90、創造主2
「そうだな……悪魔の愛し子くんと、転生者くんは死なないと思うけど、それ以外の子は多分死ぬね。あぁ、でも……執事くんと亜人ちゃんと元主教くんは微妙な所かな」
命の推測は言い換えてしまえば、メイリーン、ナツメ、アマノの三人は確実に死ぬということなので、アデルたちは思わず冷や汗を流した。
「普段は神様の子たちしかいないから隠してないんだけど、こうして下界の子供たちと会う時はオーラをしまい込んでるんだ」
「なるほど…………あっ、自己紹介が遅れたであるな。我はアデルというのだ。よろしく頼む」
「アデルん、唐突過ぎ」
「これはこれは……ご丁寧にどうも。でも命、みんなの名前知ってるから大丈夫だよ」
「……何故、我らのことを知っているのだ?」
自己紹介を済ませていないというのに、彼らの情報を把握している命に、アデルは募らせていた疑問をぶつけた。
「はっはっは!命は相手の心を読むことだって朝飯前なのさ!」
「っ……創造主とは、凄まじい力を持っているのだな」
正座のまま腕を組み、楽し気に高笑いした命は絡繰りを教えてやった。
他人の思考までお見通しという創造主の力は底が全く見えず、アデルは純粋な感嘆を漏らすことしか出来ない。
アデルにその力の強大さを称賛された命は何故か複雑そうな面持ちで、彼らは思わず首を傾げた。
「まぁ、命……出来ないことの方が少ないし、この力は確かに偉大だけど。凄いのは創造主っていう立場の方で、命が凄いわけじゃないし……」
「そう、なのであるか?」
「うん。それよりも凄いのは君たちだよ!よくあのダンジョン攻略できたねぇ」
命が自身を卑下する真意がイマイチ分からず、アデルは首を傾げた。そんな彼の追及から逃れるように、命は明るく話題を変えた。ダンジョン攻略の件を称賛されたアデルたちは、誤魔化されたことに気づけていない。
「そういえば、何故命殿はあのダンジョンを造ったのだ?」
「あ。それ聞いちゃう?聞いちゃうよねぇ……うんとね……下界の子供たちの方から会いに来て欲しいなぁって思って」
「「…………は?」」
勿体ぶりながら答えた命に対し、彼らは思わず呆けた声を漏らしてしまう。アデルたちは何か壮大な目的や、のっぴきならない事情があるものだと決めつけていたので、命が何を言っているのか理解できなかったのだ。
「天界に住む者は特別な理由がない限り、下界の者と接しちゃいけないんだ。絶対でもないけど、あんまり善くないよねぇって感じで……。でもさ!命も下界の子供たちに会いたいわけだよ。それで妙案を思いつた命はあのダンジョンを造ったんだ。だって下界の子供たちから会いに来てくれるなら、こっちは受け身で責任無いし」
「物凄い屁理屈であるな」
「なっはっは。命が良いならそれでいいのだ!何故かって?命が偉いから!」
腕を組んだまま高笑いする命は、傍若無人という四字熟語が最も似合う存在に見える。好き勝手に聞こえるその物言いも、彼が創造主という尊い存在だから許されるのだろう。アデルたちはそう思った。
「ねぇねぇ聞いてよぉ。折角ダンジョン造ったっていうのに、静由が勝手にレベル上げしちゃって、今の今まで下界からのお客さん、一人も来てくれなかったんだよ?」
「ということは、我らが初めてなのであるか?」
「あのダンジョン経由ではそうだね」
「……静由殿は、人間が嫌いなのだろうか?」
「え。なんで?そんなことは無いと思うけど」
「だが……ダンジョン攻略を困難にしたり、我らを迎えに来てくれた際もどこか不機嫌だったのでな。そう思ったのだが……」
件のダンジョンを改造した静由への愚痴を命から聞かされたアデルは、ふとそんな疑問を抱いた。
彼がそれ程までにダンジョンのレベルを上げたのは当然、攻略されたくなかったからだ。つまり静由は、人間が天界に訪れることを避けたかったのだろう。
その為アデルは、静由が下界の者を嫌っているのではと不安に思ったのだ。
「あぁ、違う違う。えーっとね、静由の話してもいい?」
「よろしく頼むのだ」
「静由ってね、この天界では結構偉めの神様なんだ」
「そうなのか?」
「うん。初期メンだから」
「「?」」
〝初期メン〟という言葉にどういった意味が込められているのか、アデルたちはさっぱり理解できていなかったが、リオだけは何となく察していた。
初期メンバー――つまり、命が初めて生み出した神々の一人が静由なのだろう。
「ともかく偉い神様なんだけど、物凄いサボり癖があって。とにかく寝るのが生きがいの子なんだ」
「リオであるな」
「リオ様ですね」
「俺だわ」
アデル、メイリーン、リオの順に断言した。思わぬ所に、似た性質を持つ同志はいる者だと、アデルたちは目を丸くしてしまう。
「それでね。あのダンジョンを造った時に、もし攻略者が現れたら誰が迎えに行くかっていう話になって。恨みっこなしのくじ引きで決めようってことになったんだ」
「それで静由殿が選ばれたのであるか?」
その時漸く、ダンジョンで静由が漏らした独り言の意味をアデルたちは理解した。
『そもそもあの時当たりくじなんて引かなければこんなことには……』
よりにもよって、面倒事を嫌う静由がその当たりくじを引いてしまい、彼にとっては大凶の証だったのだろう。
「そうそう。でも静由面倒臭がりだからさ、ダンジョン攻略者が現れないようにって、命に内緒で手加えちゃったんだよね」
「そちらの方が手間だと思うのだが」
「静由にとっては、下界の子供に色々説明することの方が面倒なんだよ」
「なるほど……」
アデルから創造主とは何かと尋ねられた際、説明が面倒だからと命に丸投げした静由を知っているので、彼らには妙な納得感があった。そもそも、天界の住人とアデルたちの価値観が一致していると思うこと自体が身勝手なのかもしれないので、彼らはそれ以上の追及をしなかった。
「あハハッ。あそこまで手をかけたのに、君たちがあっという間にダンジョン攻略しちゃったからね……。静由、めちゃくちゃ嫌そうな顔してたでしょ?」
「あぁ」
「――それで?……君たちはどういう目的があってこの天界にやって来たのかな?」
命に本題を尋ねられ、アデルたちは神妙な面持ちになる。答えを提示するように、荷物の中から犬のぬいぐるみを取り出したアデルは、それを憑代とする術を解き、エルの遺体を彼らの眼下に晒した。
即座に大きな布をエルに被せると、アデルはそっと畳の上に横たわらせる。
「ん?なんか変わった死体だね」
「……我は、この亜人を……我の師匠を、生き返らせるためにここに来たのだ」
「……ふぅん」
重々しく、ゆっくりと告げたアデルに対して、命はどこか素っ気無い返事をした。その声には身震いする様な冷徹さが感じられ、リオは怪訝な表情をする。
「命殿であれば、死んだ生物を生き返らせることも可能なのではないか?先刻、言っていたであろう?出来ないことの方が少ないと」
「……確かに命なら、そこの亜人を生き返らせることも訳ないよ」
「!ならば」
「でもさ。命にできるからって、どうして君の要求を呑んでもらえると思えたのかな?」
「「っ」」
その瞬間、命から発せられる雰囲気が一変した。だがそれは、命が隠しているオーラが露わになったという訳では無い。
全身が粟立つような冷徹な雰囲気。それは殺気にも似ているが、少し違っていた。表現するならば、全てを見通してしまう様なギョロリとした瞳に、隅々まで観察されているような。そんな不快感である。
「まどろっこしいのは嫌いだから、結論から言うよ?命が、そこの死人を生き返らせることは絶対に無い」
冷たい断言で突き放され、アデルは一時の絶望感に襲われる。最後の頼みの綱が命だったので、その言葉は彼の胸を深く突き刺したが、この程度で諦めるような思いでは無いので、アデルは再度口を開く。
「っ……対価なら払う。何とか頼めないだろうか?」
「あのさ。命に対価なんて払えると本気で思ってるの?だとしたら少し不快かな。命は望みさえすれば、どんなことでも叶えることが出来る。君たちにできることなんて何もない」
「何故……師匠を生き返らせないと、断言できるのだ?」
「ルールに反するからだよ。命が自分自身に課したルールにね」
「ルール?」
「天界の住まう者は、その力を下界の者に貸したり与えたりしてはいけない。これがルール。例外もあるけど、君たちはその例外に含まれない。どうして命や神様が人間を助けてはいけないか、分かる?」
「「…………」」
「我々と天界の方々では、力に差があり過ぎるため、人々が自らの力で行動せずに堕落する可能性があるから……でしょうか?」
命の問いに対して、アデルたちが答えを渋る中、唯一推測を語ったのはルークだ。
「おや。そこの執事くんは優秀だね。大正解、花丸をあげようか」
「……だから、アポロン様も謹慎なされているのですか?」
メイリーンにその力を貸し与えたアポロンが謹慎している理由を漸く悟った彼女は、弱々しい声で尋ねた。
「そう。あぁ、そういえば君、アポロンがご執心中の歌姫ちゃんか。いつも綺麗な歌声聞かせてもらってるよ。ありがとう」
「い、いえ……」
アデルたちに厳しい態度をとったかと思えば、不意ににこやかな表情でメイリーンに礼を言ってみたりと。命は掴み所が無い上、何を考えているのか分からない為、アデルたちは当惑してしまう。
「何か特別な理由があれば良かったんだけど、アポロンってば君の歌に惚れ込んだっていうだけの理由で自分の力与えちゃうんだもん。流石に黙認できなくてね。十年は謹慎させようかなって」
「じゅ、十年もですか!?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。命たちにとっての十年って、君たちの体感で一週間ぐらいだから。
それにさ。謹慎されてようがされてまいが、檻に囚われていた歌姫ちゃんを助けることなんて、アポロンには出来なかったから。そんなあの子を、歌姫ちゃんが気にする必要無いと思うんだけど」
「そんな言い方っ……」
試すような、探るような、嘲るような。冷たい命の物言いに、リオは思わず批難の声を上げた。
「自分の為に尽力してくれない神など、君には必要無いだろう」と、突き放すような言い方だったから。
リオの批判を遮るように、命は発言を続ける。
「兎に角ね、命たちが力を貸すことは天界では禁止事項なんだ。ましてや死者を生き返らせるなんてとんでもない。君たちが住まう世界アンレズナには、死者蘇生の方法が存在していない。つまり本来であれば、死者を生き返らせることなんて不可能なんだ。たかだか亜人一人が死んだぐらいでその不可能を覆してしまえば、これまで死んでいったすべての生物も生き返らせていいってことになってしまうよね?そうなってしまえば、最早アンレズナはアンレズナでは無くなってしまう。軽い世界崩壊だよ。君が望んでいることはね、たかだか亜人一人の為に、一つの世界を終わらせてしまうかもしれないっていう、大きな損失を孕んでいるんだよ」
「「…………」」
エルのことを蔑ろにされ、怒りで拳を震わせるアデルだが、命が正論を述べていることを理解しているからこそ、どうしても反論できなかった。
アデルはこれまで、エルを生き返らせるにはどうすればいいのか。エルを生き返らせる方法はあるのか。その為には何をすればいいのか。それしか頭になく、生き返らせることで生じる問題について考えたことも無かった。
命はそんなアデルの甘さを、全て見透かしていたのだ。
筋の通っていることを淡々と述べた命に、彼らが反論できずにいる中。たった一人、声を上げる者がいた。
「生き返らせるのが無理って言うんなら、前世の記憶を持ったまま転生させるのはどうなのよ。俺を転生者くんって呼んだってことは、それがアンレズナで起こり得るってことは、知ってるんでしょ?」
「「っ!」」
「へぇ。面白いことを思いつくね、君」
リオが第二の提案をしたことで、アデルたちは目を見開いた。何故ならその案はかつて、アデルがリオと出会ったばかりの頃。リオの境遇を知ったメイリーンが思い至ったものだったから。
生き返らせるのではなく、前世の記憶を所持したまま、エルをアンレズナに転生させる。この方法であれば容姿は違くとも、中身はエルその者の存在が生まれるので、死者蘇生と大差はない。だが不明瞭な点が多かった為、保留になった提案でもあった。
「確かに。君たちが住まう世界だけではなく、その他異世界でも、転生者くんみたいに前世の記憶を持ったまま転生する子は時たまいるよ?」
「「っ……!」」
「……ずっと気になっていたんだけど、どうして前世の記憶が消えないのよ?」
「あぁ……ぶっちゃけちゃうとね。原因は命にも分からないんだ」
「そう、なの?」
他人の心すら読み、出来ないことの方が少ないと自称する命にも、分からないことがあるのかと、リオは意外そうに尋ねた。
次は明後日投稿予定です。
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