41、三人旅?
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家を建て、夕食と入浴を済ませてしまえば、後は寝るだけである。すっかり外を照らすのは星だけになってしまったので、外では焚火をして明かりを灯している。三人それぞれが順番に入浴を済ませて寛いでいると、アデルたちは妙な気配を察知し、静かに立ち上がった。
「アデル様?リオ様?」
「「シっ……」」
一瞬にして表情を消し、真剣な様子で辺りを気にし始めた二人の変化にメイリーンは疑問を呈した。
だが耳を澄ましている二人はメイリーンに口を塞がせ、辺りへの警戒を緩めることが無い。
すると徐々に、メイリーンにも彼らの警戒の理由が分かってくる。少しずつ大きくなってくるその足音は、一人や二人のものでは無く、明らかに複数人のものであった。
その姿が見えてくると、アデルたちは明らかに落胆したような表情でその者たちを捉えた。
アデルたちの前に現れたのはガラの悪い十人組の男たちで、どこからどう見ても盗賊であった。全員がそれぞれ武器を所持しており、ニタニタと浮かべている笑みは不気味である。
恐らく焚火の明かりを頼りにアデルたちの位置を察したのだろうが、それにしても狙う相手が悪すぎるというものである。
「怪我したくなけりゃ、金目のもん出しな。あぁ、そこの美人の嬢ちゃんはコッチに来い。なぁに、抵抗しなきゃ酷くはしねぇ…………って、悪魔の愛し子っ!?」
漸く自分たちのくじ運の無さに気づいたのか、盗賊たちはアデルの存在に危機感を露わにした。
一方のアデルたちは、死んだ魚のような目で彼らを捉えている。メイリーンに対して下衆な考えを持った時点で、アデルたちが彼らを見逃すという可能性は無くなったが、それが無くとも盗賊たちは滑稽で相手にするのも面倒な程であった。
「よっしゃアデルん!アデルんたちにはお世話になってばっかりだから、ここは俺に任せてよ!」
「……そうか。頼んだぞ、リオ」
「あ?てめぇ……まさか俺らの相手をそこのヒョロガキ一人にさせるつもりじゃねぇだろうな?」
上から下まで値踏みするようにリオを観察した盗賊は、苛立ったようにアデルに問いかけた。アデルと違い、リオの内に秘められた強さをその容姿から認識するのは難しいので、彼らはその脅威に気づけていないのだ。
「リオは強いであるぞ?」
「ハッ!悪魔の愛し子がこんな弱っちそうなガキに頼るような腰抜けだとわな!やっちまえ!てめぇら!」
リーダー格の男がそう合図した途端、彼らの目の前にいたはずのリオの姿が一瞬にして消えてしまった。思わず呆然とした彼らの目に映るのは、驚いたように目を見開いているアデルの姿と、彼らと同じように状況を理解できていないメイリーンの姿である。
一方、この状況を把握できている二人の内の一人――アデルの目には、リオの凄まじい剣撃がはっきりと映っていた。
リオは目にも止まらぬ速さで駆け出し、同時に鞘からその刀を抜き、誰にも気づかれること無く、敵全てに絶対不可避のその攻撃を仕掛けていたのだ。
スッと、刀を鞘に納めたリオは、一番後方にいた盗賊の後ろ側で姿勢を低くしており、ニヤリと不敵な笑みを浮かべている。
「へぇ。じゃあやってごらんよ。……まぁ、もう無理だと思うけど」
「「…………がっ……」」
気づいた時には、全てが完結していた。リオがアデルたちの方を振り向くと、計ったように盗賊たちが身体中からプシャっと一瞬だけ血を噴き出し、その場に倒れこんでしまった。
一つ一つの傷はそこまで深くは無いものの、一人一人につけられた傷の量が、とてもこの一瞬の攻撃によるものとは思えない程である。
「な、何が……」
「……」
メイリーンは何が起きたのか未だに理解できておらず、一方のアデルはリオの剣捌きに目を瞠り、言葉を失っている。
「アデルんには見えた?」
「……あぁ。凄まじいであるな、リオ」
「ふふん!これには自信あるんだもんねー!ブイ!」
アデルに褒められ気を良くしたリオは、満面の笑みで突き出した右手をピースサインにする。
「純粋な剣の腕では、我はリオに敵わぬだろうな」
アデルの高い評価に、メイリーンは驚きで目を見開いた。悪魔の愛し子としての力を最大限に使って戦えば結果は分からないが、あのアデルが少なくとも剣だけの技術に関して自身の負けを認めたのだから。
「まぁ俺、前世で剣道やってたから。元々得意なんだよね、剣術」
「「剣道?」」
「真剣を使わない剣術のことね。ただのスポーツだけど」
この世界に剣道という競技は存在しないので、思わず首を傾げた二人にリオは説明してやった。
「取り敢えず殺しはしなかったけど、止め刺す?」
「いや。拘束して我が適当な場所に転移させるのだ」
サラリとそんな会話を交わした二人だが、蚊帳の外のメイリーンは、リオまでもが他人を殺すことに躊躇いの無いタイプであることを知り、思わず苦い相好になってしまっている。
それから。アデルが盗賊たちを拘束した後に、リオの攻撃で負った傷をメイリーンが治癒してやった。その傷の多さで、放っておけば失血死してしまう可能性があったからだ。
因みに、初めてメイリーンの歌を聴いたリオは非常に感激しており、彼女が顔を真っ赤にしてしまう程褒めちぎっていた。
そうしてアデルは、盗賊たちをゼルド王国にある牢獄の近くに転移させたのだった。
********
翌朝。やはり熟睡しているリオを起こすのに一苦労しつつ、アデルたちは朝支度を済ませた。それから一泊するために作った家はアデルが一瞬にしてジルに変換し、空気中へと解けていった。
その早業に再びメイリーンたちが目を丸くしてしまったのは余談である。
「ねぇねぇメイメイ。今度譜面に起こすから、俺の好きな曲歌ってよ」
「はい。構いませんよ」
「やった」
森の細い道を進み始めたので、アデルたちは昨日のような全速力では無く徒歩で移動を始めていた。昨夜聴いたメイリーンの歌が余程気に入ったのか、リオは道中彼女にそんな頼みごとをしていた。
因みにリオが歌ってほしいのは、前世で暮らしていた日本の有名な曲の数々で、メイリーンの歌声であれば本家よりも素晴らしい出来になるのは間違いなかった。
「っ……人?」
他愛も無い会話をしながら道を進んでいるとふと、アデルたちは向こう側の木の側に人の影を見つける。
その人物は木を背にしながら意識を失っているようで、アデルたちは急いで駆け寄った。すると、
「どぅうぉお!?」
その人物を目の当たりにしたアデルとリオは、咄嗟にメイリーンの目元をその手で覆ってしまう。メイリーンの視界を奇声を上げながら閉ざした後、リオも一歩出遅れながら自身の目を覆った。
何故なら、その人物が全裸だったから。
アデルよりも高い一八五センチ程の背丈。肩につくかつかないかの、男にしては長い髪は驚くほど真っ白で、まるで老人のようだ。だが顔に皺は一つも無く、アデルたちと同年代程度に見える。
驚くほど全ての肌が髪と同じぐらい白く、少しも日に焼けていないようだった。
たった一人。その彼の姿を観察していたアデルは、何かに気づいたようにハッと目を見開く。だが、それは一瞬の出来事であった。
「……男であるか」
ボソッと呟かれたその言葉は、誰の耳にも届いておらず、アデルの独り言として風化していった。
アデル以外の二人が視界を遮断していては話が進まないので、彼は気を利かせて身体をすっぽり包み込むほどの羽織をジルで作り出すと、それを眠っている男に被せた。
「もう目を開けてよいぞ」
「ふぅ。びっくりした。自分の全裸には流石に慣れたけど、他人の全裸はやっぱりまだ照れちゃうわ……」
「それにしても、この人どうしてこんな場所で……は、裸でっ……眠っているのでしょうか?」
「そうであるな。リオではあるまいし」
「アデルん俺を何だと思ってるのよ?」
メイリーンが顔を朱に染めながら呈した疑問に同調したアデルだったが、引き合いに出されたリオは不満を零してしまう。
「取り敢えず起こしてみれば?」
「そうであるな……おい。起きるのだ」
リオの適当な助言を聞いたアデルは、優しくその肩を揺すりながら呼びかけた。
すると彼はその真っ白な長い睫毛をゆっくりと上げ始め、隠されていた瞳が露わになる。
「っ……?」
「「……」」
目を奪われるほどの、煌めく金色。垂れ目ではあるが、どこかキリッとした印象を覚えるその瞳は、不思議な魅力を放っていた。
「大丈夫であるか?」
「…………だい、じょう、ぶ?」
低く、それでいて透き通るような声だった。だが、アデルたちは彼の反応に僅かな違和感を覚えてしまう。
彼の返答は、まるでアデルの問いの意味を理解できていないような。ただアデルの発した言葉を復唱しただけのような空っぽさがあったから。
「何故こんな所に?」
「…………わから、ない」
本来の意味で、何故自分がこのような森の中に一人でいるのか分からないのか、アデルの質問の意味自体が分からないのか。アデルたちにそれを判断することは出来なかった。
ただ、徐々に湧いてくる嫌な予感だけが、ジリジリと存在感を放っていく。
「お前の名前は?」
「…………なまえ?」
「「っ……!」」
ポカンとした表情で呟かれた途端、その場に決定的な沈黙が走る。アデルたち三人は理解してしまったのだ。
彼が記憶を失っているということを。
ただ、リオとメイリーンが驚きで目を見開いている中、アデル一人だけは比較的冷静ではあった。とは言っても、驚いている事実に変わりは無いのだが。
「どうしましょう……リオ様の冗談がこんな場面で本当に起きるなんて……」
「マジの記憶喪失なの?漫画みたい」
「「まんが?」」
「あぁ、コッチの話だから」
当に今現在の彼は、リオが冗談で口にした「ここはどこ?私は誰?」状態で、記憶喪失と称するのが適切であると考えられた。
記憶喪失の人間など、生きていてそうそう会うことも無いので、リオの感想は仕方の無いものではあった。
「ここがどこかも分からぬか?」
「……わから、ない。ぜんぶ、なにも……」
「……そうであるか」
やはり何も分からないようで、アデルは気落ちしたような声で呟くことしか出来ない。
どうすればいいのかと三人が思い悩み、重い空気が流れる中――。
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……。
「「…………?」」
「おなか……へん……」
緊張感の無い盛大な音が彼の腹から鳴り、思わず三人は目を点にしてしまう。一方、彼はお腹が空くという感覚さえ理解できていないのか、どこか不安気な視線を自身の腹に向けている。
「あハハッ!アデルん、この子お腹空いてるみたいだね」
「そうであるな。メイリーン、すまないが此奴に何か食事を用意してくれるか?」
「はい。少しお待ちください」
緊張感が切れたことで、リオの快活な笑い声が森に響いた。メイリーンは早速調理の準備を始め、手持無沙汰になったアデルは彼の衣服を用意することにした。
真っ白なシャツと黒のパンツ、そして下着類を作ってやると、アデルはそれらをボーっとしている彼に手渡す。
「これに着替えるとよいのだ」
「……きがえる?」
「……仕方が無いであるな。こっちに来るのだ」
着替え方も分からないらしい彼を見兼ねたアデルはその手を引くと、メイリーンたちの視界に入らないところまで移動した。
そして身体を覆っていた羽織を取ると、丁寧に服の着方を彼に教えてやった。
少々時間はかかったものの、何とか衣服を着ることに成功した彼らはすぐさまメイリーンたちの元に戻る。
「わーい。イケメンがまた増えたぁ」
「…………」
「なに?アデルん」
シンプルではあるものの、彼の良さを出しているその格好を目にしたリオは、呑気にそんな感想を零した。すると、そんなリオを何か言いたげな相好でアデルがじっと見つめたことで、リオは思わず首を傾げた。
「前々から思っていたのだが、リオもそのイケメンという奴なのでは無いのか?我には正確に判断が出来ぬのだが…………メイリーンはどう思う?」
「えっ!?わ、私ですか?」
突然自身に話題を振られたことで、料理の仕上げをしていたメイリーンはビクッと身体を反応させた。
他人の評価ばかりするリオが、実は一番美丈夫なのでは無いかという疑惑をアデルは抱いているのだが、彼にはその判断基準が分かっていないので、意見を求められるのが彼女しかいなかったのだ。
「え、えっと……その……」
「?」
「……み、皆様……カッコいいと、思います……」
「「……」」
俯きがちに頬を染めながら、メイリーンはボソッと自身の感想を告げた。そんな彼女の言葉を耳にしたアデルとリオは、思わずポカンとした表情を互いに見合わせてしまう。
そしてしばらく沈黙すると、堪え切れなくなったように破顔した。
「カッコいいって、アデルん。良かったね!」
「リオもであるぞ?」
「分かってるわよ。こんなカワイ子ちゃんに褒められて、嬉しくない男なんていないわよね」
リオの軽口で更に顔を真っ赤にしたメイリーンは、物凄い勢いで料理する腕を速め、その羞恥を隠すのだった。
リオくんはとても強いです。これがギャップ萌えってやつですかね……。
次は明日投稿予定です。
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