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48 ☆ここから書き直し中

ちょっとえちがあります。

「御髪を、伸ばしているのですね」

「はい。十番目の月に入ってから、少しずつ。もう俺のフードの中を覗こうとする奴はいませんから」

「フフッ、それは良かった。オスカから聞きましたよ。何でも暴漢を投げ飛ばしたとか?」

「俺は自分の身を守っただけですよ」


 ルカスの両手が陸の頬をふにふにと摘まんでから離れた。


「目の色は?」

「そっちはオレンジのままです。念のためね」


 目の色を変えるためのスッキリ爽快目薬は引き続き使用中だ。相変わらず強烈なメンソール入りの付け心地だが、陸は割と気に入っている。それに、オレンジ色の瞳も悪くないと思っていた。


「オスカ様なら今頃は上の神殿に向かっている途中ですよ」

「知っています。明日彼にも会いますから。リク様、まだ少しお時間よろしければ、手を引いてもらえますか?」


 ルカスは男性だというのに、つい女性にエスコートするようにその手を自分の肘に置いてしまった。第二王子を女性扱いしてしまった陸が慌てて手を握ると、ルカスは笑いながらその肘に手を絡めた。


「いいですよ。リク様もその方が歩きやすいでしょう?」


 二人で並んでみるとあまり身長差がない。この一年ちょっとで陸の身長がかなり伸びたのだ。

 付添人たちを少し下がらせ、ゆっくりと二人で歩く。神殿での生活はどうかとか、先輩神官たちに苛められていないかとか、お腹は空いていないかとか、ちゃんと寝られているかとか。何度か手紙のやり取りをしていたというのに、まるで母親のようなことを聞いてくる。


「睡眠が足りないようでしたら、また子守唄を歌って差し上げますよ」

「俺も次の一番目の月には十七になります。そうやって子ども扱いしないでください」

「フフッ、努力はしましょう。父もリク様を気にしておりましたよ」

「国王様は変わらずお元気ですか? 他のみんなも」


 国王陛下も、宰相も、近衛隊の隊長も、近衛隊の騎士たちも、王宮の使用人たちも、老魔術師ヤン・ノベも皆元気だという。ヤン・ノベに関しては直接精霊電話でやり取りを行っているが、やはり第三者からその状況を聞くと安心した。

 とりとめのない話をしていると、付添人がそろそろ時間だと告げた。


「残念。時間というのはあっという間に過ぎてしまうものですね」

「俺もです。でも久しぶりに直接お話しできて良かった」


 十一番目の月の回が、この年最後の神殿参拝となる。次に会えるのは一番目の月だ。しかしその時にもルカスと会えるかは分からない。

 少々別れるのが名残惜しくて、陸が行けるギリギリの場所までルカスを送っていった。


「リク様、また必ずお会いしましょう」

「はい、必ず」


 扉が閉められる瞬間、オスカはふっと顔を綻ばせた。


「……神殿で、待っていますから」

「え?」


 ガタン、と王家の別荘専用の馬車が動き出す。

 陸はそれを追いかけようとして踏みとどまった。

 神殿で待っている。

 美祢と同じことを、何故ルカスが言うのか。

 無意識に、唇に手が触れた。




 その夢は、視界を狂わせる渦巻から始まった。


 軽快な鈴の音と腹に響く太鼓の音。深夜の居酒屋で酔っ払った中年たちがやんややんやと囃し立てるような雰囲気。手拍子。野太い笑い声と黄色い悲鳴。次第に他の楽器の音も聞こえてきた。


「おう新入り! おねんねにはまだ早いぜ!」


 ガシッと力強い腕に肩を組まれ、陸はハッと意識を取り戻した。地べたに直接胡坐をかき、手にはアルコール臭のする飲み物を持っている。相変わらず膝丈のチュニックを着ているが、手足には薄い鉄製の手甲や足甲をつけ、腹回りにはこれまた鉄の円盤がついた大きなベルトをしていた。チャンピオンズベルトのようだ。古代の剣闘士。そんな格好だ。

 隣にいるのは髭もじゃの男で、長く伸びた髪と髭で顔が良く見えない。コガネムシのような片目が光り、もう片方は眼帯で隠れている。見た目は不潔だが、気の良いオヤジなのだろう、ガハガハと豪快に笑って、反対隣の男の盃を酒で満たしている。

 少ない松明の光が、宴を怪しく照らしている。


「酔ったか、若いの。これくらいで酔ってちゃ駄目だ。男ならもっと強くなきゃ!」


 アルコールハラスメントという考えなど皆無である。

 男なら飲め。飲めなくても飲め。

 陸は次々注がれる酒を飲みほした。鼻を刺激するアルコール臭に比べてその度数は少ないようだが、それでも胃に来る感じがする。陸は吐き気を催しているのに、陸の体の方はそうではなかった。陸のそれより筋肉質なその体は、あっという間に盃を空にする。

 あの夢と同じだ。

 海の上を漂っていた、少年アークィルの夢。


「酔っちゃいないよ。少し疲れただけだ。何せ百人ぶった切ったんだ。これくらいの酒じゃ酔えないさ」

「いいねぇ、若いの! お前、名前は? いくつって言ってたっけ?」

「アクララン、もう二十一さ」

「アクララン! 長いがいい名だ、アクララン! 俺はペペルビシュだ、ペペと呼べ。おい、もっと酒を持ってこい。この若い英雄様にもっと注げ!」


 ペペはアクラランと名乗る新兵の若者を持て成せと、周囲にいる美しい踊り子たちに言いつけた。彼女たちはヴェールで顔の上半分を隠し、ビキニに薄絹のズボンを合わせたような官能的な衣装に身を包んでいる。胸の下から腹回りは覆うものがない。そのズボンも太腿のあたりに大きな切れ目が入り、生足が触れた。手首と足首には鈴をつけ、それが動くたびにシャンシャン音を鳴らした。宝石だろうか、小さなアクセサリーがキラキラと女たちの魅力を引き立てた。


「そこの女!」

「きゃっ!」


 豊かな黒髪を持つ女の手をペペが引く。ちらりとその顔を隠すヴェールを覗き見ると、気に入ったのか上唇を捲り上げて笑みを浮かべた。


「女、見ろ。これが今回の戦いの英雄、アクララン様だ。たった一人で百の敵兵をなぎ倒した。そんでもって、この地に平和をもたらした! この人間離れした英雄様を癒して差し上げろ」

「おい、ペペ。無理強いは」

「大丈夫だ、アクララン。お前と寝たくない女なんていねぇよ。なぁ?」


 ペペはアクラランを立たせると、その辺のテントの中に女と一緒に放り込んだ。


「女の抱き方が知りたかったら言えよ!」


 そんな冗談を残して立ち去っていく。


「あー……仲間がすまなかった。嫌ならこのまま出て行っても構わない」


 アクラランは気まずそうにガリッと頭を掻いた。視線を彷徨わせると部屋の中には歪んだ鏡があった。布に遮られた松明の光だけが頼りの薄暗いテントの中でも、その輝くような金色の髪色は分かった。

 陸は信じられなかった。

 自分は今、アクラランの目を通じてその英雄の姿を見ている。


「本当に無理はしなく、て」


 途中で彼の言葉は遮られた。

 アクラランの中にいる陸も、一瞬思考停止した。


「んっ……」


 軽いリップ音をさせながら、踊り子の女は唇を離すと、もう一度深くキスをした。


「いいのか?」


 舌を絡める間に若き英雄が確かめる。


「あなたと一つになりたい」


 女は悩ましい声で囁く。その声は官能的な見た目よりも若く聞こえた。

 アクラランは女の体を軽々持ち上げると、地面に敷かれた獣の毛皮の上にその体を横たわらせた。甘い口付けを貪りながら、邪魔な布をはぎ取る。女の体はしなやかで柔らかかった。その身を埋める。真珠色の背中に赤い印をいくつも残し、その肩口に噛み痕をつける。上に下にと体勢を変えて、溶けあうように愛し合う。

 それは荒々しくも、確かめ合うような交接だった。


「は、あっ、あっ……ぁああっ!」

「っ、く、っ!」


 何度目かの行為を終えて、二人は息を切らしながらまた口付けを交わした。今度こそ精根尽き果てたアクラランは、女の髪を弄んだ。


「……気に入った。オレと生きないか?」


 女は答えずにアクラランの唇を己のそれで塞いだ。舌を深く絡め合い、息を奪う。

 アクラランはそれを承諾と受け取った。与えられるキスの雨を享受する。

 心地よい疲れに意識を手放し、再び目を開けると朝だった。

 あの柔らかく滑らかな肌を求めて傍らをポンポンと探るが、そこに目的のものがない。

 勢いよく起き上がる。テントの中には彼一人だ。

 外ではガヤガヤと慌ただしい朝の騒音が大きくなってきた。そこに眼帯の男の声が聞こえて、アクラランはテントの垂れ幕を払いのけた。


「ペペ!」

「おう、英雄。朝から立派なもん見せてくれるな」

「女を見なかったか?!」

「がっはっは、色男でも逃げられたか?」


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