番外編 レディバグの新たな仲間――ギルドニス・礼音=シュカ
二章本編で完全に入れるのを忘れてしまっていたエピソードを番外編で無理矢理突っ込みます。すいません。
「あのさぁ……俺らの輪の中にシレっと入っているけど、アンタ結局何なの?」
亜人の国で催された宴の最中、リオはギルドニスに鋭い眼差しを向けて尋ねた。正直、リオと同じことを疑問に思っていた者は多くいたので、彼らは同調するように頷いている。
彼らの視線を集めている当のギルドニスはワイングラス片手に首を傾げており、なかなか話が進みそうにない。
「あぁ……言い忘れていたが、ギルドニスも我らの仲間になるのでよろしく頼むのだ」
「「……」」
唐突に、単刀直入に、一方的にアデルから告げられてしまい、彼らは思わず茫然自失としてしまう。「いや、よろしく頼むと言われても……」という、彼らの心の声が聞こえてきそうな程であった。
一足先に正気を取り戻したリオは、一方的なアデルを咎めるように、彼の両頬をキュッと抓る。
「ア~デ~ル~ン~?……コノハちんの時も言ったわよね?そういう大事なことはちゃんと言えって」
リオは終始満面の笑みだったが、目が完全に笑っておらず、彼が憤怒しているのは明らかであった。リオが抓った頬を引っ張ったり、上下に動かしたりしたことで、アデルは随分とひょうきんな表情になってしまう。
「しゅ、しゅまにゅ…………い、いひゃいのや……リオ」
アデルがぎこちなく陳謝すると、リオはムスッとしたまま、抓っていた頬からパッと手を離す。アデルの頬は赤く腫れあがっているが、常人離れした治癒力ですぐに元の状態に戻った。
「えーっと、それで?名前なんだったっけ?」
「ギルドニス・礼音=シュカと申します」
「あぁ、それそれ。じゃあギル坊ね」
「ギル坊?」
最早恒例になってしまっているが、リオは何食わぬ顔でギルドニスにもあだ名をつけた。ギルドニスは思わず首を傾げるが、リオが続けざまに発言したことで、彼に追及する暇は与えられなかった。
「俺らギル坊のこと全然知らないからさ、いきなり仲間って言われて、はいそうですかとはいかないのよ。分かる?」
「えぇ。当然の主張だと愚考いたします」
「だからさ。ちょっとした腕試しとして、ギル坊の実力を見せて欲しいのよ」
「……それはつまり、ここで戦闘をしろと?」
「んな訳ないじゃん。もっと軽いやつよ。腕相撲とか」
「「うでずもう?」」
リオが提案したその遊戯をアデルたちは知らず、声を揃えて疑問を呈した。その反応を目の当たりにして初めて、リオはこの世界に腕相撲が存在しないことを悟る。
戦争が終わったばかりの、未だ被害の修復が成されていないこの国で戦闘をするのは流石に憚れるので、リオは短期決戦で力を測れる腕相撲を提案したのだ。
「ルールは説明するから、取り敢えずやってみよう!」
「は、はい……」
完全なるリオのペースに飲まれたギルドニスは、その提案を承諾してしまった。
単純なルールなので準備は滞りなく進み、リオとギルドニスの右手がギュッと組まれる。スタートの合図は何故かメイリーンがすることになり、彼女は組まれた両者の手をそっと包み込む。
何故か自信満々なリオの勝気な瞳と、困惑気味でありながら真っ直ぐとしたギルドニスの瞳が交錯する。
「よ、よーい……ドンっ!」
メイリーンが言い終わったのと同時に、決着はついてしまった。
ギルドニスがリオの手を押し倒し、彼の手の甲がテーブルに接触している。抵抗する暇さえ与えなかった、ギルドニスの圧勝であった。
「っ~~……むぅぅ…………」
コンマ一秒で負けてしまったリオは悔し気に頬を膨らませると、涙目になって顔を真っ赤にしてしまう。
「ま、まぁ……リオリオは純粋な力の強さじゃなくて、剣とか操志者としての技術が最強だから。こんな腕相撲如きでリオリオの実力が測れるわけじゃないから」
「その腕相撲如きを提案した人がどの面下げて言っているんですか。というか、今回実力を測られているのはギルドニス様の方ですが」
苦しい言い訳をするリオを見逃さなかったのは、彼にジト目を向けるナギカである。だが、リオの言い分は全て事実でもあった。
リオは力任せに剣を振るタイプではなく、最小限の力で相手に有効なダメージを与えるための術を磨いて戦うスタイルだ。その為、洗練された剣術や、ジルを複雑に操る技術こそがリオの長所なのだ。
「ナギ助ぇ……俺の仇をとって!」
「何故私がリオ様の仇をとらなくてはならないのですか?」
「素で聞いてくるのやめて……傷つくから……」
キョトンと首を傾げるナギカの表情は、本気で意味が分からないという彼女の疑問を物語っていて、リオは精神をゴッソリと抉られてしまう。
そんなリオを尻目に、アデルは何かを思い出したように不意に口を開く。
「……ギルドニス」
「はい?」
「お主にもう一つ聞きたいことがあったのだ。……何故、悪魔を探していたのだ?」
アデルがギルドニスについて疑問に思っていたこと。それは、悪魔に対する信仰心が消えても尚、新たな悪魔を探し求めていた理由である。
アデルに忠誠を誓い、始受会を破門になったギルドニスが悪魔を探す理由など無いはずなのに、彼は確かに悪魔を探していた。その理由をアデルは尋ね忘れていたのだ。
「そうですね……私はアデル様に、新たに生まれた悪魔を会わせたいと、そう思っていたのです」
少し間を置くと、ギルドニスは優しい面持ちでポツリと吐露した。
「……というと?」
「アデル様が、もし……新たに生まれた悪魔様を、ルルラルカ様とは全くの別人だと考えて下さっているのであれば……悪魔という存在の、悲劇とも呼べる運命の連鎖を、止めるきっかけになってくれるのでは無いかと、そう思ったのです」
「……」
「何か確信があった訳ではありませんが、アデル様であれば、悪魔という存在を少しでもいい方向に変えてくれるのでは無いかと、淡い期待を抱いて行動した次第です」
「そうか……悪魔の為にありがとう。ギルドニス」
「っ……!」
悪魔に対する盲愛とも呼べる信仰を止めても尚、ギルドニスが悪魔のことを思って行動してくれたことが、アデルには何よりも嬉しかった。思わず顔を綻ばせて礼を言うと、ギルドニスは歓喜で目を見開き、全身を粟立たせて脚から震えた。
「もっ、も……勿体無い、お言葉ですっ……」
「どぅうぉお!?えっ、なにっ?何で鼻血出してるのよギル坊」
「ギルドニスはよく鼻血を出すのだ」
「何その妙な体質」
感激と興奮のあまり、鼻血を垂れ流しながら謙遜したギルドニスに、アデル以外の全員がドン引きの眼差しを向けてしまう。最早慣れてしまったアデルに解説され、リオは増々当惑してしまった。
「……まぁいいわ。悪い奴じゃないってことは一応分かったし。腕相撲如きとはいえ、このリオリオに勝ったんだから、仲間に認めてやらないことも無いわね」
「まだ負けたことを根に持っているんですか?大人気ないですね」
「まだって言うほど時間経ってないし!そもそも俺まだ一六歳だもん!大人じゃないもん!」
ナギカに舌鋒鋭く指摘されたリオは、プクっと頬を膨らませてへそを曲げてしまう。子供っぽく拗ねるリオを前に、アデルたちは思わず苦笑いを零した。
何はともあれ、リオたちがギルドニスを仲間として受け入れたことに変わりは無いので、アデルはホッと一安心する。
こうして、ギルドニスはレディバグの正式な仲間として迎え入れられたのだった。
次回は遂に第三章「神界編」スタートです!
次は明後日投稿予定です。
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