三話 慈善活動
「私が行きたいのはそこではないよ」
アインスは笑いかけて言った。そして、深くフードを被り、馬車の外に出た。
アインスに続いて私も馬車を下りた。私が馬車を下りるとアインスは私の手を強く握った。
アインスが向かう方向は孤児院のある方向だった。
「慈善活動ですか?」
「いや、これは私個人の方でやっていることだ」
皇族としてやっているわけではないという意だ。
「なぜ、私をここに呼んだのですか?」
今まで孤児院のことなんて教えてもらえなかった。なのに、なぜ今なのだろう。
「君の力が必要なんだ」
「分かりました」
私はそのままアインスについて行った。
孤児院に着くと、孤児院長と思われる者がアインスに挨拶した。彼はアインス様をどこかの貴族だと思っているらしい。皇族としてもてなしているわけではなかったからだ。
「私は孤児院長のルーリエです」
優しい目線で黄色の目と緑の髪を持った者が言った。
「この方は」
ルーリエは私の方を見てアインスに聞いた。
「前に言っていた方だ」
アインスが言うとルーリエは頭を下げた。
「お願いしますね」
一体何を私に頼む気なんだ。あまり大層な事はできないと思うけど。
「アインス様。私に何を頼む気なんですか?」
私は小声でアインス様の耳元にささやいた。
「治癒魔法を施してほしい者がいるんだ」
確かに、私にしか頼めないことだ。アインスは治癒魔法に適正はない。アインスの友人にも治癒魔法を扱える者はいるが、孤児と聞けば断るだろう。私はそういうのは大歓迎ということをアインスは分かっているから私に頼んだのだ。
「分かりました」
私は孤児院長の後をついて行く。その間に私のことを物珍しそうに見てくる子供たちが居た。
「ここです」
そう言い、孤児院長は部屋の扉を開けた。
そこにはたくさんのベッドがあり、子供たちが寝込んでいる者達を看病していた。
「私の治癒魔法にも限界がありますので。それを忘れないでくださいね」
私は孤児院長に釘を刺した。危険な者達を最優先に治癒するが、私にも魔力の限界がある。
「分かっています」
治癒魔法師を雇うには大量のお金がかかる。そして、行くか行かないかは治癒魔法師が選択できる。治癒魔法師はどこでも重宝される。ここで逃してもまた大量のお金を積んで治してもらおうとする者が居るからだ。
私は十五人ほど治した後に魔力の限界が来た。
常時発動させている魔法もある。これ以上は体に負担がかかる。
「すみません。これ以上は」
そういうとある子供が私のマントの裾を掴んだ。
「ユベラを助けてよ!」
「やめなさい。エリア」
孤児院長はエリアを宥めた。
(気が緩んで常時発動させていた魔法が解いてしまった。このままじゃ……倒れる)
そうして、私は気を失った。ギリギリのところで保っていた魔力が常時発動させていた魔法に注がれ、全ての魔力を失ったからだ。
「ティア……レイティア!」
アインスの声が遠のいていく。
目を覚ますとそこは見たことない天井だった。横を見るとアインスが私の手を握ったまま寝ていた。窓から外を見ると、空は暗くなっていた。
魔力は全て回復していたので、私は常時発動させていた魔法をもう一度かけた。
すると、アインスの目が開いた。
「レイティア。もう大丈夫なのか?」
取り乱した寄すのアインスは初めて見た。それほど心配してくれていたのだろう。
「ええ」
「そうか。良かった」
「あの、アインス様。ここはどこなのですか?」
「私の宮殿だ」
なんとなく思ってたけど。やっぱり。
「あの、ありがとうございました」
「いや、無理させてすまない」
「私の管理の仕方が悪かっただけですので、そんなにご自分を責めないでください。それより、あの、あの女の子はどうなったのですか?」
アインスは少し言いづらそうな顔をした。
「自分のせいで君を倒れさせてしまったと悔やんでいたよ」
「私が無理をしただけなのに、悲しいことをさせましたね」
魔力切れは私が見通せなかったからだ。だけど、それを悔やんではいない。急ぎで治さなければいけない子どもたちは全員助けられることはできたから。
「アインス様。あの活動はいつからやっているのですか?」
「一年ほど前からかな」
「私、そんなこと思いつかなかったと思うので、少し辛いです。自分のことばっか考えて、子どもたちがどんな風に過ごしているなど考えたこともなかったので」
「君もこれに気づいたら私のように動くと思うよ」
「私の場合アインス様のように動くことはできないので、両親に止められると思います」
ふふっと笑って私は言った。
どこかに行くとなったら誰かがどこに行かれるのですかと聞き、私が嘘を言うとすぐにそれがバレてしまうので、隠し事はできない。
「ああ、そうだな」
「では、今日はこれで帰らせてもらいます」
私はベッドから降りる。すると、あることに気づいた。
(寝間着の服じゃん!)
こんな格好でアインス様の前に出てたなんて。
「着替えは侍女がやってくれたから安心してくれ」
いや、そういうことではなく!お気遣いありがたいけど!
「それと、もう夜が更けている。公爵家には王宮で過ごすと手紙を送ってあるから大丈夫だ」
「え」