95、最強武神4
前話では投稿日を誤ってしまい、申し訳ありませんでした。今回はちゃんとできました!
「……えぇー……これ詰んだ?」
「詰んでません。私たちも加勢します」
「ナギ助……」
いつも通りの戦いが出来ない上、最強武神を相手にしなければならないので、リオは思わず苦い相好になってしまった。
だが、そんなリオに加勢するべく立ち上がったナギカを筆頭に、彼らは各々の武器を取り出して戦闘態勢に入る。
ギルドニスは拳銃を、ナツメは狙撃銃を、ルークは剣を構え、メイリーンは歌を歌い始めた。
メイリーンの小さな口から紡がれる、遥か彼方まで届く美しい歌を初めて直接聞いた武尽は、酔いしれるように眉を上げる。
「ほう。流石はアポロンが惚れ込んだ歌姫だな。遠く離れた天界から聴くのと、こうして間近で聴くのでは迫力が違うな」
「あのさ。あんたらアポロン様のこと罰してる割には、メイメイの歌ちゃっかり堪能してるわよね?」
「不可抗力だ」
何食わぬ顔で言ってのけた武尽に、リオは探るようなジト目を向けてしまう。メイリーンに神の力を行使する権利を与えた罪で、アポロンは謹慎している。であれば、その力を行使する際のトリガーになる彼女の歌も、本来であれば疎むべきなのだが、結局彼らはその美しい歌声を楽しんでしまっているのだ。
「そもそも……下界で歌ってるメイメイの声を、どうやって天界から聴いてるのかも謎だしっ」
疑問と不満を胸に抱えつつ、リオは再び武尽の元へ駆け寄る。そんなリオの後を追うように、ナギカとルークも走り出した。
リオの素早い剣技。的確に急所を突いてくるルークの剣撃。ナギカの滑らかな身体運びによって生まれる、不意を突く攻撃。それらを見事に捌く技こそ、武尽が最強武神と呼ばれる所以の一つだろう。
受けたとしても、その身体で弾き返せる攻撃は避けず、身体のバランスを崩したり、飛ばされる可能性のある攻撃は上手く避ける。全ての攻撃に対してその判断を下し、適切に対処する武尽の戦闘能力は、リオが羨望してしまう程である。
すると、そんな彼らの攻防をジッと見つめていたアマノは、意を決した様に口を開く。
『敵を倒せ』
ジルの込められた声で、自分自身に命じたアマノの瞳が怪し気に光った。
身体の中のジルの許容量をコントロールし、成長した分のジルを使ったアマノは、刹那の内に少年の姿まで縮んでしまう。洗脳によって虚ろな瞳になったアマノは、そのまま敵――武尽の元へ一直線に駆け出した。
アマノがリオたちに加勢し、武尽が彼らの対応に集中している隙に、ギルドニスは弾丸を撃ち込むタイミングを見計らっていた。そしてそれは、離れた場所から狙撃銃を構えているナツメも同じである。
ギルドニスとリオたちは目配せすると、早速行動に移した。リオ、ルーク、ナギカの三人が一斉に武尽に攻撃を仕掛け、彼がそれを対処している隙を狙い、アマノが彼を羽交い絞めにして動きを封じる。
だが、洗脳されているとは言っても、アマノの力にも限度があるので、そう長くはもたない。なのでアマノが羽交い絞めにした瞬間、リオたちは即座に武尽の傍から離れ、ギルドニスが銃を撃ち込む通り道を作った。
歯車がカチッと噛み合うような完璧なタイミングで、ギルドニスはその引き金を引いた。
羽交い絞めにされているせいで、アマノを振り払っても、その弾丸を避けるだけの余裕が無いことを早々に察した武尽は、目を瞠るほどの彼らの連携を前に、精悍に破顔する。
避けようのない弾丸が武尽の頭を撃ち抜くと誰もが思った刹那、彼は大きく口を開けた。その瞬間、彼が何をしようとしているのか理解したリオは、その狂気的な発想に思わず顔を引き攣らせる。
口元に弾丸が訪れた途端、その口を勢い良く閉じた武尽は、獰猛なその歯で弾丸を噛み砕いてしまったのだ。
ガキンっ!と、聞いたことも無い様な、耳障りな不快音が闘技場に木霊し、彼らは眉を顰める。
弾丸を歯で噛み砕くという発想になる時点で、明らかに武尽は常軌を逸しているが、その荒業を成功させてしまう彼の動体視力に、彼らは驚きと畏れで目を見開いた。
武尽が何をやってのけたのか理解した時には、既に彼はアマノの拘束から脱していた。武尽はそのままギルドニスに向かって拳を振り上げる。咄嗟のことに、彼は腕を組んで衝撃に備える。だが、いくら待っても打撃による衝撃は訪れず、ギルドニスは閉じていた瞼をそっと開く。
すると彼の視界には、武尽の拳を刀で抑え込んでいるリオと、そんな彼が力で競り負けないよう、後ろから支えているナギカの姿が映った。
両者の力が拮抗する中、武尽は自身に向けられる鋭い視線に気づく。それは、遠くから銃口を向けているナツメの視線で、彼が気づいた時には既に発砲されていた。気づいたところで、普通の人間であれば回避することなど不可能だが、武尽は最小限の動きでそれを避けてみせた。
だが、武尽はナツメの真の目的には気づけていなかった。
武尽が避けた弾丸は、ナツメが二発連続で撃った物の二発目である。ナツメが使用した狙撃銃は、遠距離狙撃に向かない代わりに、発砲音が一切しないものなので、武尽は二発撃ち込まれたことに気づけなかったのだ。
そして、武尽が避けたのは二発目の弾丸。ならば一発目の弾丸は一体どこに?その答えは、刹那の内に明らかになる。
ナツメが一発目に撃った弾丸は真っ直ぐルークの元へ向かい、それを待ち構えていた彼は、剣の峰で弾丸を撥ね返した。その弾丸は、二発目の弾丸を避けるであろう武尽の元へと向かう。一発目と二発目の間には僅かな時間差しか無いが、そのゼロコンマ数秒の差が大きなカギになっている。
一発目の弾丸が放たれ、ルークがそれを撥ね返した瞬間、武尽が二発目の弾丸を避けようとする。ルークは彼の身動きを予測し、弾丸の行き先を決める。そうして武尽が弾を避けきった瞬間に、一発目の弾丸が遅れてやって来るという寸法なのだ。
「っ!」
気づいた時点でその弾を食らってしまえば、最強武神と言えど避けることは不可能。ナツメからルークへ。ルークから武尽へ。
その弾丸を、武尽は鬼の象徴である一本角に食らった。
だが、それで終わりでは無かった。
パキンっという、強烈な音と、角を折られた事実に気を取られており、彼は気づけなかった。
メイリーンの歌が終わり、彼女が片手を高く掲げていることに。
「っ……フェイント!」
「っ……」
武尽の頭上から、絶対不可避の雷が放たれ、彼はそれを一身に受けた。苦痛に顔を顰める武尽だが、彼が気絶することは無かった。
メイリーンが行使した技は、対象を一日間気絶させるはずなのだが、最強武神には神の力すらも効かないらしい。
彼らが警戒心を露わにする中、当の武尽は呆然とした様子で一人佇む。力が抜けているようにも、途轍もない威圧感を放っているようにも見える。ただ、その表情だけは窺うことが出来ない。
立ったまま気絶しているのでは?そう思いかけたその時、豪快な笑い声が闘技場を支配した。
「くくっ…………あははははははははははっっ!!」
「「……?」」
「吾輩の角を折り、剰えダメージを与えるとは……見事だ!実に愉快な戦いであった」
その息が尽きるまで笑いつくすと、武尽は満足気な表情で破顔した。その内に折れた角は生え変わり、フェイントによって負ったダメージも治癒されていく。
「え……もういいの?」
「あぁ。吾輩はこの戦いを楽しめた。アポロンの所だろうが何処だろうが、吾輩が連れて行ってやろう」
「あ、ありがとうございますっ」
当惑気味にリオが尋ねると、武尽はサラリと答えた。それに対してメイリーンは嬉々とした相好で礼を言う。
「それにしても……角を折った途端アポロンの力を行使するとは……計算していたのか?」
最後の一連の流れはあまりにもタイミングが良すぎたので、偶発的でないことは明らかであった。武尽はナツメとルークの二人に、興味深そうな眼差しを向ける。
「メイリーン様の歌の長さは知っていたので、タイミングがピッタリ嵌る瞬間に、お嬢様に合図をしただけですよ。この程度、造作もありません」
「ほう。貴様、面白いな。名は何という?」
「ルークと申します」
この後。彼ら全員に興味を示した武尽は、一人一人の名前を漸く尋ねる気になり、遅れてやって来た自己紹介のせいで、アポロンの元へ向かうまでに多少の時間を要したのだった。
********
彼らが武尽との戦闘に汗を流している頃。
エルの身体に秘められている魂の認識を、アデルはあっさりと成功させていた。命の助言のおかげで感覚が掴めていたとは言っても、流石に早すぎる。
想定の遥か上を行く彼のポテンシャルに、命は少々戦いていた。
そんな命を置いてけぼりにしたまま、アデルは次の段階に移行していた。第二段階は、認識した魂を操る特訓。そして、前世の記憶を残した状態にするための処置である。これを会得してしまえば、後は本番を残すのみ。だがその本番でミスを犯さない為には、反復練習が必要になってくる。
そして現在。アデルはその反復練習の真っ盛りである。とは言っても、エルの魂を練習で操ることは出来ないので、命が練習用の擬似魂を造ってくれた。エルの魂とほぼ同じような代物ではあるが、実際の魂ではない。練習には適任だが、こんな未知の物を造れるのも、命が創造主であるが故なのだろう。
「――命殿。少し聞きたいことがあるのだが」
「ん?何かな?何でも聞くといいよ。命に答えられることならね」
擬似魂を操る訓練の片手間、アデルは尋ねた。
「命殿は、五千年前の悪魔が、世界を滅ぼそうとした理由を知っているか?」
「あぁ…………あれね……」
どこか含みのある、引っ掛かるような声音で命は言い淀んだ。思わずアデルは首を傾げる。
「あれ、結構滑稽だよね」
「こっ、けい?」
「ごめんね。理由は話せないんだ」
「何故であるか?」
「だって。五千年前の件について、その真相を知っている人、ほとんどいないんだもん。命が君に今教えたとして、それをきっかけにアンレズナの常識が覆ったら、命が世界を変えちゃったことになるから。それはルール上良くないことなんだ。だから教えられませーん」
「……そうか」
落胆しながらも、アデルはそれ以上の追及をしなかった。命の言動は軽いように見えるが、一つ一つの挙動にしっかりと目を向ければ、彼の意志が固いことは明らかだったから。
「そんなに気になる?」
「あぁ……謎が多いのでな。それに、我とコノハ…………あ、コノハというのは現代の悪魔で……」
「それぐらい知ってるよ。命を誰だと思ってんの?」
命は呆れた様な眼差しで彼を見上げた。
「そうか……。――我とコノハにも関係のあることなのでな。ずっと気になってはいたのだ。それに……いつかアンレズナの、悪魔や愛し子、そして亜人たちに対する差別が無くなればと思っているのだ。もちろん、差別自体を無くせるとは思っていない。だが、〝悪魔だから〟〝愛し子だから〟〝亜人だから〟と。そんな表面的な理由だけが原因で起きてしまう理不尽は、やはり看過できないのだ」
「……」
アデルの思いに、命は僅かな沈黙で返す。
五千年前の悪魔に関する謎――一つ、件の悪魔が世界を滅ぼそうとした理由。当時は悪魔に対する差別は無く、幸せに暮らせていたはずなのにどうしてなのか。
二つ――悪魔には世界を無条件に愛してしまう本能があるというのに、何故世界を滅ぼそうと思い至ることが出来たのか。
大きく分けてこの二つに対する謎が解ければ、理不尽な世界を変える糸口になるのでは。アデルはそう考えているのだ。
憂いと強い意志。アデルの瞳から、それを感じた命は思う。この人間になら託しても、期待しても良いのではないかと。
「……愛し子くんの気持ちは分かった。……よし。じゃあヒントをあげようか」
「ヒント?」
「そう。パズルのピースを一つだけ、命が教えてあげる。当然、その一ピース如きじゃ、真相には辿り着けないだろうけど」
内緒話をするように、口元で人差し指を立てた命は不敵に微笑する。
「五千年前の悪魔にはね……ちゃんと世界を愛してしまう本能が備わっていたよ」
「っ……そう、なのか?」
「うん。だってその本能、命が造ったものだし」
「っ……!?」
「何驚いてるの?世界を創造しているのは創造主である命なんだから、悪魔という種族の本能だって、命が造り上げるのは当然でしょ?」
衝撃の事実を知らされ、目を見開きつつアデルは突きつけられた。
あぁ、やはりこの存在は人間などでは無いのだと。有象無象の理解の範疇に収まるような存在では無いのだと。
彼の優しさは、彼の篤実な性格の証明にはならず。彼の厳しさは、彼の冷徹さの証明にはならず。彼の逸脱した行為は、彼の狂気の証明にはならず。彼の公平さは、彼の清廉さの証明にはならない。
――当に、人知を超えている。
残酷な真実を、深淵の覗けない瞳で言ってのけた命に、アデルはただただ慄然とするしかなかった。
次は明後日投稿予定です。
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