【短編版】外れスキル《範囲自動翻訳》のせいで、異世界からきたクラスメイトが離れてくれない。戦闘スキルのないゴミはFクラスだ!と言われたけれど、長年の努力と仲間との《絆》でSクラスまで成り上がります。
1
僕は冒険者になることが夢だった。
小さい頃から、そのために努力して、努力して……!
やっとの思いで、『冒険者学校』への入学を果たした。
それなのに――。
僕はまた努力を認められないのか……!
「レイン・シュトレンフィード……16歳、スキルはえーっと……《範囲自動翻訳》だって!? それから《絆》……うん、クソスキルだな……。Fクラスへ」
クラス分け面接で、僕が所属を言い渡されたクラスはF――最下位クラスだった。
面接官のムノーウ・チェナッシ先生は、無情にもそう判断したのだ。
ムノーウ先生は学校を代表する有名な先生だから、僕をもっと上のクラスにする権限だって、持っているはずなのに……。
「そんなムノーウ先生お願いです! 僕は剣術でも、体術でも、誰にも負けません! せめて、もう少し上のクラスにしてください!」
僕には大した固有スキルは発現しなかったが、その代わり、死ぬような努力をしてきた。
剣術では10歳にして、国中の道場主をうち破ったし……。
体術では仙人と呼ばれる老師にも認められた。
座学だって、一番の成績のはずだ。
「うるさい、戦闘スキルのない雑魚め! いくら粋がって努力しても、固有の戦闘スキルのない奴は、パーティじゃお荷物なんだよ! だからお前は最下位クラスがお似合いだ! ゴミめ。翻訳なんてなぁ、いらねえんだよ! この超大陸に存在する国は、全部おんなじノイアール語を使ってるじゃないか!」
「っく……!」
そう『冒険者学校』では、固有の戦闘スキルのランクによって、クラスが決まる。
それ以外の点は、入学後にいくらでも伸ばせるかららしい。
そのためのカリキュラムにも自信があるんだそうだ。
でも、いくらなんでもそんな……!
才能で全てを決め付けられるなんて!
「ぼ、僕は……! この日のために努力してきたんです! それだけは、誰にも負けないです!」
「は? 知るかよクソボケ。ここでは俺が教師、俺がルールだ。無駄な努力、ご苦労さんだったな。この世にはなぁ、努力なんかじゃどうしようもないことだって、あるんだよ! それを教えるのも、教師の役目ってわけだ……ガッハッハ!」
僕の努力を否定するなんて……!
今までの血のにじむような努力を……!
いくらなんでも、そこまで言う必要はないじゃないか!
「わ、わかりました……。ですが、僕は必ず! Fクラスから這い上がって、Aクラスを目指します!」
「……………………?」
僕の一言に、ムノーウ先生は驚いて一瞬固まった。
そんなに変なことを言っただろうか?
「ギャッハッハッハッハ! おい聞いたか今の!」
先生はほかの新入生や、そこにいた周りの先生に呼びかける。
――クスクス、クスクス。
みんなが僕のことを見て、あざ笑う。
ひどい……!
先生たちまでいっしょになって馬鹿にするなんて……。
「固有の戦闘スキルもないお前が、Aクラスを目指しますだと!? ふざけるのもたいがいにしろ! ここは遊びでやってんじゃねえぞ? 冒険者を命がけで目指す学校だ。Fクラスに置いてもらえるだけでも、感謝しやがれボケ!」
「……っく」
くやしいけど、何も言い返せない。
ここで言い返しても、それじゃあこいつらと同じになってしまう。
僕は実力で、絶対に見返してやるんだ!
大丈夫、僕ならいける!
今まで必死で努力してきたんだから、自分を信じよう。
「もういい、次の生徒!」
僕はなかば追い出されるようにして、その場を後にする。
面接の教室を出たところで、次の生徒の結果が聴こえてくる。
「ガイアール・ジジョー……スキルはえーっと、《空間把握能力》か、Aクラスだな」
「よっしゃあ! Aクラスだぜ!」
ちょっと待てよ……。
今の生徒、固有スキルが《空間把握能力》だけなのにAクラスなのか!?
そんなスキル、戦闘スキルと言えないし、僕と大差ないじゃないか!
おかしい!
こんなのは理不尽だ!
僕は踵を返して、先生に抗議しにいく。
「ムノーウ先生! 今のはどういうことですか!? どうして彼がAクラスで、僕がFクラスなんですか……!?」
先生は呆れたため息をついて、僕のことを白い目で見下す。
「あのな……。さっきの生徒――ガイアール・ジジョーは、高名なジジョー家のご子息なんだぞ? お前なんかとはそもそも違うんだ。この学校にジジョー家がいくら寄付してると思ってる?」
「そんな……! ここは完全実力主義なんじゃなかったんですか!?」
だからこそ、僕はFクラス行きを飲み込んだというのに。
こんな不正が、まかり通っていいのだろうか?
「ああ、そうだよ。才能がすべてだ」
「だったら……!」
「あのな、金も才能のうちなんだよ。家柄だって才能だ。人はな、産まれた時点ですべてが決まってるんだよ。お前みたいなクソが、いくら必死に努力したって無駄なんだ。これからの学校生活で、それを良く思い知るんだな。そんな勘違いしたまま社会に出たら、痛い目みるぞ?」
「そんな……!」
僕は絶句した。
この学校の先生は……腐ってる。
でも僕はあきらめないぞ!
僕の努力が無駄じゃなかったってことを、証明するんだ!
2
はぁ……Fクラスかぁ。
憂鬱だなぁ。
僕はしぶしぶ、重い気持ちでFクラスの扉を開ける。
すると、ちょうどそのとき、教室から外へ出ようとしていた生徒と、ぶつかってしまう。
――ドン!
「いたた……」
「あ、ごめんなさい……!」
ぶつかったのは可愛らしい女の子だった。
見たこともないような顔つきで――外国人かな?――珍しい風貌だけど、すっごく可愛い。
赤っぽい髪の毛をポニーテールにして結んでいる。
赤い制服と相まって、とても似合っているね。
それにしても……ぶつかったせいで下着まで見えてしまっている。
僕は手を差し伸べるけど、彼女は座ったまんまだ。
どうしたんだろうか……?
「あの……大丈夫ですか? どこか怪我でもしましたか?」
僕は問いかけるけど、彼女は口を開けて驚いた顔を見せるのみだ。
そんな、お化けでも見たような顔をされてもなぁ……。
「日本語…………」
「え? 日本語…………?」
聞いたことない言語だけど……?
「どうして喋れるの!? あなた何者!?」
「うわぁっと……!」
女の子は急に立ち上がり、僕の肩を掴んで揺さぶる。
元気な子だなぁ。
「ええっと……たぶん、僕のスキルのせいだよ」
「スキルのせい……?」
「うん、僕の固有スキル《範囲自動翻訳》の効果だね。僕の近くの人の喋る言語を、勝手に翻訳してくれるんだ。まあ、この超大陸じゃまったく使う機会がないけどね……」
「そうなんだ……」
だからまあ、固有スキルなんてないようなものなんだけど……。
どうやら初めてこのスキルが役に立ったみたいだね。
でも、ノイアール語を話せない人なんて今どき珍しい。
超大陸の外の人たちでも、ノイアール語を話せるようになってきているらしいし。
「君は、どこから来たの? あ、自己紹介がまだだったね。僕はレイン・シュトレンフィード」
「わ、私はアスナ・ナナミ。日本……そう、異世界から来たの……って言っても、信じてもらえないでしょうけど……」
「えぇ!? 異世界人!? ほんとに!? すごいなぁ……!」
「し、信じてくれるの……!?」
「まあ、君のような感じの子はみたことないしね、それに、ノイアール語を話せないなんてのも、異世界人じゃなきゃありえないし……」
「ありがとう。ようやく言語が通じる人に会えたわ……。よかったぁ……」
女の子――アスナさんは、ほっとしたのか、へなへなとその場に座り込んでしまった。
きっと、見知らぬ土地に来て、言葉も通じずに、心細かったに違いない。
ここは僕が彼女をサポートして、支えてあげないと!
まずは友達になるんだ。
「あの、アスナさん」
「え? なに?」
「僕とまずはお友達からでいいんで、結婚を前提に付き合ってください」
「はいいいいいい!?」
どうしてだろうか、僕は普通に友達になってほしいと、心からの思いを伝えただけなんだけどな……。
なぜかアスナさんは、顔を真っ赤にして驚いている。
そう、まるで婚約を申し込まれたかのように――。
「どどどどどどどういうつもりなのあなた!? 出会っていきなり求婚を申し込むなんて!」
「えぇ!? 僕そんなことを!? おかしいな……このスキル《範囲自動翻訳》はまだ完ぺきじゃないみたいだよ……。今まで一度も使ってこなかったから、スキルレベルが1のままなんだ。そのせいで、おかしな翻訳になることがあるみたいなんだ……」
「な、なぁんだ……そういうことね……。通訳の代わりに嫁になれとか言い出したのかと思ったわ……」
「そんなことしないよ! ただ、僕は君と友達になりたいだけなんだ」
「わかったわ。私も、あなたと一緒にいた方が都合がいいしね。よろしくね、レイン」
「うん、よろしく……アスナ」
こうして、僕は入学してすぐに友達ができた。
しかも、なんと異世界人の女の子だ。
Fクラスに来たのも、案外悪くなかったと思える。
アスナはそれから、僕に握手を求めて、手を差し出してきた。
どういうことだろう……?
これが……文化の違い、って……やつなのかな?
「どうしたの? レイン?」
「いや……その……アスナのいた世界ではどうかは知らないんだけど、少なくともこの国では、あまり男女で握手なんかはしないんだ……。その、恋人でもない限りは」
「そ、そうなんだ……ごめんなさい。じゃ、じゃあ……ここではどうやるの?」
そう、この国では、男女で友情の握手を交わしたりなどはしない。
握手は恋人同士が、信頼関係を確かめるためにするものだ。
こういったときに、僕たちがすることといえば――。
「へ!? ちょ、ちょっとレイン! なにするのよ……!」
「え? でも……僕たちの国ではこうするんだけど……?」
僕が急に頭を撫でたからか、アスナは驚いて、また顔を真っ赤にした。
どうやら彼女の国では、こういうことはやらないらしい。
「そ、そうなの……? 本当なんでしょうねぇ……?」
「ほんとだよ。これが男女で友情を確かめる行為なんだ」
「な、ならまあ……いいけど……」
なんだか頭を撫でただけで、こんな反応をされるなんて……。
異世界人の女の子っていうのも、新鮮でかわいいな。
僕たちは教室に戻り、隣の席に座った。
これからの学校生活、楽しくなりそうだ――!
3
教室の後ろの方に座った僕とアスナは、どちらからともなく話始める。
まだ先生はやってこないし、他の生徒もまばらだ。
とにかくまだまだ暇なのだった。
「そういえばアスナ、さっきはなんで教室の外へいこうとしてたの?」
「恥ずかしい話だけど……正直、レインに出会うまで不安で仕方なかったの……。言葉も通じないし、知り合いもいないしね……。それで、ここから逃げ出したくなったのよ」
「そうなんだ……辛かったね……」
「でも、もう大丈夫! レインと友達になれて、本当によかったわ!」
そう言われると、こちらとしても嬉しい。
なんだか少し照れくさいけどね。
「ていうかそもそも、言葉も通じないのに、どうしてこんなところに? ここは冒険者学校なんだけど、もしかしてそれもわかってないんじゃない?」
「えぇ!? ここってそんなファンタジーな場所だったの!?」
「あぁ、やっぱり……」
『ふぁんたじぃ』っていうのは、ちょっとまだ僕のスキルじゃ訳せないみたいだけど……。
とにかくアスナは全然よくわからないままに、ここに座ってるってわけだね。
「私たちがこの世界に来たとき、他にも仲間がいたの」
「へぇ……そうなんだ」
今その人たちがここにいない、ということは……ちょっと想像したくないかもね……。
無事だといいけれど。
「その中に、先生がいたんだけどね……オウガ・クズタニっていう名前よ」
「うん、それで?」
「そいつは酷い教師だった。ここが異世界だとわかると、生徒をかたっぱしから犯し始めたのよ。あ、もちろん私は逃げ出したけどね」
「うわぁ……」
どこの世界にもいるんだなぁ、そういうクズ。
この学校にもムノーウ先生とかいう意地悪な先生がいるけど、そこまでひどくはない、はずだ。
「それで、見つからないように、人の多い場所を探してたら、ここの入学式に紛れ込んだってわけ」
「そうなんだ、それは酷い目にあったね。でも、アスナ……君が無事でよかった」
「へ!? あ、ありがとう……。でもね、他の生徒が心配なのよね……。知ってる子はいなかったんだけど、それでも……ね」
「そうだね、ほとぼりが冷めたら、捜索願いでも出そう」
「質が悪いのは、生徒たちはみんな喜んで抱かれてたところなのよね……。吊り橋効果? っていうのかしら、頼れる大人が先生しかいないから、もう心酔しきっちゃって、まるで教祖と信者ね」
「うわぁ……それは……」
「あ、でも……私の他にも何人か逃げ出した子はいたみたいだけど……」
「無事だといいね」
「うん」
とにかく、アスナには行く場所がないんだね。
本当に、頼れる人がいないんだ。
だからこそ、僕がしっかりして守らなくちゃな。
「アスナ、ここはFクラスの教室なんだけどさ、その……制服をもらうときに、スキルとか聞かれなかった?」
この学園は、制服のリボンの色でクラスを認識できるようになっている。
僕たちはFクラスだから緑。
「そうねぇ……言葉が通じなかったから、わからないけど、なにかすっごく怒鳴られたわね」
きっと、面接官の人はアスナがわざと黙っていると思ったのだろう。
まさかノイアール語を話せないなんて思わないだろうしね。
それで、アスナのステータス画面を見ることもなく、Fクラスにしたんだね。
「アスナ、ちょっと……ステータス画面を見せてくれる? もしかしたら、すごいスキルを持っているかもしれない」
「うん、いいけど……どうやるの?」
「ステータスオープン! って言うだけだよ」
「わかったわ。ステータスオープン!」
―――――――――――――――――――――――――――
【名前】アスナ・ナナミ
【レベル】1
【職業】学生
【種別】人間
【保有固有スキル一覧】
・《炎の要塞》
・《火炎龍神の召喚》
・《赤色の巨人創造》
・《全基礎炎系スキル使用可能》
・《真炎爆発》
―――――――――――――――――――――――――――
「これは……すごいぞ……!?」
僕はアスナのステータスを見て、驚いた。
だってこんなスキル……見たこともない!
全部アスナの言う『にほんご』とやらで書かれているみたいだけど、アスナに読み上げてもらった。
「え? なに? そんなにすごいの、これ? 私、ゲームとかあんまりやらないから、わかんない」
「その、げえむ……っていうのはわからないけど、とにかくこれはすごいよ!」
「へぇ」
なんだかアスナは興味なさげだ。
僕だけ驚いてしまって、なんだかギャップがすごいな。
「全部戦闘向けのスキルだし、これだったらAクラス、いや……特例でSクラスも夢じゃないよ! 今すぐ先生に言って、クラスを変えてもらおう」
「ま、待って……! それはダメ!」
「……え?」
どうしてだろう、Sクラスにまでなれば、奨学金ももらえる。
それに、住むところもいらなくなる。
今のアスナのような状況からすれば、そうするのが一番だと思うけど……?
僕がそのことを説明するも――。
「だって、レインから離れると、言葉が通じないんでしょ? それに、せっかくレインと友達になれたのに、離れ離れは嫌だよ……」
「うーん……そっかぁ、確かにそれもそうだね」
僕だって、アスナを護ると決めたばっかりじゃないか。
無責任な提案だったと、反省する。
こうなれば、僕もSクラスに上がるしかない。
「よしアスナ! 僕も絶対に追いつくから、いっしょにSクラスを目指そう!」
「うん! そうね! レインといっしょなら、私はどこまでもいくわ!」
こうして僕たちは、さらに絆を深めて、いっしょに高みを目指すことになった――!
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