五話 誘拐事件
次の日は顔を合わせづらくて、目を逸らしてしまっていた。それはアインス様も同じで、学院につくとマリアに喧嘩でもしたのですかと聞かれた。
私はそういうわけではないのですがと答え、昨日の告白のことを思い出して顔が赤くなる。
「今日は二人ともおかしいですわね」
頭にはてなを浮かべてマリアが言った。
「レイティア様。最近貴族の令嬢が行方不明になる事件が多発しているそうです。気をつけてくださいね」
「ええ」
その時はあまり深く考えていなかった。
放課後、私はいつもどおり馬車の方に向かって歩いていた。
すると、御者が話しかけてきた。
「お嬢様。今日はこちらの馬車にお乗りください」
帽子を深く被った御者はそう言って私をある馬車の方まで案内した。
「ええ」
少し揺らされて、馬車が止まるとそこは公爵邸ではなかった。
「あの、ここは公爵邸では」
そう扉を開けた御者に話しかけると御者に口を鼻をハンカチで覆われた。何かそこについていたのか、
急に来た眠気で私は眠ってしまった。
目を覚ますとそこにはたくさんの令嬢がいた。どれもマリアが行方不明となった令嬢だと名前を言っていた令嬢だった。
「レイティア様!」
起きた私に皆心配して近寄ってくる。
「皆さん、大丈夫なのですか?」
「ええ、何不自由なく過ごせています」
「なにかされていないのですか?」
「それが」
「高位貴族を捕まえてこいと誰が言った!」
遠いところで男性が叫ぶ声が聞こえた。私はその声に驚いて、ぴくっと体が震えた。
「まただわ」
「また?」
「ええ。高位貴族の方を捕まえるとああやって御者を責めるんですの」
「何が目的でこのようなことを?」
「騒ぎにならないお金を持っている男爵家の令嬢などを捕まえ、お金を要求しているようです」
伯爵家の令嬢であるトリアナが言った。
「公爵家のレイティア様を捕まえる気はなかったのでしょう。そこまでやると処刑は避けられませんから」
「そうですか」
「ですが、これで有力な魔法師や騎士が動きそうですね。公爵家に関わっている魔法師、騎士は多いですから」
確かにお父様ならやりかねない。
「なぜそんなみなさん冷静なのですか?」
「冷静というより、慣れてしまったの方が正しいですわ。疑っても襲っては来ないし、本当にお金だけが目的なようです」
「そこまでしてなぜお金を集めたいんですか?」
「ここはケヒューバ男爵家ですから」
「なるほど」
ケヒューバ夫人は病気にかかって伏せっていると噂になっていた。男爵家には夫人を治せる治癒魔法師を呼ぶためのお金がない。
「そこまで落ちたとは思えないのですが」
男爵も男爵夫人もそんな人柄ではない気がする。
「男爵は治癒魔法師を探すために治癒医院を回っているようです。その間、男爵代理を弟君がやっているようです。今回のことは弟のリレール卿が独断でやったものだと私達は考えています」
「でしたら、お金のことは噂に当てはまらないのではないのですか?」
「ええ、そうですわね。そしてその他に」
そのすぐあとだった。たくさんの足音がこちらに向かってきた。
「なんの音ですの?」
私達はそこから一番遠い場所まで移動し、戦闘態勢に入る。
「ご無事ですか?」
そこにいたのは騎士たちだった。皆、安心してその場に座り込んだ。
「…はい」
私は騎士たちに保護され、屋敷の外に出た。そこで一番驚いたのはアインスがその場にいたことだ。
「レイティア!」
アインスは走って私に近づいてきた。
「すまない。レイティア。君を危ない目に合わせてしまった」
「これはアインス様のせいではありません。私がもっと気をつけれていれば防げていたことでしたから」
「だが、私は」
アインスの体は小刻みに震えていた。
「迷惑をかけてしまいすみません。アインス様」
「うん」
アインスは顔を引き締め、騎士たちにあれこれ指示を始めた。
「少し馬車で待っててくれないか?」
「はい」
私は馬車に乗って少し待った。
「待たせてしまったな」
「いえ」
アインスは反対側に座り、口を開いた。
「今回の事は私に一任されていたんだ。男爵の方からリレール卿がなにか企んでいるようだと報告があってね。それで調べてみるとリレール卿はお金を集めるために商人の娘を誘拐してお金を求めている事が分かった。もっと確実な証拠を持って行くために証拠を集めていたんだ。そんなときにレイティアが誘拐されたと知らせがあって。私は自分の不甲斐なさを悔やんだ。もっと私ができればと。すまん。今回の事は私のせいだ」
アインス様は頭を下げて私に謝った。
「頭を上げてください。アインス様、では、私とどこか行きませんか?それで許します」
このままだとアインス様はご自分を責め続けてしまう。そんなことアインス様が責める必要なんてない。そう言ってあげたいけどアインスは下がらないだろう。だから、こんな提案をした。