表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レディバグの改変<L>  作者: 乱 江梨
第二章 仲間探求編
34/100

33、再会2

 ギルドニスは護衛たちの傍に浮遊する空気を操って風を起こし、その風に乗った護衛たちを僅かな手の動きで遠くに投げ飛ばした。



「「うわあああああああ!!」」

「ではアデル様、私はあちらで片付けるので、どうぞごゆっくり」

「あぁ」



 自身の身体が他人に操られるという奇妙な感覚に叫び声を上げる護衛たちだったが、彼らの反応には全く興味の無いギルドニスはあっさりとそう言った。そしてギルドニスが素早く彼らの元へ向かうと、アデルとサリドの二人が取り残され向かい合う状況になった。



「悪魔の愛し子……」

「アデルである。そのような名前では無いのだ」

「はっ……お前のようなゴミが名乗るとは、面白いこともあるのだな」

「まぁ貴様が我をゴミ扱いしようとどうでも良いのだ。ただ、お前がそのゴミ以下ということをこれから証明してしまうことになるが、よいのか?」

「っ……愛し子如きが…………まさかこの俺に勝てると思っているのか?」



 アデル自身に煽ったつもりは微塵も無いのだが、それを向けられたサリドは苛立つ気持ちを抑えることが出来なかった。煽り文句などではなく、アデルは本気でそう思っているので、その態度が余計にサリドの癪に障ったのだろう。



「……?そうであるが」

「っ……」



 アデルは本気で心の底から自身の勝利を疑っていなかった。油断しているわけでは無いが、アデルにはほぼ不老不死という強みがある。その上アデルの目には、サリドよりもギルドニスの方がまだ強者に見えたので、余計にアデルが負ける要素が無かった。そもそも、アデルにサリドを殺す意思は無く、ただ足止めと同時に捕縛できればと思っているだけなのだ。


 キョトンとしたアデルがトリガーになったのか、サリドは服の内側から大量の小型ナイフを取り出した。指と指の間に挟まれた大量のナイフを一斉に宙へ投げると、ジルを操ることでそれらをアデルに向けて放った。


 アデルは結界を張るまでも無く、ナイフのジルの操作権を奪ってその動きをピタリと止めた。そしてそのまま操作をやめると、全てのナイフが地面に激しい音を立てながら落ちていった。



「っ……随分と余裕のようだが、あの女を一人で塔へ向かわせて良かったのか?」

「なに?」

「あれは神の力を持っていなければ、何の問題にもならない程の弱者だぞ。心が弱すぎるアイツがあの精霊を目の当たりにすれば、ショックのあまり狂ってしまうかもしれぬというのに」



 自身の攻撃が一切通用しなかったギルドニスは負け惜しみを言う様に、アデルを揺さぶり始めた。だがアデルにとって聞き捨てならない物言いがあった為、彼は思わず眉を顰めてしまう。



「……問題の精霊は、本当にミルなのであるか?」

「あぁ。間違いなく大精霊ミルだ。まぁ、あの女の知る精霊では無くなっているがな」

「どういう意味だ?」

「あの女っ、友が生きているかもしれないと愚かな望みを抱いてこんな所までわざわざ足を運んだんだろうが、完全な無駄足だったな。大精霊ミルは、この俺が確実に息の根を止めた。あの日散々思い知っただろうに、馬鹿な女だ」

「っ?」



 ここにはいないメイリーンを嘲笑いながら語られた内容は、少々辻褄が合わない部分があった。目撃された精霊は間違いなくミルだというのに、サリドは一年前にミルを殺したと言う。加えて、メイリーンの知るミルでは無いという言葉が、増々アデルの疑問を膨らませていった。


 ********


「はぁっ……はぁっ、はぁ……」



 アデルのおかげで一時的に逃げることが出来たメイリーンは、塔に向かって必死に走り続けていた。慣れない運動に苦し気に息を切らしながら、アデルの厚意を無駄にしない為に必死に走り続ける。



「きゃっ…………」



 ヒールのついた靴を履きながら走っていたせいで、片方のヒールの部分が折れてしまい、メイリーンは躓いて転んでしまった。足を挫いたのと同時に、メイリーンは身体を強く打ち付けてしまう。結界のおかげで擦りむくような傷は無かったが、結界内で身体を打ち付ければ当然痛覚はあった。


 じわじわと蝕むような痛みにメイリーンは顔を顰め、情けない自分に腹が立ってしまう。


 こんな痛みも、神の力があれば簡単に治すことが出来るが、彼女は一刻も早くミルの元へ向かうために痛みを堪えることにした。


 キッと顔を上げて立ち上がると、脚を引きずりながら何とか走り出す。使い物にならなくなった靴は捨て、裸足のまま進んでいく。アデルの結界はメイリーンの身体を全体的に包み込む形の様で、裸足の状態でも傷と泥が全くつかなかった。


 走るたびに足首に痛みが走る。それでもメイリーンは涙を流さなかった。この程度で泣いてしまったら、二度と変われないと思ったから。弱い弱い自分から。



『何も心配することは無いのだ。メイリーン』



 離れていてもアデルが守ってくれている。転んだことでそれを実感したメイリーンは、不思議と恐怖を感じなかった。


 気づくとメイリーンは塔に辿り着いていて、早速ミルを探すために辺りを見回した。


 ふと、メイリーンの耳に生き物の吐息が流れ込む。生温かい様な風に身震いすると、彼女はその息を感じた方向を振り向いた。



「…………ミル?」


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」



 まるで災害級野獣のような鋭い咆哮が、容赦なくメイリーンを襲った。目を見開いたメイリーンは、その勢いに言葉を発することが出来ない。あまりにも長い間瞬きせずに目を開けていたせいで、生理現象のよう涙がスッと零れ落ちる。



(ミルだ……間違いなく、ミル……)



 見たことも無いほど大きな獣を目の当たりにし、メイリーンは揺るがない確信を持った。その精霊の頭は、百メートルはある塔の中間部分に達しており、人間など簡単に踏みつぶせるような巨大な身体を持っていた。


 メイリーンの知るミルとは、似ても似つかない大きさ。それでもメイリーンには分かった。言葉も使えず、呻きのような鳴き声しか出せなくなっても。姿が大きく変わっていても。それが自分の友であることだけは、はっきりと理解できたのだ。


 だからこそ、理解が追い付かなかった。何故こんな状態になっているのか。どうして苦しそうにしているのか。何故、自分のことを見てくれないのか。



「ミルっ!ねぇミル!どうしたの?ミルっ!お願い返事をして!」

「グオオオオオオオオオオオオオッ!!」



 いくら大声で問いかけてもミルは咆哮するのみで、メイリーンの存在にさえ気づいていないように見えた。


 メイリーンは何とかミルを正気に戻そうと走り出し、ミルの長く太い前脚に縋りついた。



「グオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「きゃああっ!!」



 前脚の違和感でようやくメイリーンの存在に気づいたミルだったが、彼女がかつての友であることも理解できないのか、鬱陶しそうに振り払ってしまう。ミルにとっては軽く前脚を払っただけのことだが、その巨体から繰り出された動きは全て攻撃と化してしまう。


 案の定メイリーンは吹っ飛ばされてしまい、すぐ傍の塔に叩きつけられてしまった。結界がその衝撃を受け止めてくれたので、メイリーンが血を流すことは無かったがやはり痛覚はあるので、地面に落ちた彼女はしばらく立つことが出来なくなった。


 ********


「あれはもう精霊ではない。ただの悪霊。ただの化け物だ」

「悪霊、だと?」



 剣を交わしながら、サリドは現在のミルの状態を説明した。サリドの攻撃を受け流すばかりのアデルは、聞き捨てならない単語に眉を顰める。



「我が国に伝わる禁忌の術の一つに、死んだ生き物を悪霊として使役するものがあってな」

「まさか貴様っ……?」

「あぁ。邪魔な精霊を殺した後、その禁忌の術を使って俺の配下に加えたんだ。あれは最早、俺の命令無しでは悪霊としての本能のままに暴れ回る獣と化した。ハハッ!あの女はどうするだろうな?かつての友を傷つけたくない一心で、暴走する奴を止めずにただ見ることしか出来ないか。もしくはあの悪霊に殺されるかっ!……あの女は弱い。その手で過去の友を殺すどころか、傷つけることも出来ぬだろうなっ」



 殺されたというのに、今現在存在している精霊がミルである絡繰りをアデルは漸く理解することが出来た。メイリーンの知るミルと、ギルドニスが目撃したミルの体格が大きく違っていたのも、ミルが悪霊として変異したことが原因だろう。


 つまりミルの死は覆ってなどおらず、悪霊として彷徨うそれは、メイリーンの知るミルでも無くなっているということだ。


 サリドから告げられた残酷な真実に、アデルは思わず鋭い瞳孔で彼を睨みつけた。


 ********


(あ、れ……私……何、してたんだっけ……?)



 呆然としたままその目に映るのは、未だに藻掻きながら辺りの建物を破壊しているミルの姿だった。虚ろな目でミルの姿を眺めると、メイリーンはミルの瞳が赤く血走っていることに気づいた。



「っ……血走った瞳に、大きな身体……まさかサリドっ……禁忌の術を?」



 バランドール民主国に伝わる禁忌の術の存在は国民であれば誰でも知っていて、死んだ生き物を悪霊として使役する術の詳細もメイリーンは知っていた。悪霊と化した生物は血走ったように目が赤くなり、生前よりも巨大化することを思い出し、メイリーンはミルが禁忌の術をかけられたことを確信した。



「じゃあミルは、もう……」



 今ミルが生きているように暴れ回っているのはサリドの使役下にあるからであって、ミルの死が覆ったわけでは無い。つまり命という観点でミルを救うことは出来ないのだ。


 アデルがメイリーンに望んでいるように、神の力で生物を生き返らせることが出来たとしても、今のミルにそれを行うのは無意味だ。何故ならミルの魂はサリドの術によって既に侵されており、例え生き返らせることが出来たとしても、もうそれはメイリーンの知るミルでは無くなっているからだ。



「でも、精霊にも禁忌の術が通じるなんて……」



 信じられないのと同時に、メイリーンは信じたくなかったのだ。ミルが悪霊と化してしまった事実を。だが、サリドの実力をもってすれば可能であることが分からないメイリーンでもない。



「ミル……」

「グオオオオオオオオオオ!!」



 涙を浮かべてその名を呼んでも、ミルが応えてくれることは無い。ミルという精霊は一年前に死に、死んでも尚苦しみ続けているから。自分の命を犠牲にしても守ろうとしたメイリーンに気づくことも出来ず、自身が何者であるかも分からぬまま、ミルは終わりの無い苦しみに藻掻いている。


 聞こえるはずの無いミルの苦しみの声が、メイリーンの耳には鮮明に届いていた。


 「助けて」と、そんな声を聞いてしまえば、もう駄目だった。メイリーンは呆けた相好のまま、痛む足に鞭を打って少しずつ歩き始める。苦しむミルに近づくために。



「グオオオオオオオオオオオオっ!」

「っ……」



 あと少しでミルに触れられると思った矢先、ミルの大きな尻尾が目にも止まらぬ速さで襲い掛かり、メイリーンは再び投げ飛ばされてしまった。その衝撃に思わず顔を顰めるメイリーンだが、叫び声を上げることも無く、淡々とした様子で再び立ち上がった。


 ゆっくりと、それでも確実に進み続けるメイリーンの足は挫いたことで腫れており、とても痛々しかった。


 そっと、ミルの身体に寄り添うと、メイリーンはその毛にぼふっと顔を埋める。



「……ごめんね。ミル……ごめんねっ……」

「グオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」



 謝罪の言葉をいくら紡いでも、その声はミルに届かない。それどころかしがみつくメイリーンを鬱陶しそうに睨み、尚も振り払おうと抵抗している。


 強く揺さぶられるメイリーンだが、ぎゅっとミルの毛を掴んで何とか振り落とされないように踏ん張っていた。



「ミルっ!……あの時、助けようとしてくれてっ、ありがとうっ!……あの時、助けてあげられなくて、ごめんねっ……」

「グルぅぅぅぅ……」

「っ……苦しいよね……辛いよね……」



 例え理解は出来なくても、しっかりとミルの耳に届くように、メイリーンは大声を張り上げながら滂沱の涙を流す。ミルの痛みにそっと寄り添う様に。


 すると、一瞬だけミルの動きが止まり、メイリーンはハッと顔を上げる。



「……ミル?……ミルっ!」

「っ……」



 思わず僅かな希望を抱き、再び問いかけるメイリーンだったが、ミルは苦し気に声にならない吐息を漏らすだけで、次第に唸るような声を上げ始める。



「グオオオオオオオオオオオオッッ!!」

「やっ……っ……」



 今までの比にならない程強い力で投げ飛ばされ、メイリーンは地面に叩きつけられてしまう。何とか痛みに耐えながら顔を上げると、やはりそこには暴れ回るミルの姿があった。



「っ!」



 涙が止まった訳でも、顔の紅潮が治まった訳でもないが、メイリーンはどこか力強い相好をしていた。キッと、ここにはいないサリドを睨みつけるような鋭い瞳になると、メイリーンは立ち上がってすぐ傍の塔へと走り出した。




 次は明日投稿予定です。


 この作品を「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、評価、感想、ブックマーク登録をお願いします!

 評価は下の星ボタンからできます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ