、吐きそうになること」

「ううぅぅ……、今の私ぃ……」


 はっと小ばかにするようにカラムが息を吐く。

 二日酔いにあえぐカレナを見下ろして、カラムは侍女に朝食をここに運ぶように指示した。


「限度も考えずに、闇雲に飲むからだよ、カレナ。ああいう店の安い酒は、酔いやすいうえに、こうやって後に引くというのに多量に飲んでさ」

「だってぇ。私、許容量なんてわかんないんだものぉ。あの時は飲めると思ったのよぉ。あたたたぁ……、頭痛いよお」

「お酒が抜けるまでは諦めろ。ゆっくりすれば良くなるから」

「頭少し軽くなったら、美術館行こう。一番近いところぉ……」

「その状態で、出かける気満々なのかよ? 一日休もうではないのか?」

「ううん。出かけたい。折角の休みだもの。あっ、でも、今日はお酒飲まないからぁ……、痛いよぉ、カラム」

「ばか」


 そうと言いながら、カラムは口元をほころばせる。




 程なくやってきた侍女がワゴンに朝食を載せてきた。カラムはそのまま置いて行っていいとテーブルに並べようとする侍女を止めて、一時間後にとりに来るよう指示して、去らせた。


「水は飲める?」

「水、欲しい」


 水差しからコップに水を注ぎいだカラムは、体を起こしたカレナに手渡した。


 ベッドの脇に座ったカラムは断りを入れ、朝食を食べ始める。

 目の前で食べている人を見ていると、カレナもなんだか食べたくなってきた。食べやすそうなスープと果物を受け取り、ゆっくりと食べる。


「カラムも食べてなかったのね、こんなに遅い時間なのに」

「来るのを待っていたんだ。いつまでも来ないから、なにかあったかと様子を見に来たら、案の定こんな状態だよね」

「ごめんね、待たせて」

「新聞を読んでただけだ」


 カレナがずきんずきんと痛む頭に手を当てた。

 

「観劇、明日のチケットで良かったわ。この状態で無理していかなくてすんで……」

「この状況で、よくまだ遊ぶことを考えられるな」




 朝昼兼用の食事後、昼頃までにはなんとかカレナの頭痛も収まった。まだ、頭の隅が痛む感じは残っているものの、動くには十分だった。


 今日は休んでいればいいのにというカラムを押し切り、一番近い美術館に行くとカレナは言い張り、根負けしたカラムが、行って帰るだけだぞと念を押し、二人は出かけた。


 馬車に乗り、美術館に到着する。

 こじんまりとした郊外にある近代彫刻美術館。入館料を支払い、入った。

 ここ百年ばかりの著名な彫刻家の大小さまざまな彫像が展示されている。

 一通り館内を眺めてから、二人は迎えの馬車が来るまで、館内にある喫茶室で寛ぐことにした。


 カウンターがあり、そこで飲み物や軽食を注文することができる。受け取った品を持って、どこに座るかとフロアを眺める。


 広い空間に置かれている椅子やテーブルすべてが、今は高名な彫刻家の初期作品ばかりだ。

 美術館に保管されている彫刻家たちの初期作に座れるというのもなんとも贅沢なことである。


 二人は、小さな乳白色の丸い石を椅子にした、楕円の石をテーブルにする席に腰掛けた。


 美術館に入り、色々見ているうちに、カレナの頭痛も収まっていた。


 熱湯を注がれ抽出した紅茶は熱い。カップを両手で包み、カレナは息を吹きかけながら、その温度を覚ます。自然と背はまるまり、凛とした面影も消える。


 一生懸命、カップに息を吹きかける表情は幼子のようだ。

 カラムはうつむきつつ、視線だけカレナに奪われてしまう。 


 カレナがカップに口をつけて、飲もうとすると、あまりの熱さに、自然とすすることになり、ずずっとお行儀の悪い音がなった。


 やっちゃったという顔でカレナはカラムを見た。

 カレナの一連の動きを無表情で見ていたカラムは口端を上げる。カレナは単純に、呆れられたと思った。裏腹に、カラムは、可愛いなと思っていた。

 

「よくそんなので、ケビンの婚約者なんてやってきたよな」

「不思議よね。立場が人を作るのかしら。こう求められていると思うと、そうできるようなのよ」

「でっ、今は?」

「なにもない。解放された気分」


 ふうふうとまだ熱いと悟ったカレナは紅茶に息を吹きかける。カラムの言葉にも適当に答えていた。


「……元気そうで良かった」

「元気じゃないわよ。こういうのは、空元気って言うのよ」


 少し冷めた紅茶をカレナは一口含む。今度は冷めており、お行儀の悪い音を鳴らさずに済んだ。


「無理やり楽しいことを考えて落ち込まないようにしているの」

「……、ケビンに未練でもあったのか」

「それとは、ちょっと違うかな」


 カレナは天井に視線を投げて、小首をかしげる。


「先のこととか考えてるの、カレナは……」

「まさか、昨日の今日で、なにも思いつかないわよ。ただ、楽しいことを並べで気を紛らわせているだけなのよ。

 そのへんは察してよ」

「人の気持ちなんて、分からないよ」

「いけずね」


「どちらにしろ、ケビンとキエラのことを紛らわせに遊んでいるんだろ」

「んー。それは違うかな。あの二人のことは納得しているもの。今か今かと待っていたぐらいよ。

 ケビンとキエラに悪感情もなければ、意地悪もしていないもの。

 どこかで穏便に済ましてくれるのかなって思っていたのよ。私の未来のこともあるし。ケビンもキエラもその辺はわきまえているタイプだもの。

 ああいった公の場で、婚約破棄を宣告されたことがショックだっただけよ。信じられないという感じね」

「ケビンのことは、もう吹っ切れていたんだ」

「そりゃあね。あの二人なら、見ているだけで分かるもの。『ああ、どうしよう。二人の間に挟まれて、いたたまれないわ~。この二人、絶対私のこと忘れているわよね~』なんて、何回思ったことやら。

 公の場でなければ、今日も昨日も、堂々と学園に行っているわよ」

「強いね」

「弱いわよ。さすがに、ああいう人に見られていての婚約破棄は辛いわ。だって……、ケビンや、キエラはいいけど。

 私の将来はどうなるのかなって、不安になるもの」


 語尾が暗くなるカレナに、カラムは舌打ちしかけて、飲み込んだ。こんなところで、舌打ちすれば、カレナが傷つくと瞬時に気づき。


 前かがみになったカレナが、カラムを下から覗き込み、満面の笑みを浮かべた。


 目をそらしていたカラムだが、急に迫ったカレナに驚いて、身を引く。


「だからぁ。傷心の妹に付き合ってね、お兄様」

「だから、お兄様って言うなよ」


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