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レディバグの改変<L>  作者: 乱 江梨
第二章 仲間探求編
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62、奴隷の亜人2

「この子を買うって言ったのよ。悪い?」



 シレっと言ってのけたリオは物凄い上から目線で踏ん反り返っており、文句の一つでも言おうものなら噛み付かん勢いである。



「わ、悪いというか、これはもう売り物では……」

「そっちの指定した金額で買ってあげるわよ?」

「っ!?」



 そう言った途端目の色を変えた奴隷商人を前に、リオは内心反吐が出そうになるが、奴隷の彼女の為にはそれが最も有効な交渉方法であることも理解していた。


 この手の人間は金さえやっておけば黙ることをリオはよく知っているので、大金で釣ることにしたのだ。



「そ、そういうことなら……三百ツーイでいかがでしょう?」

「……」



 結論から言うと、ぼったくりが可愛らしく思える程のぼったくりだった。リオたちの視界に入る安価の奴隷は平均して数十ツーイ。つまり三百ツーイなど、元々処分されるはずだった奴隷につける値段では無いのだ。


 ちなみに三百ツーイともなると、この世界の平均年収といい勝負をしてしまう。



「いいわよ。三百ツーイね……」



 だが、一刻も早く彼女を保護したかったリオは無駄な値段交渉に時間を費やしたくなかったのか、素直にアイテムボックスから三百ツーイを取り出すことにした。


 アイテムボックスはリオお手製で、ほぼ無限に様々な物を収納できるので、リオはそんな大金を持ち歩いていたのだ。


 分厚い札束を前に思わず下劣な笑みを浮かべた奴隷商人は、興奮気味に震える右手をその大金に伸ばそうとするが――。



「はは……ま、毎度あ……」



 バシンっ!


 リオは分厚い札束で忌々し気に奴隷商人の顔をぶん殴ると、そのままその札束から手を離した。


 心地の良い音が鳴り、その瞬間奴隷商人は勢いよく吹っ飛ばされ、頬は真っ赤に腫れ上がった。奴隷商人がその札束を掴むことは叶わず、彼は顔でそれを受け取ってしまったのだ。


 リオの手元から離れた札束は地面に倒れている奴隷商人の上にパラパラと落ちていき、秋風であらぬ方向へ飛んでいってしまう紙幣もあった。



「あ……?あぁっ!?ま、待ってくれぇ!!」

「ふん……」



 情けなく地面を這いつくばりながら、ひらひらと舞う札を必死の形相で追いかける奴隷商人を、リオは自業自得とでも言いたげな横目で捉えた。


 だがすぐに興味を失ったリオは檻の方に視線を向けると、腰に帯刀している日本刀の柄を握り、抜刀術の構えをする。



「とと二号?」



 一体何をする気か分からずコノハは不安気に尋ねるが、その心配は杞憂に終わる。


 リオはゆっくりと深呼吸すると、素早く抜刀して彼女が囚われている檻にその斬撃を向ける。すると檻は一瞬の内にバラバラに崩れ去り、リオと彼女を隔てるものは一切合切無くなった。



「……」



 リオは原形を留めていない檻へゆっくりと歩み寄ると、いつの間にか意識を失ってしまった彼女を優しく抱き上げる。そして感情の読みにくい無表情で彼女の顔を覗き込むと、リオはそのまま檻から出て奴隷市場を後にした。


 コノハは当惑気味にリオについて行き、腕の中におさめられている彼女を心配そうに見つめる。



「……とと二号、お金持ち」

「ん?あぁ。俺一人で旅してた頃、冒険者の仕事で結構稼いだのよ。まぁでもそれはアデルんも同じだと思うけど」



 アデルもリオも、S級冒険者として仕事をしていた時期があるので、その際にかなりの大金を稼いでいる。だからこそ、三百ツーイの奴隷を買えるほどの金銭を所持していたのだ。



「もうちゃっちゃと転移して、メイメイにこの子を治療してもらいましょ」

「うん」



 コノハは頷くと、リオの転移術に干渉できるように彼の身体に触れた。それを確認したリオは早速転移術を発動して、アデルたちの待つ家へと向かうのだった。


 ********


「「…………」」

「「…………」」



 リオたちが帰ってきた家の中に何とも言えない沈黙が走る。


 突如転移術で帰ってきたリオたち→何事だ?→リオの腕に抱えられている謎の亜人→とんでもない重症→早く治療してやらねば→だが一体どこの誰だ?→何故リオが亜人を抱えている?


 アデルたちの思考回路はこんな感じである。



「……それが土産であるか?」

「イェス」

「「…………」」



 何故か前世の英語で返したリオをツッコむ余裕も無い程、アデルたちは当惑していた。



「……取り敢えず……メイリーン。頼めるであるか?」

「あっ……はい!」



 アデルのその言葉だけで意図を汲んだメイリーンは、早速彼女に治癒の力を行使することにした。


 なるべく早く治療してやりかったメイリーンは、自身の知る中でも短めの歌を選曲し、それでも丁寧にその曲を歌い上げる。

 その間に、リオは亜人の彼女をベッドの上にそっと寝かしてやった。


 約三分間美しい歌声を披露したメイリーンは、ふぅっと深呼吸すると彼女に手を向け詠唱する。



「ヒーリング」



 刹那、彼女の身体が淡く煌めく光に包まれ、見る見るうちにその傷が癒えていった。肌は健康的な色に戻り、顔の腫れもどんどん引いていく。そして欠損していた片方の猫耳も再生され、リオたちは思わず目を見開いた。


 神の力による治癒は欠損した部位を元通りに再生させることも出来るので、その凄まじい力に目を瞠ったのだ。


 随分とスッキリとした顔になった彼女は、未だ意識を取り戻す様子が無い。



「ありがとう。メイメイ」

「いえ……ところでこの方は?」

「……」



 メイリーンに尋ねられ、リオはこれまでの経緯を語ることにした。街で奴隷市場を見つけたこと。奴隷として彼女が檻に囚われていたこと。あのまま放置すれば、いずれ殺されてしまっていたこと。



「――奴隷、であるか」

「うん……それでね……えーっと」

「「?」」



 気まずそうに言い淀むリオを前に、アデルたちは首を傾げてしまう。その事実を伝えても良いものかとリオは思い悩んでいるのだが、知ってもらえなければ適切な対応も出来ないので、彼は意を決して口を開く。



「この子……性奴隷だったみたい」

「「っ……」」



 あまりのショックに、メイリーンとナツメは口元を両手で覆うと悲痛に顔を歪ませた。アデルたちも彼女の抱えるものを知り神妙な面持ちになるが、コノハだけはそもそも意味を理解していないのでキョトンと首を傾げている。



「嫌な予感はしてたんだ……俺、前世では女の子だったからさ。この子には申し訳ないけど、身体を確認させてもらって……そんな感じ」

「そう、ですか……」



 傷ついた彼女の意思を無視するような行為だとは思ったが、もしその嫌な予感が当たっていれば、リオたちの彼女に対する接し方も変えなければならないので、罪悪感をぐっと堪えて彼女の身体を確認したのだ。


 そうして、彼女が性奴隷として隷属させられていた痕跡をリオは発見してしまったのだ。



「だからね。もしこの子が目を覚ましたら、メイメイとナツメっちに色々お願いしたいんだけど……いいかしら?」

「もちろんです」

「そういうことなら、いくらでも」

「ありがとう……助かるわ」



 性奴隷として辛い思いをしてきたのであれば、男性に対して酷い拒絶反応を示す可能性が大いにあるので、リオは同じ女性である二人に頼んだ。


 ぎしっ……。


 二人が快く承諾してくれたことでリオがホッと顔を綻ばせると、ベッドが揺れるような音が聞こえ、彼らはバっと亜人の彼女に視線を集める。



「……」



 ゆっくりとその瞼を上げた彼女は、しばらく呆然としたまま天井を見つめていたが、何気なしにリオたちのいる方向に視線を向けた。



「っ!?」



 途端に血相を変えた彼女はベッドから飛び起きると、警戒心丸出しで突然リオに蹴りかかる。当然リオはそれを軽く避けたが、彼女の攻撃がそれで終わることは無かった。


 着地した途端切れ味鋭い後ろ回し蹴りを入れるが、その足をリオに掴まれたことで彼女は顔を真っ青にした。



「いやっ……」

「触ってごめんね……落ち着いてくれれば俺から触れることは絶対に無いから、ゆっくり深呼吸して……ね?」

「……」



 何とかリオの手から逃れようとするが、彼の優しい声音をその猫耳で受け止めると、彼女は当惑気味に抵抗する動きを止めた。


 意識を失っていた彼女は今の状況を理解できていないので、不安になるのも当然である。



「大丈夫。君に酷いことをする人は、もういないよ」



 リオは彼女の脚を解放してやると、優しい声音でそう告げた。刹那、彼女の目からポロポロと涙が零れる。ガラス色の瞳が滲むとまるでビー玉の様で、とても美しい。


 恐らく彼女はリオたちのことを、これまで自分を買ってきた人間と同種の存在だと勘違いしていたので、彼はその誤解を解いてやった。



「っ……ほ、ほん……とう、ですか?」

「うん。それに、俺たちが怖ければ女の子だけ残して出てっても良いのよ」



 不安気に尋ねてきた彼女の声は疑念と恐怖で震えていて、それだけで彼女の辛い過去が窺えられる。


 〝女の子〟という単語にピクっと猫耳を反応させた彼女は、漸くこの場に同性がいることに気づいて呆けてしまう。


 流石に女性がいる中でそういった状況にはならないことを察したのか、彼女は段々と落ち着きを取り戻していった。



「……い、え……大丈夫、です……」

「ごめんね驚かせて?取り敢えずほら。座って座って」

「は、はい……」



 ほんの少しだけ警戒心を解いた彼女は、リオに促されるままベッドの上に腰掛けた。人間にとって差別対象であるはずの亜人に対し、優しく声をかけて気遣うリオは彼女にとって異質な存在であった。


 するとリオは彼女の目線に合わせる様に膝をつき、増々彼女を驚かせてしまう。



「偶々君のこと見つけて、今にも死にそうだったからつい買っちゃったんだけど……君のことを奴隷として扱うつもりは無いから安心して?」

「……意味が良く、分からないのですが……」



 金で買ったというのに、奴隷として扱わないという意味が分からず、彼女は怪訝そうに首を傾げた。これまで奴隷として散々酷い目に遭わされてきた彼女に、リオの意思をすぐ信じろという方が酷な話なので、リオはそれを責めたりはしなかった。



「まぁすぐに分からなくてもいいけど……取り敢えず風呂でも入ったら?気持ち悪いでしょ?」

「……それはつまり、()()をしろということでしょうか……?」

「いや違う違う違う違う違う。ちが過ぎて五回も言っちゃったわよ」



 やはりまだ信じられていないのか、彼女はリオの発言を妙な方向に解釈してしまった。思わずリオが全力で否定すると、その必死さにアデルたちはクスっと笑みを漏らしてしまう。


 その温かい雰囲気に、彼女は一瞬目を奪われた。



「単純に身体洗って、湯船でゆっくりしなさいってことよ。お風呂の使い方ならここにいる可愛い女子たち聞けばいいから。アンダースタンド?」

「……えっと……」

「……お風呂、入られますか?」



 当惑し、目を泳がせる彼女にメイリーンは目を細めて優しく尋ねた。膝をついたメイリーンは彼女を見上げる形になっているので、余計にその気遣いが伝わってくる。



「いいんですか……?」

「もちろんです。さっぱりしてしまいましょう?」



 メイリーンの、全てを許してくれそうなその笑顔を目の当たりにすると、彼女はコクンと頷いた。


 彼女の首肯を確認すると、アデルたちは取り敢えずホッと一安心する。


 こうしてナツメたちは彼女を風呂に案内し、ついでに彼女の身体を一緒に洗ってやることになったのだった。


 ********


 アデルたちの待つ部屋に、お湯が流れる音と彼女たちの微かな話し声が響く。



「ねぇねぇねぇアデルん。壁の向こうでは女の子たちがキャッキャウフフだよ?超ドキドキしちゃうよね」

「?何故であるか?」

「ごめん。アデルんに振った俺が馬鹿だったわ」



 彼女が入浴している間、男性陣は特にすることが無いのでリオは揶揄う様にアデルに絡んだ。だがリオの言っている意味をアデルが理解できるはずも無く、彼は見るからに落胆してしまう。



「ルーくんはどう思う?」

「微笑ましい限りだと思います」

「うわぁ……百点満点の回答でかわされた気分……」



 まだ意味は理解できているルークに的を絞ったリオだったが、有無を言わさぬ笑顔でかわされてしまったので、苦笑いを浮かべる他ない。



「クソガキは?」

「くだらない……そのような煩悩は汚らわしいと親に…………いや。何でもない。というかアマノをクソガキ呼ばわりするのはやめろ」



 何かを言いかけたアマノだったが、直前で誤魔化してリオに苦言を呈した。だが、アマノの言いかけたことが何なのかをリオは大体察している。

 察しているからこそ、アマノの不器用な優しさがリオには伝わっていた。


 アマノの言いかけた言葉は「親に教わらなかったのか」である。そしてアマノは、今回の船旅でリオに両親がいないことを聞いていた。


 だからアマノは咄嗟に、その言葉を自ら封じたのだ。


 柄にもなく自身を気遣ったアマノを前にリオは驚きで目を見開くが、何だか悔しくなってしまってそれ以上追及はしなかった。



「……とと二号。何で俺には聞かないの?」

「え。結果が見え見えだからだけど」

「……」



 どこか不満気な相好で尋ねたコノハだが、リオに真顔で返されたことにショックを受けてしまう。事実、コノハもアデルと同じでその意味を全く理解できていないのでリオの意見は至極真っ当であったが、それでも一人だけ仲間外れにされたように感じたコノハは、この世の終わりのような表情で落胆するのだった。




 次は明後日投稿予定です。


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