七話 デート
あの時と変わらないままの花畑を見ると懐かしい気持ちになった。
「あの日、アインス様と話せてよかったと思います。あの事がなければずっと私は私でないままだったと思うので」
私が花畑を見ていると、アインス様がこちらを見て口を開いた。
「レイティア。本当の事を教えてくれませんか?」
その言葉でアインス様の優しさが身に染みた。アインス様は私が嘘を言っていたのに対して、何も言わずに私の気持ちを汲み取ってくれたのだ。
「アインス様。私がお話することは夢物語のような話です。信じられないかもしれませんが聞いてください」
「うん」
それから私はこの世界に前世の記憶を持って転生したこと。そして、この世界を前世の小説を読んで知っていることを話した。
「本当に夢物語のようだね」
そうは言いつつもアインス様は私の話を信じれくれた。その理由をアインス様に聞くと。
「あれが全て嘘だとは思えないから。それに、誰よりもレイティアの事を知っているつもりだから」
と言ってくれた。
「最近、父上の公務の手伝いをさせてもらっているんだ」
「おめでとうございます!」
「まだ半人前だけどね」
「でも、その年齢で任せられているなんて素晴らしいことです」
アインス様の喜びをまるで自分のことのように喜んだ。
「アインス様はずっとあの時から変わらないですね」
「背は前より伸びたけどね」
「ええ」
ふふっと笑って言う。
「アインス様。また孤児院に行きたいです」
「うん」
「アインス様と一緒に色んな場所に行ってみたいです」
「ああ」
「推しが居て、優しい家族も居たのに、あの事で落ち込んでいた私が馬鹿みたいです」
涙目で言うとアインス様が私の目元をハンカチで拭った。
「あり……がとうございます」
(推しって何?ここで聞ける状況ではないけどものすごく気になる)
そうアインスは思ったが黙っていた。
その後気になりすぎて推しの事を聞いたアインスであった。
「このまま帰ったら心配されてしまいますね」
確かに、レイティアの家族に見せたらこちらを睨まれそうだ。
「もう少しここに居ようか」
「ええ」
私はアインス様の反応がいつもとは違って少し笑って言った。
その後は最近読んだ本や面白かったことなどを話した。
話し込んでいるうちに日が沈んできたことに気づいた。
「大丈夫か?」
と言ってアインスはレイティアに自分の着ていた上着をドレスの上から被せた。
「ありがとうございます」
少し顔を赤らめて言うレイティアにアインスは顔を逸らした。
「どうしたんですか?」
「いや」
アインスは自分の赤い顔を隠したが、レイティアはアインスの耳が赤くなっていることに気づき、そのことを察した。
二人とも顔を赤らめて馬車に戻った時に一番気まずそうだったのは御者だった。そんな雰囲気の二人の間に自分が入ってしまったことを申し訳なさそうにしていた。
アインスはレイティアを屋敷に送った後、自分の宮へと帰った。
宮に帰るとまず執務室に寄った。
執務室の扉を開けた途端、自分の上に積まれている書類にまず驚いた。
「あ、やっと帰ってくれたんですね」
疲れ果てた顔でヴィレッツがアインスに話しかけた。
「どうしたんだ?」
デートに行くために今日までの書類は全て片付けたはずなのにとアインスは思う。
「あの後、魔力災害が西の方で起こったようで。国王様には他の仕事があったので、こちらに回ってきたようです」
「魔力災害は当分起こらないと預言者が言っていたではないか」
「預言者が言うには私は自然災害は予測できるが、人為的なものを予言する力はないとのことです」
「つまり遠回しに人為的にやっていることと言っているようなものだな」
「そうですね。ずっと国のために貢献してくれたあの方が嘘をつくはずもないので、そういう事になりますね」
はあと溜息をついてヴィレッツが言った。
早速アインスは書類に目を通した。
紙にはこのような事が書かれてあった。
魔力災害で狂暴化した魔物が近くの村を襲って死傷者が出た。増援をお願いすると。
「増援を騎士団に増援を要請するとしよう」
「それは無理ですね」
きっぱりとヴィレッツは否定した。
「騎士団に増援を要請して、このざまですから。これ以上失っては他国からはいい的となります。ちなみに魔法師は増援はまだしてませんけど、期待はしすぎないことです。今は結界の張り直しの作業が国王様から直々に要請されていますので」
国王とアインスの要請ならどちらを先に済ますだろう。となると選択は一つ。国王しかない。それに、結界は魔力災害の影響を和らげるので、そちらを先に済ます必要がある。
「では、どうすれば」
ヴィレッツは何か案があるだろうが、アインスに言うつもりはなさそうだ。あくまでも、自分で考えろと言う事だろう。
そのままずっと悩んでいると、ヴィレッツが溜息をついた。
「ヒントは魔力災害です」