苔の鳥居をくぐり、異界の茶の間で呪い話
大きな白い招き猫が半目で笑う夜の森
迷い込んだ私は石造りの階段を降りる
苔のまとわりついた石鳥居をくぐれば
異界の茶の間にブラウン管テレビ一つ
こちゃこちゃした空間はモノクロの光
ちゃぶ台の近くに転がる片目のだるま
目が合って目を逸らして何だか不気味
砂嵐のテレビ画面から突然
顔出しNGの有名人の顔が映り私を見て一言
「もうじき君は死ぬから特別ね」と言った
聞いた私は安堵しきった顔で
「ならば呪いの詩を書いてくれ」とか
言ってみたりした
彼は「いいよ」と笑って応えた
今までの恨みつらみが湧いて胸が騒ぐ
「どんな詩が良い?」問われたところで
開いた玄関の方から、こんな噂が聴こえた
「この近くに人を呪い殺せる空間があるらしい」
「私たちも行こうよ」
若い女の声がふたつ
黄色い声で近づいて来ている
見られてはまずい
私は急いで開いていた玄関を閉めた
鳥居の影は消えてどこかで猫ののんきな声がする
「私が呪いたいのは……」
再びテレビを観ると有名人の姿は
消えていた
そこはただの森の中
捨てられたブラウン管テレビと一緒に
大粒の雨を浴びていた