73、仲間2
爆発の衝撃で意識を失ったアマノに止めを刺す為、静が剣を抜く中、リオたちは何とかそれを阻止しようと奮闘していた。だが――。
「ちょ、どこ触ってんのよ変態!」
リオとナギカは今、十人近い兵士たちに張り付かれており、動くことすら儘ならない状況に追い込まれていた。
力づくで振り払おうとしても、剣術一筋のリオと、亜人と言っても女性のナギカにそこまでの馬鹿力は備わっていないので、中々上手くいかない。未だ男性に対する恐怖を克服しきれていないナギカは、密着されているせいで脂汗をかいている。
暑苦しい男共に引っ付かれていることが我慢ならない様に叫ぶリオだが、それで兵士たちが力を緩めることなど無かった。
「リオ様……その手を使えるのは女性だけかと」
一方そんなリオの叫び声を、視界が遮られている状態で聞いたナギカは苦し気に苦言を呈した。
そもそも変態呼ばわりされて拘束を緩めるような生易しい人間が兵士の中にいるとも思えないので、女性がやったところで効果があるとはあまり思えない。
「じゃあナギ助やってよ!」
「そんな小細工より、力づくで振り払った方が早いです」
「いやそれが出来ないから困ってんだけど!?」
リオたちが口論している間にも、静はアマノの元へと近づくばかりである。
とうとうその剣が届いてしまう程、静はアマノに接近してしまう。静はその動きを一切止めることの無いまま剣を振り上げると、無慈悲にアマノに向かって振り下ろそうとした。
だが、静がその腕で剣を振り下ろすことは無かった。
――ブシャっ……。
「っ……がああああああああああああああああああ!!うっ……腕がっ……ぁあああああああああああああ!!」
何故なら、剣を握っていた静の腕が何者かの攻撃によって吹き飛ばされてしまったから。
静の右腕は剣を握った状態で地面に転がり、切断面である肩口からは大量の血が噴き出ている。その形容しがたい強烈な痛みに静は膝をつき、傷口を押さえながら苦悶の表情を露わにした。
「なに?」
リオたちには何が起きたのか理解できておらず、兵士たちの方は幹部である静が重傷を負ったことで当惑している。
「おっ、お前たちっ……何をボーっとしている!?さっさと僕の傷を治せ!」
「「はっ、はい!」」
脂汗を浮かべながら部下に命令する静はかなり狼狽えているようで、鬼気迫るその声で怒鳴られてしまえば反論できる兵士などいなかった。
操志者の兵士たちが静の元へ向かったことで拘束が緩み、リオとナギカは何とか残りの兵士たちを振り切ることに成功した。
「「っ……!」」
身体の自由を取り戻したものの、リオたちは新たな問題に直面してしまう。それは、静の腕を吹き飛ばす程の攻撃を繰り出したのは一体誰なのかという問題である。
「え、誰……?」
「……硝煙の匂いがします」
「硝煙?」
未知の存在に対してリオが首を傾げる中、ナギカはスンスンと鼻を動かして辺りの匂いを注意深く嗅いでいた。
ナギカが気にしていた匂いの正体を知ったリオは途端に得意気な表情になり、納得したような声を上げる。
「ははーん……なるほどナツメっちね。いい仕事してくれるじゃない」
「狙撃、ですか?」
「うん。流石はナツメっちよ。こんな長距離かつ正確さを求められる狙撃を成功させちゃうなんて」
ナツメの狙撃の腕を良く知らないナギカは、当惑気味にリオに尋ねた。何せここからナツメのいる亜人の国は、華位道国から最も近い国と言ってもそれなりに距離が離れているから。その上ナツメは静の腕に向けた弾丸を正確無比に撃ち込んでいたので、その衝撃は一入である。
因みに今回使用した狙撃銃は静の腕を吹き飛ばせる程威力の強い型なので、その分正確な狙撃が難しくなる。その狙撃銃でこれ程までの難易度の狙撃を成功させたナツメの腕は、最早達人級では収まらないレベルである。
「っ……もっと早く治療できないのかっ!?」
「も、申し訳ありません」
リオたちがナツメの腕に感心している中、静は未だに傷が塞がらないことに苛立っていた。静は普段の丁寧な口調から、素の乱暴な物言いに戻っていたが、最早そんなことを気にしている余裕すら無いようである。
そんな静に追い打ちをかけるように、リオは彼の治療にあたっている兵士たちを素早い剣撃で気絶させた。
「くっ……貴様……」
「化けの皮剥がれすぎじゃん。寧ろ清々しいけど」
片腕を失った状態で、リオ相手に反撃する程の勇気は無いのか、静は唇を噛みしめながら忌々し気に彼を見上げた。
冷めた目で静を見下ろすリオは、彼と言葉を交わす間にも襲い掛かってくる兵士の対処を軽く行っている。
「さっきさ。俺、色々勘違いしてるってアンタに言ったわよね?」
「っ……それが何だ?」
「アンタの腕を吹っ飛ばしたのは俺たちの仲間よ」
「っ!」
「俺たちのことを知ったような顔で語っていたけど、俺たちは単なる強い奴らの寄せ集めじゃないのよ。俺たちは確かに最初こそ……アデルっていう、最強で最高の良い男に惚れ込んで集まっただけだけど……それでもちゃんと仲間なのよ。
アンタは俺たちが自分の強さを誇示するために戦っているみたいに言ってたけど、俺たちだって亜人の国の為に全力でやってんのよ。俺たちレディバグと、亜人の皆で何とかあの国の平穏を守るために必死なのよ。ふざけるのも大概にしてくれる?」
静が自分たちのことをチームとして認識していないことが、リオには我慢ならなかったのだ。リオたち一人一人の実力はもちろんのこと、そんな彼らが結束して生まれた〝レディバグ〟という最高のチームのことを無視されたような気がしたから。
リオの真っ直ぐな眼差しを受けた静は、悔し気に震える口を開く。
「っ……か、」
「あっ!!」
「っ?」
だがそんな静の言葉を遮るようにリオが大声を上げたので、彼はビクッと身体を震わせ首を傾げた。一方、明らかに驚いたように目を見開いているリオは、その原因を静に一切悟らせてはくれない。
リオが衝撃を受けている原因を問いただそうと静は口を開くが、疑問の言葉が紡がれることは無かった。
「……がっ…………」
何故なら静は、いつの間にか意識を取り戻していた後ろのアマノから、勢いの良い回し蹴りを食らってしまったから。切れ味鋭いアマノのかかとを蟀谷で受けてしまった静は、呆気なくその場に倒れ込む。
リオが大声を上げたのは、突然アマノがぬくっと立ち上がったからなのだが、それを教えてやる義理は無いので、アマノが止めを刺すのを待ってみたのだ。本心では「後ろ後ろ!」と茶化したかったのだが、この状況でふざけられる程リオはイカレていなかった。
「あんた……死にかけの奴に容赦ないわね」
「……」
揶揄う様に言ったリオだったが、アマノの目には彼の姿など一切映っていないようである。何事も無かったかのようにリオに背を向けると、アマノは再び〝敵を倒せ〟という命令に従うべく兵士の元へと駆け出して行った。
いつもであればリオの煽りに馬鹿正直に反応するアマノだが、今回は別人のようにスルーされてしまい、リオは思わず目を点にして彼の背中を追ってしまう。
「……ナギ助ぇ、聞いてよ!クソガキがクソガキの分際で無視するんだけど!」
「何度クソガキと言えば気が済むのですか。というか、アマノ様は無視している訳では無いかと」
「むぅ……そりゃまだ洗脳されてんのは分かるけどさぁ……」
意識を取り戻しても未だ洗脳が解けておらず、アマノは真面に意思の疎通を図れる状態ではない。それはリオも理解しているのだが、普段と正反対すぎるあまりに不満が溢れてしまうのだ。
(アマノ様のことを嫌っているのかと思ったけれど、素っ気無くされればそれはそれで不満なのね。この人もこの人で、素直じゃない方……)
「……ん?ていうかさ……」
ナギカがリオについてまた新たな一面を知る中、当の彼は何かに気づいたように首を傾げた。その表情からはリオの不安を覗くことが出来る。
「……あれ、どうやったら終わるの?」
「あれ?」
〝あれ〟が何のことか分からず、ナギカはリオが指差す方向に視線を向ける。ナギカたちの視線の先には、スピードを一切緩めることなく敵を倒し続けているアマノの姿があった。
そしてそれは、未だに洗脳が解けていないアマノの姿である。
「「…………」」
リオの言わんとしていることをナギカが理解したことで、二人揃って呆けたような表情で固まってしまう。リオたちはアマノの力に詳しいわけでは無いので、どうすればその洗脳が解けるのかはよく知らないのだ。
もし洗脳がいつまで経っても解けないのであれば、アマノは一生このまま戦い続けてしまう運命なのではないかと。縁起でもないことを考え始めてしまえばキリが無かった。
「い、いざとなれば、このリオリオ様が一肌脱いで失神させるしか……」
「いや。普通に考えて敵がいなくなれば戻るのでは?」
「あ、そっか」
冷静さを取り戻したナギカの発言を皮切りに、先刻まで戦々恐々としていたことが馬鹿馬鹿しくなる程リオも平静を取り戻した。
事実この数時間後、辺りの敵が見えなくなった途端アマノは正気を取り戻し、いつの間にか自身の身体がボロボロになっていることに目を見開くのだった。
********
一方その頃。亜人の国にひっそりと佇む避難所に、ナツメとルークはいた。とは言っても、もちろん避難所の中に身を潜めている訳ではない。
ナツメは避難所の屋根にうつ伏せになりながら、目元の包帯を取った状態で狙撃銃を構えている。
そしてルークは、避難所からなるべく離れない範囲で華位道国からやって来た敵襲を対処していた。
「ふぅ……ギリギリ間に合いましたね…………華位道国にいる兵士も少しずつ減らさないと……」
静がアマノを殺そうとしていることをその視力で察知したナツメは、咄嗟に狙撃対象を静に定めて引き金を引いた。現在はその直後である。
ナツメは亜人の国から華位道国まで――至近距離から遥か遠くまで全てにアンテナを張りながら、その正確無比な狙撃を繰り出しているので、必要とされる集中力は凄まじいものだ。
視力もかなり酷使しているので、ナツメは頻りに瞬きしながらフルフルと首を振ってその疲れを誤魔化している。
「お嬢様っ……限界なのであればどうかお休みになってくださいっ」
「っ……大丈夫です」
敵と戦いながらナツメの体調に気を配っているルークは、心配そうな声音でそう提言した。だが、この程度のことで休んではいられないと、ナツメは自分自身に鞭を打って再び狙撃銃を構える。
ナツメが無理をしているように見えてならないルークは、責任感の強さから彼女が意地を張っていることを薄々察していた。だが、ナツメの意志を無視して無理矢理休ませることが本当に彼女の為になるのかと悩むと、ルークは中々強く出ることが出来なかった。
額に浮かんでいた汗が頬を伝っていき、ナツメはそれを鬱陶しそうに拭う。ふと、そんな彼女を一瞥したルークは、思わず目を見開いた。
「っ!お嬢様っ!」
「え」
焦ったようなルークの大声が聞こえ、ナツメは当惑気味に声にする方向を振り向く。だが既にそこにルークはおらず、ナツメは増々当惑して首を傾げた。すると――。
バリンっ!
すぐ近くから何かが何かを弾いたような音が聞こえ、ナツメは咄嗟に視線を動かす。音を頼りに見上げると、そこには剣を振り下ろした後と思われるルークが佇んでおり、刃先の下には真っ二つに斬られた氷刃のようなものが転がっていた。
「ルーク……」
ルークは地上からナツメを狙っている操志者の存在に気づき、咄嗟に周辺住居の壁を伝って避難所の屋根まで跳躍した。そして、ナツメに向かって放たれたその氷刃を素早く斬ったのだ。
その一連の動きを一瞬で行ってしまう荒業は、流石としか言いようがない。
いつでもどんな時でも。ナツメに危機が迫っていれば駆け付け、あっさりとその危機から救ってくれるルークを前に、ナツメはほんの少し瞳を滲ませる。
「ご安心ください、お嬢様……お嬢様は、その狙撃銃で敵を撃ち落とすことだけに専念なさってくれて構いません。あなたの背中は……私が死んでも守り抜きますから」
そんな力強い言葉を紡ぐルークは地上にばかり視線を向けていて、ナツメのことをその目で捉えてはいない。最早ルークには、わざわざ彼女を見つめて意思の疎通を図る必要も無いのだろう。
自分の意思を尊重してくれるルークの思いが心の底から嬉しく、ナツメは思わず涙が零れてしまう程目を見開いた。だがすぐに、穏やかな相好で元の姿勢に戻る。
「……最初から、心配なんてしていませんよ。ルーク」
「っ……それはようございました」
ふわりと破顔しながらナツメが言うと、ルークは虚を突かれたように一瞬硬直した。背を向けたまま言葉を交わす二人だが、そこには確かな信頼と温かさがあった。
互いが互いを尊重し、互いが互いを信頼しているからこそ成り立つこの関係は、ちょっとやそっとのことで作れるものでも、ましてや壊せるものでも無いのである。
次は明後日投稿予定です。
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