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レディバグの改変<L>  作者: 乱 江梨
第二章 仲間探求編
51/100

50、白の神子5

 気づけばもう50話…………100話までいけるでしょうか……。

「神官たちでしょうか?」



 アデルが察知した気配に気づいたルークは、そんな疑問を呈した。アマノを追ってきた神官たちがこの場所を嗅ぎつけたのかもしれないと、ルークは危惧したのだ。


 因みに、アデルたちが感じているのは単純な気配だけでは無く、人間の内に秘められているジルも含まれている。空気中に浮遊しているジルと、生き物がその身に宿しているジルには僅かな違いがあり、アデルたちはその違いを感じ取って人の気配というものを察知しているのだ。


 とは言っても、それを実行できるのは優れた操志者だけなので、メイリーンたちは驚きを隠せていない。



「……」

「アマノ?」



 煩わしそうに席を立つと、アマノは顰めっ面のまま扉の方へ歩み寄ったので、アデルは思わず首を傾げた。



「おい。何人なんだ?」

「?」

「気配が分かるんだろ?何人いる?」

「……」



 アデルの疑問に答えることなく、アマノは神官の人数を尋ねた。怪訝そうにアデルたちは目を閉じると、感じる気配に意識を集中させた。



「一三……いや、一二であるな」

「アデル様の仰る通りです。一二人の神官らしき集団がこちらに向かってきています」



 アデルの推測に同調したのは、目元を覆う包帯を外したナツメだった。ナツメは家の壁をすり抜け、離れた場所にいる神官たちを視認したようである。



「神官たちが近づいてきたら教えろ」

「何をする気であるか?」

「いいから。教えろ」

「……分かりました」



 有無を言わさぬ態度のアマノを前にし、ナツメは渋々了承した。


 全員が首を傾げる中、ナツメのオッドアイが壁の向こう側の神官たちを捉えている。



「アマノさん。来ました」

『……止まれ』



 ナツメの合図を聞くと、アマノの濃い瞳が怪し気に光った。それは、昨日アマノがアデルに向かって「守れ」と命令した時と同じもの。

 瞳に孕んだ光も、その威圧的な声に感じられる違和感――ジルも全く同じだったのだ。



「止まってる……」



 アマノがその重みのある声を発した途端、ナツメの目に映る神官たちがピタリとその動きを止めたことで、彼女は驚きで目を見開いてしまう。


 まるで神官たちが操り人形のように見える程、彼らは一斉に覇気なくその動きを止めたのだ。



『戻れ』

「……うそ」



 信じられないようにその口を震わせながら呟いたナツメを、全員が首を傾げつつ覗き込んだ。


 アマノが「戻れ」と発した途端、止まっていた神官たちがゆっくりと自らの意思で方向転換し、離れていく光景がナツメにはしっかりと見えたのだ。



「……神官たちが、帰っていきます」

「「っ!?」」



 呆けたような声でナツメが告げると、アマノ以外の全員が驚きで目を見開いた。


 そして、十中八九神官たちが離れた原因であるアマノに視線を向けたアデルは、彼の身体的変化に気づく。



「?……アマノ。少し、縮んでおらぬか?」



 アデルの指摘で全員がアマノに視線を向けると、確かにその背が少し縮んでいた。元はリオよりも高い背丈だったが、今のアマノはメイリーンと同じぐらいの身長に縮んでいて、余った袖がプラプラと宙ぶらりんになっている。



「アマノはジルの供給源が普通の操志者とは違うんだ。ジルを使うと、こうして身体が縮む」

「……まさか、成長する為のジルを使って?」

「まぁそんなところだ」



 言葉の足らないアマノの説明でも理解できたのは、ルークただ一人であった。二人だけの世界で話が完結してしまっている状況を良しとしないのは、ちんぷんかんぷん状態のアデルたちである。


 彼らの不満気な視線を感じたのか、ルークは説明の為に口を開く。



「……つまりですね。アマノ様はジルの許容量をコントロールすることが出来るのですよ」

「っ……なるほど」

「どういう意味です?」



 その時点で漸く理解できたアデルは、その発想に目を瞠った。そしてリオもその原理を理解できたようだが、ナツメたちは未だ首を傾げている。



「生き物というものにはジルの許容量があります。そしてその許容量は人が成長するほど、つまり身体が大きくなるにつれ増えていきます。アマノ様はその許容量をコントロールすることで、身体の中のジルを使うという、本来であれば不可能な手段を可能にしているのです」

「えっと、つまり……?」



 普通に体内のジルを使おうとすると、人の生命維持のために機能しているジルまでもが失われる可能性があるので、操志者は迂闊に自身のジルを使うことが出来ない。


 それは理解しているのだが、メイリーンたちは未だキョトンとしている。



「ジルの許容量を減らせば、最初から体内に含まれていたジルに余分なものが出てきてしまうであろう?アマノはその溢れたジルを声に乗せて発したのだ。恐らくジルの込められた声というのは、人を操れる程の力があるのだろう」



 ナツメやメイリーンの為に説明してやったのはアデルだ。


 分かりやすく例えるならば、大きさの違うカップである。人のジルが注がれたカップは、常に満杯でなければならない。だから人はそのジルを減らすことが出来ない。だが、もし自分のカップを小さくすることが出来たのなら、話は変わってくる。

 大きいカップに注がれていたジル全てを、小さいカップに移すことは出来ない。その時移しきれなかった余分なジルを、アマノは利用したのだ。



「つまり。その許容量を減らしたから、比例するようにアマノ様の身体が縮んだということですか」

「恐らく」



 アマノの身体の変化についてメイリーンが推測すると、ルークが首肯して返した。昨日の「ジルの使い過ぎ」というのは、ジルの許容量を減らしすぎたことで起きたのだ。



「昨日は逃げる際に力を使いすぎて、あの様な姿になっていたのであるか?」

「……あぁ。あれ以上使うと、最悪死ぬところだったからお前を当てにしたというのに……気絶覚悟で使った力が効かないとは思わなかったんだよ」

「そういえば、アデル様には効いていませんでしたね」



 悔し気にアマノが呟くと、ルークはふと昨日の出来事を思い出した。あの時彼は確かにアデルに向かって「アマノを守れ」と命令したはずだったが、アデルが神官たちのように従うことは無かった。



「アマノの力はどういうものなのであるか?」

「……ジルを込めた声というのは、生き物の脳に作用するんだ。それを向けられた生物は一時的に洗脳状態に陥って、命令に逆らうことが出来ない。まぁ、強い命令であればある程ジルをごっそり使うから〝死ね〟とかは迂闊に言えないんだけど」



 聞いておいてなんだったが、アデルはアマノが素直に答えてくれた事実に正直当惑していた。昨日はアデルが話そうとするだけで喚き散らしていたというのに、今日のアマノは大人しく彼と言葉を交わしている。


 その変貌っぷりに、アデルは困惑でパチクリと瞬きしてしまった。



「何故我には効かなかったのか、理由は分かるであるか?」

「昨晩寝ながら考えたら、ある程度の仮説は立てられた。要は、ジルの許容量の問題だと思う」

「それは……我が愛し子であるから効かなかったということであるか?」



 悪魔の愛し子であるアデルは、生成したジルを自身の体内に貯蓄することが出来るので、そもそも許容量という概念が無いのだ。



「端的に言えばな。お前は例外すぎるが、要は脳が強ければいいんだ。アマノの力は脳を操るからな。だから脳に関連する能力者とかにも効かないのかもしれない」

「っ」



 脳に関連する能力者。アマノの口から何気無しに発せられたその言葉に、アデルは思わず息を詰まらせた。妹のティンベルを思い出したからだ。


 エル曰く彼女も能力者で、その能力は脳に関係するものという話だった。今はあまり関係の無いことではあるが、やはりアデルは事あるごとに妹のことを思い出してしまうらしい。



「ねぇ、そんなことよりさ。じきにここ、神官たちにバレるんじゃない?」

「?どういうことであるか?」



 アマノの力に関してあまり興味が無かったリオは、話題を変えるようにそんな心配をした。だが、神官たちはアマノの姿を視認する前に彼の力で帰って行ったので、アデルにはリオが危惧する理由が分からなかった。



「言っただろ?アマノの力を向けられると洗脳状態になるって。だが洗脳した内容が達せられれば、当然洗脳は解ける。そして、神官たちはアマノの力のことを良く知っている。神殿に戻って洗脳が解ければ、すぐに理解するだろうな。最後の記憶――この家に近づこうとした時、アマノによって操られたって」



 例えアマノが手を出さずとも、この結果は必然であった。神官たちがこの家を見つけた時点で。アデルたちが撃退し、追い返した場合でも話は同じことだし、拘束したり殺したりして神官たちをこの場に止めても、帰ってこない神官たちの存在を他の仲間に勘付かれれば、すぐに状況を察知されてしまっただろう。



「ならばここから離れるのが得策であろうな。どうする?一度ゼルド王国にでも戻るであるか?」

「は?」

「そうね。それが一番安全だと思うわ」



 サラッとアマノにとって驚天動地な提案をしたアデルに、彼は困惑で呆けた様な声を漏らしてしまう。だがそんなアデルをツッコまないどころか、寧ろその提案を採用してしまったリオにもアマノは困惑の表情を向けた。



「お前たち、一体何を……ゼルド王国がここからどれだけ離れてると思って……」



 ********


「………………は?」



 ポカーン。


 そうとしか表現できない表情をしていた。


 視界いっぱいに広がる見知らぬ森。そこがゼルド王国であることを理解できぬほど、アマノも鈍感ではない。アデルとリオの転移術であっさりとゼルド王国に来てしまったので、アマノは茫然自失としてしまった。



「皆同じ反応しかしないのだ」

「いや。普通こうなっちゃうから。まぁ俺も人のことは言えないんだけど」



 初めて転移術を体験した者は大体アマノと同じような反応になるので、アデルとリオは最早飽きの境地に至っているのだ。


 アデルは帰ってきた実家をジッと見つめると、顎に手を当てて何やら思案し始める。



「ふむ。家を大きくするしかないであるな」



 そう呟くと、アデルは荷物の中からエルの憑代である犬のぬいぐるみを取り出した。



「あ、久しぶりのワンコお師匠様だ」

「師匠。家を改造してもよいだろうか?」

「……」

「……師匠は、何と言うだろうか?」



 ぬいぐるみを自身の目線まで持ち上げると、アデルは答えをくれないエルにそう尋ねた。ここはエルと過ごしてきた思い出の詰まった家なので、念の為聞いておきたいとアデルは思ったのだ。


 一方事情を知らないアマノは、突然ぬいぐるみに話しかけたアデルを怪訝そうな目で捉えている。


 すると。アデルの浮かない表情を目の当たりにしたリオは、何を思ったのかぬいぐるみをヒョイっとアデルから奪い取ってしまう。



「アデルの仲間の為ならもちろんいいよ!」



 リオは顔の前にぬいぐるみを被せると、全く知らないエルを真似るように高い声で言った。思わず呆けるアデルだったが、段々と我慢できなくなったように噴き出してしまう。



「……ふはっ……全然似てないのだ。ははっ……」

「……むぅ。しょうがないじゃん。ワンコお師匠様に会ったこと無いんだから」



 珍しく笑い声を上げながら破顔するアデルに、メイリーンたちは思わず目を奪われた。笑うことはよくあったが、ここまで屈託のないアデルの笑顔は初めて見たのだ。


 一方、笑われてしまったことで不満気に唇を尖らせたリオだったが、突如頭に降ってきた感覚に首を傾げる。



「ありがとう。リオはいつも、我の為に行動してくれるであるな」



 とろける様な笑みを浮かべると、アデルはリオの頭を撫でた。頬を膨らませていたリオだったが、その一撫でだけで気を良くしたのか、欣喜雀躍する勢いで頬を緩める。



「えへへ……イケメンに頭撫でられちゃったわ……今日は頭洗わないでおこうかしら」

「汚いであるぞ?」

「何でそういうこと言っちゃうかな」



 アデルの余計な一言で一気に気分が降下したリオは、「やれやれ」とでも言いたげな表情でため息をついた。



 緊張感の無い空気が流れる中、ルークは背筋が凍ってしまう様な嫌な気配を察知し、思わず後ろを振り返った。


 誰よりも早くその殺気に気づいたルークは無我夢中でナツメの元へ走り出し、咄嗟に簡易的な結界を張る。



「お嬢様っ!」

「っ?」



 切羽詰まったルークの大声に全員が注目した瞬間、ルークはナツメの身体を覆い隠す様に抱きしめた。


 パリンッ!


 ルークの張った結界が割れる音が鮮烈に響く。刹那、ナツメは力の抜けたようなルークに押し倒されてしまい、目を白黒とさせた。


 そして、ナツメは自身の腕に嫌な生温かい感触を覚え、恐る恐る視線をそちらに向ける。するとそこには鮮血が広がっており、思わずナツメはひゅっと息を呑んでしまう。


 だが、その血はナツメのものなどでは無かった。


 今にも慟哭しそうな表情で、上に圧し掛かるルークの肩へと視線を移動させたナツメ。すると、その一瞬だけ彼女の時間が止まったかのような衝撃が走る。


 ルークの結界をいとも簡単に破り、そのまま彼の肩を貫いた弾丸によって負った傷が、じわじわと彼の身体を蝕んでいく光景は、ナツメにとって絶望以外の何物でも無かったのだ。



 明日の投稿はお休みさせていただきます。そして次回の投稿から二日に一回の投稿になります。毎日投稿を待ってくださっている方は申し訳ありません。ストックが十分に溜まれば、毎日の投稿に戻したいと思うので、よろしくお願いいたします。

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