第一章 出会いは森の中で突然に 7
(せっかくの不意打ちの機会が!!)
いきなり音を立てながら接近するのだ。
さすがのフォレストベアーも察知し、エリーザに向かって唸り声を上げながら臨戦体勢に入る。
『風よ! 我が剣に力を与えたまえ!』
エリーザはレイピアを抜き放ち、接近しながら詠唱を唱える。
すると緑色の魔力が虚空に螺旋を描きながら細い剣身に纏わりついていく。
疾走し、瞬く間の内にフォレストベアーに接近する。
フォレストベアーは両手の鋭い爪を振り上げて迎え撃つ。
しかし彼女の身には届かない。無駄のない動きでするりと避けたあと、大きな首に向けて軽く腕を横に振るう。
首を落とすつもりなのだろうか。
絶対に勢いが足りないし、そもそもレイピアは基本的に突く武器だ。
さすがに無理がある。
ルドルフがそう思ったのも束の間、剣身がフォレストベアーの首に触れるや否や、抵抗もなくスッと通る。彼の予想に反して鮮血が吹き飛び、その次には首の無い死体が地面に横たわっていた。
「やりました! 朝食ゲットです!」
嬉々とした様子でぴょんぴょんと飛び跳ねるエリーザ。
ルドルフは驚きで空いた口が塞がらなかった。
(マジかよ……。あんな軽く振るうだけで骨ごと両断しちまうなんて)
見たところエリーザは戦い慣れており動きも洗練されていたが、それよりも目を瞠ったのが魔法の力だ。
女性の細腕でも簡単に魔物の首を切り落とすことを可能にしてしまう。
人族で精獣と契約し魔法という技術を独占している貴族が、社会階層の上位に位置するのも納得である。
(昨日寝ているときエリーザに近づかなくて本当に良かった!)
そして一歩間違えれば自分もフォレストベアーと同じ首なしベアーになっていたかと思うと、心の底から安堵した。
「あれが魔法か。初めて見たけどすごいんだな」
「ふふ。本当は使う必要が無かったんですが、思わず張り切っちゃいました。
でも便利な力だからこそ、色々制限があるので過信は禁物なんですけどね」
「へぇ。例えばどんな制限があるんだ?」
「そうですね。一番有名なのが回数制限です。
魔法を行使するには精獣の力を借りたりマナを消費することが必要なのですが、それだけでなく一日に使える魔法の回数が決まっているんです」
「それはどこかで聞いたことがあるな。ちなみにエリーザは何回使えるんだ?」
「私は最近12回使えるようになりました」
えへんと大きな胸を張って自慢げに答えるが、12という回数が多いのか少ないのか基準を知らないので、すごいんだな~と気の無い返事をするに止めた。
「そんなことよりルドルフもお腹空きましたよね? 早く朝ごはんにしませんか?」
しかしエリーザは気にした様子もなく、チラチラと倒したフォレストベアーに熱っぽい視線を送りながら尋ねてくる。
どうやらこのお嬢様はよほど食欲に忠実に生きているらしい。
あまりにもギャップが凄すぎて、昨日からビックリすることばかりである。
「いいけど手伝ってくれよ」
もはや食べることしか頭に無い彼女に、ルドルフはそう声をかけた。