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レディバグの改変<L>  作者: 乱 江梨
第三章 神界編
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92、最強武神1

 区切りをつけるように柏手を打った命は、どこか圧力を感じる満面の笑みを浮かべた。



「じゃあ命と愛し子くんは二人で特訓するから、君たちは天界で暇つぶしでもしておいで」

「へっ?でも……」

「さぁさぁ行った行った」

「あ、あの……ですが……」

「はいはいはいはい」



 突如退出を促されたリオたちは困惑の声を上げるが、有無を言わさぬ態度の命によって客間から追い出されてしまう。


 突如アデルと引き離され、右も左も分からぬ天界で、どのように暇を潰せばよいのかも分からないリオたちは、閉ざされた襖を呆然と見つめることしか出来ない。


 客間に戻ろうと、リオが襖に手を伸ばした途端、主導権を奪う様にその襖が内側から勢いよく開けられ、彼らはビクッと肩を震わした。



「あ、神様の皆に何か言われたら、命様に許可されているって言っておけば大丈夫だから。じゃね」



 バシンっ。襖から顔を出した命は、自身が伝えたいことだけを言い放つと、再び襖を勢いよく閉ざしてしまう。



「「…………」」



 忙しない命に圧倒されるあまり、声を出すことすら出来なかった彼らは、困惑の表情を見合わせる。




「えぇ……俺たちにどうしろと?……襖の癖して鍵かかってるし……どういう構造よこれ」



 当惑しつつ、襖の引手に手をかけるリオだったが、襖はうんともすんとも言ってくれず、客間への道が完全に閉ざされた証拠であった。


 そんな中、一人神妙な面持ちのメイリーンは、意を決した様に声を上げる。



「あの、リオ様」

「ん?メイメイ、どうかした?」

「私……あ、アポロン様に、会ってみたいのですが」

「「っ!」」



 彼女の申し出に、リオたちは驚きで目を見開いた。だが彼女の立場になって考えると、それを望むのは当然かもしれないと、彼らは落ち着きを取り戻す。

 メイリーンはその美しい歌声を気に入られ、突如神アポロンから偉大過ぎる神の力を与えられ、それ以降、アポロンとは一切接触できていない。借り受けた神の力のおかげで助かったことも、逆に災難に遭うこともあったが、メイリーンはお礼も恨み言も、何一つアポロンに伝えられていないのだ。



「……すいません。困らせてしまって……静由様は、謹慎中のアポロン様に会うことは出来ないと仰っていらしたのに。……でも私、この機会を逃したくないのです……!」

「…………あっ」

「?……どうかしましたか?リオ様」



 メイリーンの強い意志を聞いたリオはふと、何かに気づいたようにポロっと声を漏らした。思わず、メイリーンは不安気に首を傾げる。



()()()さ、さっき〝神様の皆に何か言われたら、命様に許可されているって言っておけば大丈夫〟って言ってたわよね?」

「えぇ……」

「それってもしかして、アポロン様に会うことも、命ちんが許可してるっていう意味じゃないかしら?」

「「っ!」」

「確かに……命様は他人の心すら読めると仰っていましたから、メイリーン様のお気持ちを察していた可能性は高いですね」



 リオの推測につけ足すように、あの発言の真意をルークは分析した。凄まじい力を持つ命にすらあだ名をつけているリオの図太さはともかく、彼の意見は的を得ていた。



「取り敢えず……静由っちにもう一回会って、アポロン様と面会できるか聞いてみようよ」

「っ……ありがとうございます。リオ様」



 自分の意思を尊重してくれたリオの優しさが心に沁み、メイリーンは瞳を潤ませながら顔を綻ばせた。



「なら、私が静由様を探してみます」

「よろしくね、ナツメっち」

「はい……少々お待ちください」



 別れた静由の捜索に名乗りを上げたのは、林の家族探しでも功績を上げたナツメである。

 ナツメは目元の包帯を取ると、辺りをぐるっと一周、ゆっくりと時間をかけて見回し始めた。その美しいオッドアイには、初めて見る天界への好奇心と、純粋な驚きが窺えられる。



「すごい……」

「お嬢様?」

「想像以上に広いですね……天界も一つの世界なので、当然と言えばそうなのかもしれませんが。どこを見てもとても神秘的で、綺麗です……」



 瞳をキラキラとさせながら感嘆の声を漏らしたナツメは、それから数分間天界中を探し回り、漸く目的の静由を視認することに成功した。だが――。



「いました……けど……」

「けど?」

「寝てますね。静由様」

「なんか……ごめんね」

「何故リオ様が謝るのですか?」

「いや……俺も似たようなとこあるし」



 静由が睡眠中であることと、リオとの間には何の因果関係も無いので、ナギカは怪訝そうに尋ねた。リオと静由は性格こそ正反対に位置しているが、寝ることが生きがいという点は全く同じなので、他人事とは思えなかったのだ。



「それに……何だか、怖そうな神様が近くにいるのですが……」

「怖そうな神様?どんな?」

「それが……ひっ……!」

「お嬢様っ!?」



 リオの問いに答えようとしたナツメは突如悲鳴を上げたかと思うと、目を覆い隠してその場にしゃがみ込んでしまった。ナツメの怯えた様子を目の当たりにしたルークは、何事かとしゃがみ込む。



「どうなされました?」

「め、目が……合いました。アデル様と初めて会った時みたいに……でもなんか、すっごい睨まれました……」

「さ、左様でしたか……」



 〝怖そうな神様〟はどうやらナツメの視線に気づいてしまったようで、眼光だけで抹殺できるのではないかと思える程の睨みを利かせてきたのだ。


 アデルと初めて会った際――彼を暗殺しようと、狙撃銃越しにアデルを見つめていた時も同じような状況に陥ってはいたのだが、今回の神はアデルの睨みが可愛く思える程ナツメを睨み据えていたので、全身を粟立たせずにはいられなかったのだ。

 そもそもアデルの場合はナツメの方に確実な殺意があったが、今回はただ様子を窺っていただけである。にも拘らず、あんな風に睨まれるのであれば、殺意があった場合の最悪な事態を想像してしまう。


 事情を知ったルークは、震えているナツメの代わりに、目元を包帯で優しく覆ってやる。



「腰が抜けているのでしたら、私が抱きかかえて差し上げましょうか?」

「っ、結構です。自分で歩けます!」

「おや。残念ですね」



 いじめっ子のような表情で満面の笑みを浮かべたルークに揶揄われたナツメは、頬を朱に染めつつ突っ撥ねた。だが、どんな反応が返ってきてもルークは喜んでしまうので、晴れやかなその笑顔を見せつけられたナツメは、悔し気に頬を膨らませている。



「その怖い神様はちょっと気掛かりだけど、取り敢えず行ってみよ。ナツメっち、案内できる?」

「は、はい。大丈夫です」



 こうしてリオたちは、アデルが魂を操る技を習得するまでの暇潰しも兼ねて、静由の眠る一室へと向かうのだった。


 ********


 二十分程歩き回って辿り着いたのは、真っ白な扉の目の前。その扉の向こうの部屋に、静由と件の神はいると思われた。


 早速リオがその扉をノックしようと、拳を徐に上げた瞬間、扉は勢いよく内側から開かれた。



「やめておけ。睡眠を妨害されたアイツは、吾輩でも手に負えない程厄介だからな」

「「……」」



 ノロリと姿を現したその人物に目を奪われるあまり、リオたちは彼の言葉を上手く頭で処理することが出来なかった。


 アデルよりも高い背丈に、屈強な身体。刺々しい赤い髪には所々黒髪が混じっている。顔には髪と同じ色の刺青のような紋章があり、ナツメが怯えるのも仕方ないと思える程の威圧感があった。焦げた茶色の瞳は瞳孔が鋭く、睨まれただけで失神しそうな程精悍である。

 彼は浴衣に草履という、リオにとっては馴染み深い格好をしていた。そして彼の爪は鋭い純黒であったが、リオの様にネイルを施しているわけでは無さそうだった。


 所々、注目したくなるパーツはあったが、彼らが目を奪われたのはそのどれでもなかった。リオたちが言葉を失うほど度肝を抜かれたのは、彼のおでこと生え際の境に生えている、一本の角が原因だったから。



「え、っと……」

「?貴様今ノックしようとしただろうが。その音で静由が起きれば終わりだぞ」

「……俺たち、静由っちに会いに来たんだけど……」

「諦めろ。お前らのせいで余計なエネルギーを消費したからな、三日は寝るつもりだぞ、彼奴」

「うそーん……」



 僅かな困惑を残しつつも、リオは目の前の男神に用件を伝えることが出来た。だが静由を起こすのは不可能らしく、遠い目をしながら落胆してしまう。


 すると男神は、自身と目を合わせないように俯いているナツメの存在に気づく。



「……ん?そこのガキ、先刻吾輩を見ていたな」

「は、はいっ……」



 速攻でバレてしまい、ナツメは思わずビクッと肩を震わせた。そんなナツメを庇う様に、彼女をその身で隠したルークは、男神を鋭く睨み据えている。


 静かでありながら、内に潜む確実な敵意を向けられた彼は何を思ったのか、突然クツクツと笑い声を上げ始めた。



「はっ、そう睨むな青二才。吾輩は寛容だからな、その程度のことで殺したりはせん」

「いや当たり前でしょ」



 ナツメに害なす者ではないと分かったので、ルークは少しずつ警戒を解いていった。一方、神である彼に対して砕けた話し方をするリオに、彼は興味深そうな視線を向ける。



「言うではないか、貴様…………お前たち、クソ命の客だろう?」

「クソ命って……そんな呼び方して大丈夫なの?」

「?何か問題か?命はこの程度で怒るほど沸点は低くないが」

「どっちが寛容なのやら」



 神々すらも尊ぶ命に対し、平気な顔で不遜な態度をとる彼は一周回って尊敬に値するが、よく考えてみれば命ほどの存在が、呼ばれ方一つで憤慨する様子もあまり想像できないので、彼の言葉も一理あった。



「……あの」

「何だ、亜人」

「……この子はナギカよ。その呼び方、やめてくれるかしら?」



 不意に口を開いたナギカに対する口ぶりに悪意を感じてしまい、リオは冷たい声音で男神に対する不信感を露わにした。だが、舌鋒鋭く睨まれても当の本人は何処吹く風で、リオからの敵意など些細なことだとでも言いたげである。



「吾輩にとって亜人は戦闘能力の高い、好感の持てる種族だ。吾輩は強い者にしか興味が無いのでな。貴様が機嫌を悪くする必要などない。……それでも名前で呼べと?言っておくが、吾輩は短気だ」

「……分かったわよ。ていうか、さっきの寛容発言は嘘か」



 亜人と呼んだことに呼称以外の他意が無かったことを理解したリオは、渋々といった感じで納得してやった。意地でも名前で呼ぼうとしない態度は癪に障るので、いつものリオであればもう少し舌戦を続けるのだが、男神を怒らせて何かあれば一巻の終わりなので、何とか気持ちに折り合いをつけたのだ。



「それで?何か言いたいことでもあるのか、亜人」

「その……先程、何やら騒いでいた神様の声と、あなた様の声が同じようなので、同一人物なのかとお尋ねしたくて」



 ナギカが言っているのは、静由に客間まで案内してもらっている最中、強烈な轟音の後に聞こえてきた男性の大声のことである。耳の良いナギカにはその声と、今目の前にいる男神の声が似ているように感じられたのだ。



「え、そうなの?」

「はい。言語は違いましたけど、声は全く同じだと思います……静由様が〝武尽(たけつ)〟と呼んでいらっしゃったので、あなた様がその武尽様なのかと思ったのですが」

「いかにも、吾輩は武尽(たけつ)――この天界において最強武神と崇められる、鬼の男神だ」



 不敵な笑みを浮かべながらそう名乗った鬼神――武尽は、腕を組みながら誇らしげに胸を張った。一方、彼の頭に生える角が、鬼の一本角であることを知ったリオたちは、妙な納得感に襲われる。



「最強武神……って、神様の中で一番強いってこと?」

「あぁ。吾輩に勝てる者など、命以外にはおらぬな」

「……じゃあ()()は」

「おい待て。何だその下らんあだ名は。アホ命を思い出すからやめろ」

「命ちんもあだ名つけるの?」

「あだ名というか、アイツのはほぼノリだな。基本的には名前で呼ぶのだが…………っと、そんなことはどうでもいい。何か言いかけただろう、貴様」


「武蔵はさ、命ちんのことが大好きなのね」

「………………おい。何がどうなればそうなる」



 満面の笑みであまりにも唐突に言われた武尽は、不愉快極まりない印象を抱かれたことで機嫌を急降下させる。低く唸るような声は凄まじい迫力だが、神のオーラに慣れてしまったリオには何のダメージも無かった。



「だって武蔵、強い者にしか興味ないんでしょ?なら、武蔵に唯一勝てる命ちんのことは、大大大好きなんだろうなって……違ったかしら?」

「…………」



 強者を好むという武尽の発言を鵜呑みにするのであれば、森羅万象において最強である命を好いているのでは?というリオの推測は的を射ており、武尽は一瞬茫然自失としてしまう。何故なら彼にとってその考えは、盲点でしか無かったから。




 次は明後日投稿予定です。


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