94、最強武神3
Twitter、活動報告でも知らせましたが、作者は唐突に名前を変えました。現場からは以上です。
「なるほど……」
「それに、この子の魂を感じ取るのは、見ず知らずの他人のそれを認識するより、かなり簡単なんじゃないかな?」
「……何故であるか?」
ついでの様にサラッと言ってのけた命だったが、アデルには彼の言葉の真意が分からず、キョトンと首を傾げた。
「だって君、天界なんて未知の世界に足を踏み入れてでも生き返らせたいって思うほど、この子のこと好きなんでしょ?君が世界で一番、この子と触れ合って、知って、感じて、思ってきたんでしょ?なら、この子の気配を一番理解しているのは愛し子くんのはずだよ。
……いいかい?もっと分かりやすく言うよ?死んでしまったこの子を見つけてあげられるのは……愛し子くん、君しかいないんだ」
吸い込まれてしまいそうな程真っ直ぐな瞳で貫かれたアデルは、命の言葉一つ一つに侵食されたように硬直してしまう。
命の発言が全て図星だったからというのも理由の一つであるが、何よりアデルはその一つ一つで、エルと過ごした日々を一気に想起したのだ。
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――エルを知って。
『初めまして。小汚い悪魔の愛し子くん』
知的な雰囲気に、物腰柔らかそうな表情。なのに悪意のない毒を吐きまくり、飄々とし、友達はいなく、見ず知らずの悪魔の愛し子を救う程の、優しい心の持ち主。時に厳しく、時に優しく、時にだらしない、不器用な亜人――それが、アデルの知るエルという存在。
――エルと触れ合って。
『……そうだね。いつか僕を……その力で守っておくれよ?』
『アデルの親はこの僕さ。君がアデルの親だなんて、気持ちの悪い勘違いはやめて欲しいものだね』
修行を経て世界の厳しさを教え、教えられ。剣を交わすことで全てを曝け出し、揺るがない信頼関係を築いた。互いに互いのことを思い合い、いつしかアデルとエルは、本物の家族以上の関係になった。
――エルを感じて。
『君は無知だけでは飽き足らず、馬鹿なんだね。僕が何のために君を風呂に入れてやったと思うんだ。汚らしい君の身体を綺麗にするためだぞ?君は今、間違いなく汚れていない。そしてそのクズの発言に関してもそうだ。君という存在に触れると穢れるだなんて、そんなことあるわけないじゃないか。現に今、僕はこうして君を抱きしめているが、どうってこと無い。問題無しだ。分かったら馬鹿な考えは捨てるんだね。不愉快だ』
あの頃。触れれば穢れるという、悪意に塗れた言葉を信じて疑わず、大事な人に触れることすら躊躇っていたあの頃。
一切の躊躇いも無く、力強く、優しく抱きしめてくれたエルの手には、アデルの知らない温かさがあって。エルの優しい匂いも、抱きしめる時の力の強さも、棘があるようで、本当はアデルの為だけに紡がれた言葉の重みも。
その抱擁一つで、アデルは様々な〝エル〟を知った。
――そして。どんな手を使ってでも、エルと再び出会うと誓った。
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「……そうか……そう、であるな……」
「……愛し子くんにこんなに思われて、この子は幸せ者だね」
ゆっくりと大事な思い出を拾い集めるように、じんわりと実感してきたアデルはポツリと呟いた。それを見た命は、蕩けてしまいそうな微笑みを浮かべながら、優しい眼差しでエルを見下ろしている。
「我は……難しく考えすぎていたのかもしれぬ…………我はただ、師匠を見つけるだけでいいのだな」
「その通り。……どう?いけそう?」
「うむ」
命の助言で大きな気づきを得たアデルは、命の問いかけに力強く答えるのだった。
********
一方その頃。リオたちは武尽に連れられ、天界の闘技場を訪れていた。
闘技場と言うと少し仰々しいが、要は神々が己の技を鍛えるために使用する空間である。神々はこの闘技場で戦闘訓練をしたり、何らかの理由で広いスペースが必要になった際にここを訪れるのだ。
闘技場は一周歩き回るだけで三十分費やしてしまう程広く、高さはレディバグ全員が肩車して漸く天井に届きそうな程である。
「で。戦うって言っても、ルールとかどうするのよ?」
だだっ広い上に、物も塵も何一つ無いその闘技場をぐるっと見回すと、リオは武尽に尋ねた。
「そうだな……吾輩は武器を使わず、魔法も一切使わない。一方でお前たちは、どんな攻撃でも武器でも、好きに使うといい。これぐらいのハンデをやらねば、吾輩……」
「え、今魔法って言った?」
「吾輩の台詞を遮るな」
武尽の言葉を遮りながら、当惑したように尋ねてきたリオに、彼は不満を露わにする。
「武蔵魔法使えるの?」
「吾輩だけではない。神々は大半が魔法を行使することが出来る。アポロンの愛し子が行使できる力も、言うなれば魔法なのだぞ?」
「「っ!」」
魔法という未知の力を行使している自覚が無かったので、名指しされたメイリーンは驚きで目を見開いた。
メイリーンはこれまで、借り受けた神の力をジルに変換し、再現することで行使していたので、厳密に言えば魔法を行使している訳ではない。言うなれば、〝魔法のようなもの〟を行使していたのだ。
「神力と一括りにするのは勝手だが、吾輩がこうして拳を握るのも、言ってしまえば神の力だ。神を人に置き換えて考えてみろ。滑稽なのでな」
「「あぁ……」」
軽く掌を握りながら武尽が説明すると、リオたちは妙な納得感に襲われる。
下界の者にとって神々が未知の存在である故に、神という部分を強調してしまうが、神々からしてみれば、彼ら一人一人が行使する技一つ一つを、全て一括りにされている様なものなのだ。
例えば、人間が作り上げた拳銃で敵を打ち倒したとしても、それを人の力と表現する者はあまりいないだろう。ドアノブを捻る力も、刀で敵を傷つける力も〝人力〟と一纏めにしてしまえば、これ程滑稽な話は無い。
「武蔵は手ぶらで戦うのに、俺は刀使っていいの?」
「好きに攻撃してこい。貴様はどんな手を使っても構わん。それにこの戦いは、勝ち負けを競うためのものでは無いのでな。吾輩が満足した時点でこの勝負は決着する。大体のルールはこんなもので良いか?」
「それでいいわよ。……武蔵が強いのは分かってるけど、何かハンデ多すぎて罪悪感あるわね」
「はっ。いつまでそんな口が利けるか見物だな」
「……あの、一つよろしいですか?」
リオと武尽が戦闘時のルールを確認していると、唐突にナギカが手を上げた。途端、全員の視線が彼女に集まる。
「何だ?亜人」
「この戦闘、途中で私たちが参加してもよろしいのでしょうか?」
「ナギ助?」
「あぁ。構わぬぞ」
「ありがとうございます」
リオが形勢不利になった時は加勢するつもりなのか、確認をとったナギカは頭を下げる。
「もう、ナギ助ってば。俺一人じゃ相手にならないと思ってるの?」
「そんなつもりは……その…………」
「「?」」
ナギカに自身の力を軽んじられているのではと不安になったリオは、不満気に尋ねた。だが彼の心配は杞憂で、誤解されてしまったナギカは少しずつ頬を染めて言い淀む。
恥ずかし気に俯くナギカに全員が首を傾げる中、彼女は意を決したように口を開く。
「リオ様が、心配なだけです」
「っっ…………ナギ助…………なんっていい子なのっ!」
「っ!?」
ナギカの素直な思いをぶつけられたリオは、一瞬の内に嬉々とした相好になり、喜びのあまり彼女にヒシっと抱きついた。刹那、ナギカは驚きと困惑で目を見開き、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め上げた。
バクバクと、経験したことの無いほど高鳴る鼓動の感覚に、眩暈がしそうになったナギカは、何とかこの状態から脱するために、リオの腹を力の限り殴ってしまう。昂った感情のまま殴られたリオはその場に膝をつきながら腹を抑えると、苦し気にナギカを見上げる。
「何をなさるのですか!殴りますよ!」
「もう殴ってるわよね…………痛いわよぉ、ナギ助ぇ……」
「どうでも良いがさっさと始めるぞ。我は待たされるのを好まぬ」
亜人であるナギカの力強い拳を食らったリオに、追い打ちをかけるように武尽は急かした。
リオは渋々立ち上がると、顔を顰めながら帯刀している刀を二本同時に抜く。リオは最初から二刀流で戦うつもりらしく、武尽の戦闘力を警戒している表れでもあった。
「ほう。貴様、二刀流か」
「まぁね。って、もう始めていいの?」
「あぁ。貴様のタイミングでかかってこい」
「オッケー」
リオが二刀流の使い手であることに武尽が感心する中、彼は刀を構えてゆっくりと深呼吸を始める。精神統一しながら揺るぎない精悍な瞳で、リオは目の前に佇む武尽を真っすぐ見据え――。
「それじゃ、いっくよっ!」
目にも止まらぬほど素早く、その場から駆け出した。
リオは一瞬で武尽との距離を詰めると、彼の背後をとって高く跳躍する。左右から彼の首に狙いを定めて、両手の刀を一気に振り下ろすが、一向に避ける気配のない武尽にリオは首を傾げる。
とうとうその刃が彼の首に触れた瞬間、リオは衝撃と納得で目を見開いた。
カキンっ――と、リオの日本刀が彼の首に弾かれたのだ。
「っ……かったい……なぁ!」
とても刃が皮膚に接触する音とは思えず、リオは武尽の強靭すぎる肉体に舌打ちしたくなる。肉体に刃を食い込ませるどころか、リオ自慢の愛刀に僅かな綻びを生じさせた武尽を警戒し、リオは彼の背中をバネにして後方へと一時撤退する。
「吾輩の肉体は命が造り上げたものだ。生半可な攻撃では、傷をつけることすら叶わぬぞ」
「ハンデ多すぎて罪悪感あるとか言ってた、さっきの自分をぶん殴ってやりたいわ」
この時リオは漸く、武尽がかなりのハンディキャップを設定した理由を悟った。
中途半端な攻撃であれば避ける必要すらない程、武尽は強靭な肉体を持っている。そして防御に気を配る必要が無い分、攻撃に集中することが出来るからこそ、一切の武器を放棄したのだ。
純粋な剣撃では意味が無いことを悟ったリオは、ジルで攻撃力を上げようと思い立ち、ジルを集める時間稼ぎをする為に、壁を伝い始める。
「ほう。ちょこまかと身軽な奴だ……ならば、今度は吾輩の番だなっ」
常人離れしたスピードで壁と床を走りながら行き来するリオを目の当たりにし、感嘆の声を漏らした武尽は、彼を真似るように駆け出す。
リオと同等か、それ以上の速度で武尽は彼を追いかけ始めた。早々に追いつかれてしまうことを予期したリオは、急いでジルを集めようとするが、刹那――。
「っ……!」
痛恨のミスに気づき、真っ青な顔で目を見開いた。そして同時に、彼の焦りに気づいた武尽は不敵な笑みを浮かべている。
そんな二人の様子にナギカたちが首を傾げる中、武尽はリオのすぐ傍まで迫ってくる。咄嗟に回し蹴りを入れようとするリオだが、逆に足首をガッチリ掴まれてしまい、身体の自由を奪われた。
掴んだ脚を軸にリオを思い切り投げると、彼は壁に激突する勢いで吹き飛ばされてしまう。だが咄嗟の判断で、リオは空中で数回転した後、二本の刀を壁に向かって振り下ろした。壁に勢いをぶつけて、衝突しようとする威力を殺そうとしたのだ。
鋭い剣技によって生まれた風を利用して威力を殺したリオは、静かに壁に両足をついて、そのまま地面へと着地する。
「……俺としたことが、うっかりしてたわ」
「流石に気づいたか?」
「そりゃあね。……天界にはジルが無いってこと、すっかり忘れてたわ」
「「っ!?」」
リオが犯した痛恨のミスとは、アンレズナでの戦闘と同じ感覚で戦ってしまったことである。リオの発言で漸くナギカたちも、この戦いにおける真の難解さに気づいたのか、焦りで目を見開いた。
リオたち操志者は常日頃、空気中のジルを集めて攻撃力に変換したり、相手のジルを操ったりして戦闘を行っている。だがジルという物質が存在するのは世界アンレズナだけで、リオたちが現在いる天界にはそれが存在しない。
つまりは、ジルを集めて強力な攻撃を生み出すことも、武尽のジルを操ってダメージを与えることも出来ないのだ。
今この場において存在するジルは、アンレズナからやって来たリオたちの体内に留まっているもの。それに加えて、ジルを生み出すことが出来る、動物の特徴を受け継ぐ種族である、亜人のナギカが僅かに生み出しているものだけなのだ。
先刻までは愛し子であるアデルが傍にいたので、それなりのジルがリオたちの周りには存在していた。だが今アデルはかなり離れた場所にいる上、意識的にジルを大量に生み出そうともしていない。つまりはアデルが生み出すジルが、リオたちに影響することも無いということだ。
アンレズナに住まう者の生命維持の為、この場で唯一ジルを生み出すことの出来るナギカは、無意識的にジルを身体から発しているが、亜人が生み出せるジルには限度があるので、彼らの生命維持だけで一杯一杯なのだ。
「参ったわね。ジルが使えないと身体強化も出来ないし、刀に威力を乗せることも出来ないし……」
普段通りの戦いを封じられ、リオは苦悶の声を漏らすのだった。
予約投稿のつもりが、操作を誤って予定と違う投稿日になってしまいました。申し訳ありません。予定では8月16日投稿予定でしたので、次回は8月18日投稿予定です。今後はこのようなミスが無いよう努めますので、これからも本作をよろしくお願いいたします。
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