二話 入学式
学院の入学式はいつもより豪華だった。高位貴族が数人入学しただけでも目立つのに、今回は王族までもいるからだ。
アインス様もいるので国王も王妃もいる。皆、視線の向かう先が同じだ。
入学式が終わると私はクラスを確認し、Aクラスの教室へと向かった。
「レイティア。君と同じクラスで嬉しいよ」
「ええ。私もです」
アインスは王族なので自動的にAクラスとなる。高位貴族の私もその中に入る。だが、その地位がなくともAクラスの能力を十分持っている。
Aクラスはやはり知っている顔ぶればかりだ。
ヒロインのアンシア。宰相の息子のヴィレッツ。公爵家の双子の公女であるテーリラ、マリア。魔塔の主人の息子のエアヒュート。アインス様の従弟であるニトラ。
この人達が小説に出てくる主な人物たちだ。やはり、現実の方が美形だ。
教室に入って驚いたことが一つあった。ヒロインが一人でいることだ。
小説が始まるのは一年生の途中だったから気づかなかったが、皆にアンシアは避けられている。
その理由は理解できる。彼女だけが高位貴族ではなく、男爵家の出身だからだ。
明らかに皆の輪から外れていて、彼女も居づらそうだ。
虐めというわけではないが、皆気に食わないだろう。そう思わない者は高位貴族としての立場があるという理由で関わっていないだけだ。
アインス様もそういう事に関わるつもりはないらしい。
「では、ここに座ろうか」
「……」
「レイティア?」
「あ、はい」
私はアインスの隣に座った。
「アインス様。この場所の雰囲気が少し苦手です」
「うん」
アインスは私の言葉を否定せず、聞いてくれた。
「別にあの子は悪くないのに」
私はアンシアを見つめた。高位貴族ではないからという理由であんな風に放置されるなんておかしい。居ない者扱いされているようなものだ。
「そうだね。ここで私が出ると少々面倒くさくなってしまうから、出ることはできないけど」
アインス様は王族という立場のため、この騒動で表立って行動することはないという意味だ。だけど、その上で私にはできることだとも言っている。
「アインス様。少し席を外してもいいでしょうか」
「ああ」
私は立ち上がって、アンシアの方に向かった。
「お隣、よろしいかしら」
「……はい」
アンシアは驚いた様子でこちらを見ていた。
「あなたのお名前はなんとおっしゃるの?」
「あ、アンシア・ボティルアです」
「アンシア様。私とお友達になってくれないかしら」
「レイティア様とお友達など滅相もありません」
そんな時、後ろから足音がした。
「レイティア~。何してるの?」
私の友達であるテーリラが話しかけてきた。
「アンシア様にお友達になってくださないかしらとお願いしていたの」
「レイティア。この子に興味があるんですの?」
テーリラの双子の姉であるマリアも来た。二人の顔は同じだが、性格も違い、髪もマリアは縦ロールだ。
「ええ」
「じゃあ、私ともお友達になってくださらないかしら」
マリアが言った。
「へ?」
アンシアは頭がパンクして間抜けな声を出している。これ以上はアンシアを困らせるだけだ。
「では、今日はこれで失礼しますね」
そう言って私がアンシアの元を離れると双子も離れ、私についてくる。
私がアインスの座っている席に戻り座ると、双子もそこに座る。双子はその椅子に座れるように私たちを押し込む。こういう事できるのは双子しかいない。
そうして私たちは押された。これは一回目ではないので、アインスも私も驚いてはいないが、どんどん壁側に押されて辛い。
「すみません。アインス様」
体が壁についたアインス様に私たちのことが眼中になく、どちらが私に近い方に座るか揉めている彼女たちの代わりに私が謝った。
「いや、大丈夫」
こんな時でも笑顔を向けるアインスの頭に天使の輪が見えた。
喧嘩をしていた双子に押され、私はバランスを崩し、アインス様の方に向かって倒れた。
私は目を瞑ったが、痛くはなく、目を開けると腰と頭にアインス様の手が回っていた。
(やばい アインス様の顔が近くにあって顔が赤くなる。こんな顔見られたくない)
そう思った私は顔を両手で隠した。
「ごめん。嫌だった?」
「いえ、ソウイウワケデハナイデス」
片言になりながらも私は頑張って話した。
私は態勢を直し、双子にここではないところに座ってほしいとお願いをした。双子は渋々、私たちの後ろへ移動した。
「アインス様。いつもありがとうございます」
まだ少し顔が赤らみながらも私は微笑んで言った。
「こちらこそ」
アインス様は天使のような笑みを見せて私に言う。
そうして、先生が来て教科書を配り終えるとその日は解散することになった。
「レイティア。この後、何か予定あるかな」
「いえ、何も」
「では、少し付き合ってくれないかな」
「ええ。喜んで」
アインスが向かうまま歩いていると、紋章が何もない馬車についた。
「遠いところに行くのですか?」
まだ日は高いから問題ないが、どこに行くのか気になる。
「行ったらすぐわかるよ」
そう言ってアインスは馬車に乗った。
馬車は市井の方へと向かった。だから、馬車に乗ったのか。紋章のある物だとすぐに貴族だと分かるから。
「これを着てくれ」
そう言われて私はマントを着用した。確かに、この制服は目立つし、マントを着た方がいいだろう。
馬車は止まり、私は窓からどこなのか見た。
「アインス様。軽い気持ちでここに来たのではないですよね」
私は真剣な眼差しで言った。軽い気持ちで気持ちで来てはいけない場所だったからだ。
「奴隷市場で、何をするつもりですか?」
この国で奴隷は認められているが、王族が来る場所ではない。ここは仮面をしている者も多いので、そこに王族が入っていても何も問題がないが、バレてしまえば今後の王位継承に関わってくる。