第三章 欲塗れの肉樽(BL/暴力/不快表現あり) 後編
相手の反応を見ながら、ゼヴェリウスはぺろりと唇を舐める。
「……王家の方に、もう少し神殿に対する敬意を示していただきたいのです」
「それは『参拝の頻度を増やせ』という意味ですか?」
「『増やせ』などと偉そうなことは申しません。ですが、『お越し頂きたい』という意味では同じですかな」
静かな個室に、わざとらしい高笑いが響いた。
大神官補佐以上でなければ口も利けず、大神官であっても跪かせるのができない人種。それが王族の人間だ。昔はその姿さえ見られなかったのに、今は同じ部屋で向かい合い、間近で言葉を交わしている。
よくもここまでのし上がってこれたものだと、ゼヴェリウスは我が身を褒め称えたくなった。
「現国王の御世になってから、国王陛下の神殿ご来訪の僥倖を一度も賜っておりません。そのため、民たちの間には『我々の関係が悪化しているのではないか?』という声がございました。
ここ数年はルカス様が定期的にいらっしゃるのでその声は抑えられておりますが、この機会に両者の強い繋がりを民に示すことで、アクララン全体の結びつきを強めたいのです。王家の始祖であるアクララン様は、信心深かったと伝えられておりますから、それに倣っていただきたいのです。……更に申し上げるなら、王太子選定の儀が終わってからで構いませんので、三王子の内どなたかに神殿にお入り頂きたいのです」
大神官の話を聞いたルカスは、腕を組んで考え込んだ。
顔の大半が布に隠されていて微細な表情は読み取れないが、キュッと結ばれた薄めの唇にゼヴェリウスが熱心に視線を注ぐ。
「いかがでしょうか?」
「……即答はしかねます。一度、考える時間を頂いても?」
「是非ご検討いただいて、色よいお返事をお待ちしておりますので」
ゼヴェリウスがルカスとこんなにも長く会話をするのは初めてのことだ。いつもは軽く挨拶をした後、さっさと上の神殿に向かってしまう。どんなに誘っても参拝が終わるや否や、すぐに馬車に乗って帰ってしまうのだから、つれない仕打ちにも程がある。
折角だから少しでも親睦を深めようと、大神官が身を乗り出したところで、護衛の騎士がルカスの方に触れた。話の腰を折られたゼヴェリウスは騎士を一睨みしたが、ソファーから立ち上がったルカスに遮られてしまった。
「失礼、大神官様。申し訳ありませんが、後の予定もありますので、今日はこれで失礼します」
――そちらも弟君の件、宜しくお願いしますね。
そう言い残して帰っていったルカスの姿を、自室に戻ったゼヴェリウスは何度も思い返してはうっとりした。
話し合いなど面倒ではあるが、話し合うと言った以上やらなければならない。英雄の子孫や聖女の血筋が自分たちの支配下に入ると聞けば、他の大神官たちは面白がって賛同するだろう。例え他の神官たちがどんなに反対しようと、最終的には主たる大神官の意見が通るのだ。最終的には強権を行使すればいい。
人の二倍の太さはある指をくねくね動かし、今後に思いを巡らす。
神ウリテルに仕える聖女によって誰が王太子に選ばれるかはまだ分からない。だが歴代国王を振り返ってみると、英雄アクラランの容姿に最も近く、指導者としての素質に特に恵まれた者が選ばれる傾向にある。
その傾向に当てはめてみると、三人いる王子の中でも北方戦線で常に先頭に立つ第一王子が、王太子に選ばれる可能性が最も高いと考えられた。
もしもゼヴェリウスの予想通り、第一王子が王太子となった場合、次に埋めるのは、七騎士団を取りまとめる騎士団長の席だ。王太子から外れた二人の王子のどちらが、この席に相応しいかは考えるまでもない。
これまでは国王にも騎士団長にもなれなかった王子たちは、騎士団の一員として戦場に繰り出すか、大公や貴族の身分を与えられて治政の場に立つかしてきた。逆に言えば、この三つの中から選ぶしかない。
そこでゼヴェリウスは「王族が聖職者になる」という第四の道を新たに開くことで、歴史にその名を残すことを望んだ。
幸運なことに、ルカスは最も熱心に神殿に通う敬虔な信者だ。王族の人間を初めて神殿に迎え入れるとしたら、数える程度しか訪れなかった他の兄弟よりも、彼の方が絶対に相応しい。何より筋肉質で御しにくそうな男より、力で簡単に抑え込めそうな優男の方がいろいろと都合がいいのだ。
年齢的にはとうが立っていたとしても、完全な素顔を見たことがないとしても、神殿にはあれほど洗練された高貴さのある人間はいない。
涼し気に微笑みを浮かべる顔が、苦痛に歪んだらどんなものだろうか?
無理矢理与えられる快楽に悶える姿はどんなものだろうか?
泣いて縋るのだろうか、あるいは涙さえ溢れないのだろうか?
想像するだけでゾッとするような快感が太った体の中心を貫いた。
駄目だ、堪らない。
ゼヴェリウスはいそいそとローブを着こみ、巨体を揺すって宿舎棟に併設された、倉庫棟の一つに駆け込む。壁に仕掛けられたギミックを発動して隠し通路を出現させると、その奥にいくつもの錠前で固く閉じられた頑丈な扉があった。
扉を開くと、中には数人の少年がいた。いきなり入ってきた男に関心を示すことなく、気怠そうに虚空を見つめている。部屋には甘ったるい香りが充満していた。
その香りに刺激され欲情したゼヴェリウスは、その中からくすんだ金髪を鷲掴みにすると、乱暴に寝台に放り投げた。
忙しなく使う所だけを剥き出しにして、使い込まれた穴を塞ぐとせっせと腰を振る。くぐもった呻き声など気にしない。途中で暑くなって服を脱いだ。だらだらと汗を流しながら、何度も何度も肉を打ち付け精を放った。
それでもまだ足りなくて、全体重をかけてのしかかっていると、ふいに体の下で嫌な音がした。
「……こんの役立たずが!」
抱き人形からただの肉塊に変わってしまった少年を寝台から蹴り落とすと、目に付いたそばかすの少年を次の慰み者として呼び寄せた。先ほどよりも強引に体を重ねると、部屋中にボーイソプラノが響いて余計にそそられる。
最奥を抉った時に腕に爪を立てたから、事が終わってから思い切り長鞭を振るって仕置きした。ひゅんっと空気を切り裂く音がするたびに、稚児の白い肌に目の覚めるような赤線が次々に現れる。所々に散る赤紫のアザと相まって、まるで絵画を描いているような感覚に陥った。
「あはっ……ははは、ははっ! ……ははははっ!」
血に濡れたシーツから抜け出すと、目に付く白い肌全てに向かって腕を振るう。悲鳴を上げる者もいれば無言で倒れる者もいる。全員が権力者では無抵抗で非力だ。されるがままの弱者に昔の自分を重ねては、ゼヴェリウスは何度も何度も鞭を振るった。今の自分は強者の立場にあるのだと、確認するために少年たちを虐げた。
「異世界の小童など、恐れることないわっ!」
足元に倒れてきた邪魔な体を、思い切り蹴とばして道を開ける。その隣にいた二十歳くらいの若者の頭を愛おしそうに撫でてから、その胸元に爪を立てた。
「あの女の弟も、あの鼻持ちならない第二王子も、神殿に呼び寄せてワシが犯してやる! みんな、みんな、このワシに傅かせてやる!」
聖女の弟を支配下に置くことで、聖女を、更には神までも傅かせているような感覚が味わえるかもしれない。
第二王子のシンボルでもある青い花を散らすことで、あの毅然とした王家の一団の矜持を踏みにじることができるかもしれない。
この国で唯一ゼヴェリウスを前にして膝をつかない人々が、青ざめ、言葉を失う様子はどんなものだろうか。
想像するだけでゾクゾクした快感が背筋を突き上げた。
「…………ワシはこの国だけじゃなく、神さえも従えてやるぞっ……!」
その男の名は、ゼヴェリウス。
他の大神官二人とともに『主たる大神官』として、数百人もの神殿の神官たちを統べる男である。
歪んだ幼少期を過ごし、恨み辛みを友にして、ただひたすらに権力を求めてきた。
人を虐げ貶めることでしか喜びを見いだせない、実に哀れな男である。
【あとがき】
ゼヴェちゃんから見たルカスの鼻持ちならないポイント
・もっとお喋りしたいのに、いつもさっさと帰っちゃう。
・家名を捨てるとか言ってる。
・憧れすぎて憎さ百倍。




