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 言い方は悪いが、ゴミと同じである。

 捨ててあるモノには所有権はなく、持ち帰った人のモノになる、というやつだ。


 それならそうと先に教えてほしかったのだが、流石に陸をゴミと同列に扱うのは(はばか)られたのだろう。オスカは別の理由のそれっぽい言い方で、陸に説明した。


「マジか……」

「危険ではあるが、リク殿を解放するには確実な方法であった」

「父上、それでは?」

「うむ。禁忌の睡眠薬を使ったことは大罪であるが、情状酌量の余地がある」

「「本当に?!」」


 陸とオスカの声が見事にハモった。国王が腹を抱えて笑う。


「そなたらはあのオスカという男が好きなのだな」


 好きか嫌いかで聞かれたら、当然好きだ。陸にとってはこの世界に来てから二番目の先生なのだから。ルカスから頼まれたとはいえ、約一年、陸の謎解きに付き合ってくれた。何とか因縁を晴らして、幸せになってほしいとも思う。

 ルカスはルカスで、少し気まずそうに顔を下に向けた。横からその顔色が見える位置にいる陸は、頬のあたりが少し赤らんでいるのを確認した。


(……両想い確定、だな)


 告白しているわけではないので、状況的には両片想いが妥当かもしれない。


「しかして、リク殿。これからどうする? このままではそなたの姉の心臓が捧げられるぞ?」


 国王の問いに、陸は顔を引き締めた。


「国王陛下。申し訳ありませんが、俺は儀式を邪魔しようと思っています。やっぱり姉貴を殺されるわけにはいきません」

「しかしそれでは我が国の王位継承や存続自体が危ぶまれる。そなたは我が国を滅ぼす気か?」


 口調は穏やかながらも、国王はその腰に()いた長剣に手を添えた。

 もしも国に仇をなすならば死をもって制裁すると無言の圧力をかける国王に、陸は首を振った。


「国を滅ぼす気はありません。滅ぼしたくもありません。俺たち姉弟を気にかけてくれた国王様を裏切るつもりもありません。でも、儀式は止めさせようと思います」

「どうやって?」

「神ウリテルを説得します。国王陛下、俺は神殿で神ウリテルが何故聖女の心臓を求めるのかを知りました。建国伝説そのものを大きく揺るがす秘密を暴いたのです」


 暴いた、とかっこよく言ってみたものの、それが本当かは分からない。

 しかし今は噓も方便。とにかくはったりをかけるしかない。自信がないと思われれば、国王の刃が陸に突き刺さるのだから。


 陸はこれまでに推理した内容を国王に語った。ルカスも静かに耳を傾けている。

 人生の経験値の差だろうか。国王は驚きつつも陸の話を受け入れてくれた。王家にも国王にだけ代々伝わる話があるらしい。


「だからお願いです。女神の怒りを鎮めるためにも、一緒に頭を下げてくれませんか? できれば三人の王子様たちも一緒に」

「それで神の怒りがどうにかなるなら、別に構わないが……ルカス、そなたは?」

「父上が頭を下げるというのに、わたしたちが下げぬ道理がありましょうか」

「そう言うと思った」


 国王の理解を得た陸は満面の笑みになった。これで陸が考えていた「国王たちと土下座する」作戦は確実になる。

 しかし陸ははたと止まった。

 何故、国王は陸の話を信じたのか?


「私が前回の儀式に臨んだ時、神ウリテルを間近で見た。その姿は女神だった。このことは歴代の国王しか知らないはずのことだ。しかしリク殿、そなたはそれを知っていた。だから信じた。これで理由になるかな?」


 これ以上ない理由だった。

 もしも国王陛下と儀式について話す機会があれば、もっと早く推理を進めることができたのではないだろうかとも思った。しかしそれも後の祭りだ。

 とりあえず、陸は自分の推理の方向性が割とあっていることを喜ぶことにした。


「さて。それでは私はリク殿がどのように儀式を妨害するのか、楽しみにしていよう。くれぐれも国を滅ぼしてくれるなよ。上の神殿には刃物の持ち込みは禁じられているが、私の腕力でリク殿の息の根を止めることはできるからな」


 さらっと脅しつつ国王はベッドから立ち上がると、陸の頭を撫でた。


「しかしどのようにして上に行くつもりだ? 我々が階段を上る時には道は閉ざされるぞ」

「えっと、ですね……」

「リク」


 部屋に耳障りなキーキー声が響いた。

 声のした方を見ると、身長一メートルくらいの人っぽい影がある。眼鏡をかけていた。


「ノッガー!」

「オスカ、言った。リク案内しろと」

「まさか、コボルトか? 土の精霊の?」

「神殿大文殿から出てきて大丈夫なのですか?」


 三者三様に驚くが、ノッガーは特に気にせず陸のベッドに飛び乗った。


「ははっ……まさか古の精霊まで味方につけているとは。オスカに命じられたのか? リク殿、ルカス。オスカとはどのような男なのだ?」

「それは」

「父上。それは会った時にお教えします。ノッガー、と言いましたね? 地上に出てきて問題ないのですか? 光は苦手なはずでは?」


 ルカスは陸の言葉を遮ると、神殿大文殿にいるはずのコボルトを気にかけた。

 コボルトは土の精霊で、普通は光の当たらない地下にいる。それが地上に、しかも陽の光がさんさんと降り注ぐ朝から出てきていいのか、弱ってしまうのではないかというのだ。

 だがノッガーは肩をすくめて、それは人間の誤解だと一蹴した。普段地中にいるから光が苦手というイメージが付いただけで、光や炎に弱いというわけではない。むしろ彼らは人の目のないところで日光浴するのが好きらしい。神殿大文殿では地上に上がることがなかなか難しいので、親しくしている炎の精霊たちに体を温めてもらっているのだという。

 陸はいつか『開かずの倉庫』で見た、ノッガーに興奮していた燃える人形もどきの姿を思い出した。久しぶりの旧友の姿に、燃えない火の粉を飛ばして熱烈大歓迎だったのだ。


「人、少しの情報で判断する。よくない」

「ごめんなさい……」


 土の精霊に(たしな)められたルカスは素直に謝った。

 ノッガーは満足すると、陸に向き直った。


「ノッガー、オスカ様はなんて言ったの?」

「オスカ言った。陸起きたら上に行く。だから連れて行く」

「でもどうやって?」

「内緒。内緒。夜まで内緒。夜また来る」


 ノッガーは口に指をあてて「シィィ―」とすると、国王に顔を向けた。


「英雄の子。日光浴したい」

「古の精霊殿の頼みとあらば。早速一番長く日の当たる場所に席を用意させよう。神官たちには見つからない方がいいのだろう?」

「陛下」


 国王を呼びに来たリンゲンが部屋に入ってきた。陸のベッドの上にコボルトがいるのを認めて、一瞬剣を抜きそうになったが、ノッガーが国王の背後に隠れたので動きを止めた。


「警戒せずとも良い、土の精霊殿だ。一番日当たりのいいテラスを解放するように伝えてくれ」

「はっ」

「リク殿。私はこれで失礼する。ルカスも」

「えぇ。リク様、わたしもお暇しますね。また後でお会いしましょう」


 一気に人気が引くと、急に部屋の中が寂しくなった。

 陸はまだ少しだるさの残る体をどうにかしようと、ベッドから立ち上がる。少しよろめいたが、軽くストレッチをすれば体の感覚が元に戻った。念のため服を捲り上げて体のどこにも傷が付いていないことを確認する。部屋を見回せば、消えないランタンの光が目に入った。


「協力者が誰か教えてくれなかったのはこういう意味か」


 建国伝説と宗教という大きな繋がりがある神殿と王家である。王家が陸を匿うということはつまり、神殿を裏切るということ。だからオスカは協力者が誰か明かさなかったのだ。

 敵を欺くにはまず味方からとはいうが、少々隠し事が多くないだろうか?


「まぁ、無事に逃がすためだもんな。仕方ないか」


 陸はそのまま軽く体操をすると部屋を出た。無駄のないデザインの廊下を、使用人たちが行き来している。その一人に声を掛け、コボルトがいるだろう場所を聞き出した。

 やる事がないので、夜になる前にノッガーに会いに行こうと思ったのだ。

 案内されたのは、通常は洗濯干し場として使われている広いテラスだった。人目を避けるため周囲を囲むようにシーツが干されている。まるで布の迷路のようだ。あの上の神殿の地下空間を連想させる。


「ノッガー、どこ?」

「リク、こっち」


 コボルトの声を頼りにシーツを捲っていけば、大きなハンモックに揺られて気持ちよさそうにしているコボルトがいた。手の届く範囲に置かれたテーブルで真っ先に目に入ったのはフルーツ山盛りの大皿だ。更に、一口大に切られたステーキ。その隣には、握りこぶし大のパンも添えられていた。ジョッキに注がれているのはエールだろうか。隅っこに置かれているのは呼び鈴で、足りなくなったらこれで呼べと言うことだろう。


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