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レディバグの改変<L>  作者: 乱 江梨
第三章 神界編
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93、最強武神2

「確かに……一理ある……まさか命の奴、この理屈に気づいた上で黙っていたのか?だから毎度毎度、吾輩が罵るたびにニヤニヤと虫唾の走るにやけ面を晒していたのか……?この理屈に気づけていなかった吾輩を、心の中で嘲笑っていた、だと……?」

「ええっと……武蔵?大丈夫?よくわかんないけど、命ちんもそこまで悪趣味じゃないと思うわよ?」



 衝撃の真実を知ってしまったかのように目を見開き、ブツブツと独り言を呟く武尽は若干顔を青くしており、妙な切迫感を募らせているようだった。



「あのクソ創造主……あとで殺す」

「聞いてないわね」



 当惑気味に命を擁護したリオの言葉など、武尽の耳には一切入っておらず、彼は怒気を孕んだ表情で物騒な決意をしてしまった。


 周りを見ること――客観的に物事を判断するのが苦手な武尽に、彼らは困惑の視線を向けることしか出来ない。



「ふん……貴様、よくぞ吾輩に有益な情報をくれたな。褒美に貴様らの用件を、静由に代わって吾輩が聞いてやらんことも無いぞ」

「え。マジ?」

「リオ様……」



 武尽は完全な被害妄想をしているので、リオは誤解を解くべきなのだが、思いがけずに活路が開かれたので、彼は思わず嬉々とした相好を露わにしてしまう。この状況を利用する気満々のリオに、ナギカは思いきりジト目を向けている。



(命ちんには悪いけど、このチャンスの逃す手は無いわね……まぁ命ちんが被害を被るとも思えないし……)


「じゃあ武蔵にお願いしようかしら」

「はぁ……」



 命への被害と、神アポロンに会える可能性。この二つをリオの脳内で天秤にかけた結果、後者に傾いたので、彼は満面の笑みでそう言った。思わずため息を漏らしたナギカは、頭痛を抑えるようにおでこに片手を添えている。



「ナギ助?何か言いたげね」

「いいえ。特には」

「めっちゃ嘘っぽい」



 白を切っているナギカにリオは怪訝そうな視線を向けるが、彼女が素直に答えることはあまり無いので、彼は早々に諦めてしまう。

 リオが武尽の勘違いを利用したのは、メイリーンの願いを叶える為の仕方の無い処置である。ナギカが苦言を呈さなかったのは、それを誰よりも理解していたからだ。



「実は俺たち、アポロン様っていう神様に会いたいんだけど」

「アポロン?…………あぁ。そういうことか」



 アポロンの名前を聞いた後、メイリーンを一瞥して彼女の存在を認識した武尽は、納得したような声を上げた。

 彼もまた、彼女がアポロンの力を借り受けた、メイリーン・ランゼルフであることに気づいたようだ。



「命の許可は取ったのか?」

「多分」

「何だその微妙な答えは」

「〝神様の皆に何か言われたら、命様に許可されているって言っておけば大丈夫だから〟って言われたわよ?」

「相変わらず適当な野郎だな……」



 リオの伝言だけで、武尽にはその時の命の姿が目に浮かぶようで、舌打ち混じりの愚痴を零してしまう。



「まぁ……命が許可しているのであれば、貴様らをアポロンの元に連れて行くのもやぶさかでは無いが……」

「「?」」



 どこか含みのある言い方で意味深な眼差しを向けてくる武尽に、彼らは思わず首を傾げた。すると武尽はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、獰猛な八重歯を覗かせる。刹那、彼らは本能的に嫌な予感を察知した。



「喜べ下界の民よ。吾輩が貴様らをアポロンの元に連れて行ってやろう。……その代わりと言っては何だが、貴様ら……吾輩と手合わせをしろ」

「「……手合わせ?」」



 唐突に想定外且つ、理解不能な要求をされ、彼らは異口同音に尋ねた。


 彼らが疑問を感じたのは、武尽が最強武神だからである。下界の者とは比べ物にならない程の力を有している神々。その中でも最強と謳われる彼が、リオたちと戦いたがる理由が分からなかったのだ。言ってしまえば、勝負になるのかも分からない相手との戦いに、何故興味を示しているのかという疑問である。



「あぁ。貴様らの中から一人選んでタイマンもよし、全員で吾輩に挑むのもよし。……だがそうだな……一人を選出するのであれば、吾輩は貴様とやりたい」

「俺?」



 人差し指で指されつつ、名指しされたリオはキョトンと首を傾げた。恍けてみせたリオだったが、内心では武尽の思いがけない慧眼にヒヤヒヤしていた。今いる面子の中で最も強いのは確かにリオなので、武尽の見る目は確かなのだ。



「あぁ。貴様がこの中で一番の戦士と見たのでな。……欲を言えば命が独占している悪魔の愛し子の方が良かったが、貴様とて仲間の邪魔はしたく無いだろう?」

「……一応確認なんだけど、武蔵と戦って、俺死んだりしないわよね?」

「はぁ?そんなもの吾輩に分かるわけが無いだろうが。貴様がそれなりに強ければ死なないし、真面に攻撃を食らう程弱ければ死ぬ。戦いとはそういうものだろうが」

「っ……」



 武尽との戦闘を渋って、彼がアデルを無理矢理巻き込むのを避けたかったリオは、彼の要求を呑もうとした。だが、神と剣を交わして無傷でいられると思える程能天気でも無いので、念の為尋ねたのだ。


 リオの嫌な予感が早速当たり、思わずナギカは彼を庇う様に前に出る。



「リオ様……この方と戦うのであればせめて私たちと一緒に……」

「まぁそう慌てるな亜人。たかだか一度死ぬ程度で……」

「っ…………たかだか?……あなた方神々にとって、下界の者の死などその程度のことなのかもしれませんが、それを私たちに押し付けないでください。……リオ様を失うぐらいならっ……神々を敵に回した方がマシです」

「ナギ助……」



 武尽の聞き捨てならない言葉で堪忍袋の緒が切れてしまったナギカは、彼を睨み据えながら、神への宣戦布告ともとれてしまう反論をした。全員が彼女の精悍さに目を見開く中。普段はドライなナギカが自分の為に憤慨し、神相手に喧嘩を売った事実に、リオは感激していた。



「まぁ待て。死ねば命に頼んで生き返らせれば良かろう」

「「……えっ?」」



 怒りを露わにするナギカを宥めようとした武尽がサラッと言ってのけたことで、彼らは思わず目を点にしてしまう。その困惑は、ナギカの怒りが吹き飛んでしまう程であった。



「命ちん、下界の者には力を貸しちゃいけないって言ってたけど」

「はぁ?当たり前だろうが」

「へ?」

「は?」

「「……?」」



 どうも話が噛み合っていないので、両者とも怪訝そうな表情で首を傾げてしまう。しばらく両者の言い分を互いが把握できない状況が続き、気まずい沈黙が流れた。

 そんな中、武尽の発言の真意を理解しようと、一人頭を働かせているルークは、顎を摘まんで少し俯いている。



「……あぁ、なるほど」

「ルーくん?」

「下界で起きたことに関しては一切関与できないが、天界が原因で何らかの影響を受けた際、それを対処することは問題ないということでしょうか?」



 一つの結論に辿り着いたルークは、武尽にそう尋ねた。


 エルを生き返らせることを命が拒否したのは、その死が下界での出来事だからだ。〝下界で起きたことに関しては人間側の自己責任〟というのが命たちの暗黙のルールだ。だがその一方、天界に住まう者のせいで何らかの被害を受けた際は、天界側が責任をとっても問題無いのだ。



「あぁ。お前、頭が良いな」

「勿体無いお言葉です」

「ふーん。武蔵の尻拭いを命ちんがするってことね」

「聞き捨てならんな。死者蘇生程度吾輩にも…………」

「……出来ないの?」



 段々と自信無さげに声を萎めていった武尽は、とうとう言い淀んでしまう。リオは適当に言ってみただけだったのだが、苦い相好をしている武尽を目の当たりにし、本当に彼がその術を持ち合わせていないことを悟った。



「…………吾輩は戦闘以外の能力を与えられていない。武力で劣ることは無いのだが、治療はあまり得意ではない」

「へー……神様にもいろいろあるのね」



 メイリーンがその力を行使できる神アポロンは、治癒も攻撃も出来る万能さを持っているが、武尽は武力に能力を全振りしているようで、リオはしみじみと呟いた。



「まぁ……死んでも大丈夫なら戦ってもいいけど……」

「ほう。中々見所のある奴だな。普通の人間であれば、例え生き返ることを理解していても、多少は躊躇うものだが」

「そりゃ死ぬのはごめん被るけど……俺、一回死んだことあるし。……人が死を避けようとするのは、それを経験した記憶が無いからでしょ?未知なことって、誰にとっても恐怖だと思うから。それだけが恐怖の原因なら、俺が死を怖がる理由ないのよね。死んだ記憶があるから」

「自分は死を恐れないと言いたいのか?」



 意味深なことを口にするばかりで、何を言いたいのかイマイチ掴めないリオに、武尽は核心をつくように尋ねた。リオを見下ろす武尽の瞳は探る様に鋭く、一方でどこか白けているようでもあった。



「……そんなわけないじゃない。死を恐れない奴なんて、生きるのが怖いだけの弱者だわ」

「「……」」

「はっ、面白いことを言うではないか。増々気に入ったぞ」



 リオが精悍に言い放った途端、武尽の瞳に興味深そうな光が灯った。武尽が豪快に破顔する一方で、ナギカたちは目を奪われていた。どこか冷たさを孕んだリオの言葉に、態度に、眼光に、その全てに。


 それは、いつもヘラヘラとした表情で飄々としているリオからは想像できない姿で、彼らは面食らってしまったのだ。


 ********


 リオたちが武尽と相対している頃。アデルは着々と魂の操り方を命から学んでいた。


 まずはエルの魂を認識することから始めなければならないのだが、その方法を伝授する前に命は言った。



「それにしても愛し子くん、よくこの遺体に状態保持の術かけてたね?これ無かったら魂抜けて、この子とっくに輪廻転生しちゃってたよ」

「っ!そうなのであるか?」



 感心した様子で命が教えてやると、アデルは真っ青な顔で目を見開いた。それもそのはず。もしエルの死後、彼が状態保持の術をかけていなければ、エルはとっくに輪廻転生してしまい、アデルと再会することなど夢のまた夢になっていたのだから。

 行動一つ違えば、目的を果たすための努力すら許されなかったのかと思うと、アデルは冷や汗を抑えることが出来ない。



「状態保持の術って少し特殊だから。あれって対象に結界も張るからさ、ジルの影響を受けにくい魂も、流石に抜け出せなかったんだと思うよ」



 状態保持の術。アデルが遺体となったエルにかけたそれは、生物や物に含まれるジルの働きを停止させ、対象に変化をもたらさないようにする為の術だ。生きている者にかければ仮死状態になり、対象が成長することは無い。逆に死者に対して行うと、死体が腐敗せず綺麗な状態を保つことが出来る。


 そしてこの術の利点は〝対象の変化〟に、外的要因による変化も含まれていることだ。


 例えば、対象に傷をつけようとする外的要因が現れたとしても、状態保持の術をかけられている間は、何人たりともそれを壊すことは出来ない。逆に、病や怪我を負っている状態でその術をかけられると、解かない限り一切の治癒も出来ないのだ。


 それを可能にするために、対象にはピッタリと張り付くような結界が不可欠である。つまり状態保持の術というのは、対象のジルの働きを停止させる機能と、対象に結界を張ることを同時に行う、合わせ技の術なのだ。



「なるほど…………あの時冷静な判断をした自分を褒めてやりたいのだ」

「うんうん。拍手拍手」



 エルが悪魔ルルラルカに殺され、衝撃と怒りと悲憤と絶望がぐちゃぐちゃになった状態で一気に襲い掛かり、感情と視界が定まらない中、それでもエルを生き返らせることをアデルは決意した。

アデルが状態保持の術をかけたのは死体を腐敗させない為だったが、あの状況下でも咄嗟に冷静な判断をしたことは、当に不幸中の幸いであった。



「じゃあ早速魂の存在を認識する方法なんだけど、魂がジルで出来ていないことは説明したよね?」

「あぁ」

「でも君たちが住まうアンレズナは、ジルが全てと言っていい程、ジルで溢れている世界だ。もちろん君たちの肉体にもジルは含まれている。そしてそんな肉体の中に、魂は秘められている。命が何を言いたいか、分かるかな?」

「……っ!」



 問いかけた命は、アデル自らに考えさせるよう仕向けた。数秒黙り込むと、アデルは何かに気づいたようにハッと顔を上げる。



「……我はジルを感じ取ることは出来る……故に、肉体の中で唯一、ジルを感じ取ることが出来ない存在が、魂であるということか?」

「ご明察。要するに愛し子くんは、仲間外れを探せばいいんだよ」



 命は不敵な笑みを浮かべながら首肯した。


 魂にジルが含まれていないという事実は、操志者が魂を認識できないことと同義ではない。魂が秘められている体内は、謂わばジルの檻だ。肉体全てにジルが含まれているのだから、逆にジルの概念を持たない魂は、その檻の中では浮いた存在。つまりそれを察知することが出来れば、魂を認識することも可能なのだ。




 次は明後日投稿予定です。


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