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猫の君と魔女なわたし

作者:

都会と呼ぶには地味で田舎と言うには人の流れが盛んな街。


そんな街で薬屋を営んでいるカナリアは人里では珍しくなってきた魔女族だ。


不老長寿で一族は皆白髪に赤目、人とは異なる知識や力を継承している魔女族は迫害され易そうに見えるが、先人達が世渡り上手だったのかその時の人間にお人好しが多かったのか一族単位で大きな迫害などされた歴史はない。


なんとなく交流が始まってなんとなく生活の隅っこにいる。


偏屈でだけど変な所でお人好し、研究者気質の者が多い一族。魔女族とはそんな一族だ。


そしてカナリアは典型的な魔女族、薬関連に特化した偏屈で愛想のない外見二十代、街在住百年越えで実年齢は不明な腕のいい薬屋である。


薬屋なので当然、彼女は今日も薬を作って売っていた。


「……用法用量は守れ、出来ないならどうなってもしらない。理解したならお金を置いてさっさと帰りなさい」


薬だけでなく喧嘩も叩き売っているような言いよう。だがカナリアにとってこれが普通の接客で態度だ。だから街の人間や店の常連なら軽く流し、気にしない。


しかし、不幸なことに外から来て前情報なしに彼女の接客に当たった客は大抵の場合、気分を害す。そして相手によっては……


「おいおい!客に対してその態度はなんだ?ああん!」


このように厄介な(クレーマー)に早変わり。


冒険者と思しき男だが人相といい醸し出す空気といい見るからに性根のよろしくない相手である。


ぎゃあぎゃあと怒鳴りつけてくる男の迫力と勢いは普通なら泣き出しそうなものだがカナリアの不機嫌そうな顔は男の来店から今に至るまで一切の変化はない。


カナリアの言いたいことはただ一点。


「……買うなら金払う、買わないなら商品から手を放して静かに立ち去る。子供でも理解できる簡単なことが何故出来ない?」


「て、てめぇ!」


完全に逆撫でしてくるカナリアの物言いに男が拳を振り上げた。


確実に殴られる。なのに対象であるカナリアは不機嫌な顔のまま何もしない。不機嫌そうなのに無感情のようにも見えるカナリアは薄気味悪く手が止まりそうだが男は怒りでそれに気づかない。

冷めた目に何一つ感情を浮かべないのは回避できると確信しているのか、あるいはー。


「ねぇ、なにしているのかな?」


割って入る存在に気づいていたのか。


そのまま勢い良くカナリアに振り下ろされるはずだった拳は少年の声が響くと同時に不自然に止まる。いや、止められた。

手だけではなく身体も声すら見えない何かに縛られて思考以外の全てが奪われていた。


「あ、がっ?」


己が意思が肉体に届かないことに焦る男をこの期に及んでも変わらない不機嫌な顔で見つめていたカナリアは虚空からスルリと現れた黒猫の姿を認めため息を吐く。

そのため息に込められていたのは安堵かそれとも面倒な奴に見つかったと言うめんどくささか。


ゆらりゆらりとしっぽを揺らしながらカウンターに着地した黒猫が続けざまの怪異に恐怖する男にもう一度問う。


「なにを、しているのかな?」


男は、その時、己を見る人語を操る猫の琥珀色の瞳に殺意にも似た苛立ちを見た。



「カナリア、キミはバカなの?アホなの?どうしてかんたんにさけることのできるやっかいゴトをさけずにひきよせあっかさせるんだ!」


鋭い眼光とただならぬ殺気、そして喋る黒猫と言う合わせ技によって客を追い出した店内にてペシペシと前足でカウンターを叩きながら説教を始めた黒猫。

明らかに異常な光景だが一人と一匹にとっては何の異常も感じない日常の光景である。


「はぁ〜なんだってこんな魔女がよりにもよってもとにもどるてがかりなんだろう」


「……別に好きでなったわけじゃない。いやなら他当たれ」


嘆く黒猫だったがカナリアの冷たい言葉に眼光が再び鋭くなる。


「カ〜ナ〜リ〜ア〜」


背後に黒いものを背負った黒猫のカナリアを呼ぶ声は直視してはいけない何かを感じる。


だから当然、カナリアは明後日の方向から視線を戻さない。

ギャンギャンとより一層激しくなる説教を聞き流すカナリア。


この黒猫、喋るし不可思議な技を使うしと不思議の塊だが魔性や人外の類ではなく実は元は人間であるらしい。


詳しくは本人が語りたがらないのでカナリアも知らない。知っているのは本来は30半ばのいい歳で一人称も声も姿もそれに似合ったものだったのをとある魔女族に気に入られ、振ったために黒猫にされ喋りかたと声を強制的に今のものにされる呪いを掛けられたこと。


そして、とある予言を得意とする魔女族から呪いの解除にはカナリアの助力が必要不可欠であると告げられ専門外の自分の所に押しかけてきたこと、それだけである。


予言は具体的な内容はまったく無かったためカナリアが呪いの解除において何をすべきかわからないので黒猫は店に居座っているのが現状だ。


情報収集だと姿を消していてもカナリアに何かある度さっきのように空間渡りという裏技を使って駆けつけてくる。確実にカナリアに何らかの術なり呪いなりをつけて監視している。

ちなみにカナリアは一切許可を出してない。


押しかけの黒猫とやる気のない魔女。


彼らがいつまで一緒にいるのかそれは神様にだって読めない。


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