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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter4 夢の中のリフレイン
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0.プロローグ

ようやくこっちに戻ってこれました。

久しぶりにレンとレナのコンビです。


他にも同じ世界観で書いている小説があるので良かったらどうぞ

終末世界の片隅で … https://ncode.syosetu.com/n3114gg/

幾多の線を越えた先 … https://ncode.syosetu.com/n4618gk/

レコードによるとAnotherSide … https://ncode.syosetu.com/n3965gd/

「あの町に居ると感覚が狂うな」


路肩で止まった車の中でレンが言った。

私は全開に開けた窓に頬杖を付いていたが、それを聞いてレンの方に顔を向けて首を傾げる。


「全部があの町で完結出来るわけが無いんだが…あの町とその周辺だけで何もかもが完結しちまう気がする」


そう言ったレンはエンジンを止めると、私の方に顔を向けた。

私はほんの少し呆れたような表情を浮かべると、ふーっと溜息をつく。


「昨日の店で隣の漁師達が言ってた事の受け売り?」

「聞いてたのか」

「ええ。産まれてずっとこの近辺の人なんでしょうね」

「このご時世に珍しいと思ってよ」

「そうでもないんじゃない?年寄りだったら尚更…」


私はそう言いながら、膝の上に乗せたレコードを開く。

普段の真っ白なページの上に、パッと違反者の名前と現在地が表示された。


「その考え、都会の方が納得できるかも」


私はそう言いながら、レンにレコードを見せた。

彼はレコードを見ると、ほんの少し驚いたような表情を浮かべて、切ったはずのエンジンを再び目覚めさせる。

背後からすっかり聞き慣れたハイトーンのエンジン音が聞こえてきた。


「…で?レコードは何て言ってる?」

「今いる道をずっと真っ直ぐ…海側に降りて行った先に居るって」

「アテになるのかね?」

「ドライブ気分だね」

「本当にドライブになったら事だぜ、こりゃ」


半島に居る限りずっと続く一本道を流している私達は、レコードが示してきた内容を見て半信半疑だった。


「これで空振りなら…俺らは何時から処置してない事になる?」

「先月かな?」

「あー、先月はあったっけか」

「そう。カレンとか、リンはもう半年は注射器持ってないんじゃないかな?…あ…」


私はそう言うと、ふと腰の当たりに違和感を感じる。

レコードを開いたまま、身動きのし辛いシートの上で腰の当たりを触ってみて違和感の正体に気が付いた。


「私も注射器を持つことを忘れてた…ホラ」


そう言って、腰に付けていたホルスターから取り出した拳銃を眼前に掲げる。

気づけば随分前から持っている…スパイが使っていそうな小型の自動拳銃。

横に居たレンはそれを見て笑った。


「酷いな。俺が持ってっから俺がやるよ。居たらの話だけどな」


まるでレコードのことを信じていないような会話。

こうなるのも無理は無かった。


この世界の全てを寸分の狂いもなく記録しているはずのレコードが、ここ数年安定していないのだ。

切欠は1978年に起きた1件の事件。

私達が夜通し走って函館に駆けつけたあの1件だ。


あの時、何とか部長を止められて一件落着だと思っていたのだが、そうじゃなった。

レコードキーパーにポテンシャルキーパー、パラレルキーパーが一堂に会した函館で残すことになった痕跡はレコードの修正が効く範囲から外れてしまい、結果としてそこから多くのレコードが狂う羽目になったのだ。


たかがレコード管理下の人間の一歩が無くなっただけで、結果としては地球の裏側の人間のレコードが破壊される。


そんなことがあの日を境に起き始めた。

レコードの参照ミスだったり、異常もない人間が処置されたり…その逆もまた然り…


都度都度でパラレルキーパーが修正に入り、私達レコードキーパーは何が正解かもわからない中で"自らの勘"だけで仕事を進めるなんてこともやった。

レコードは使い物にならなくなったが…レコード違反者が出た時のあの"感覚"は変わらない。


私達はその"勘"に長けていたから、1985年の今まで大きなミスもなく過ごして来れた。

今だって、レコードは信じきれないが…勝手に磨き込まれた"感覚"が違反者の存在を告げている。


私は手にした拳銃をホルスターに戻すと、レコードを閉じてポケットに仕舞った。

日向を出て更に半島の先端の方へと車を走らせ…やがて遠くに青い海が見えてくる。


レンは車の速度を落とし、私は目の前に現れた小さな町のような光景に目を凝らす。

お盆の季節…普段だったら寂し気な田舎町も、この時期だけは海に遊びに来る外の人間が目についた。


「夏は好きだけど、ああゆうのが煩いから嫌い」


浮き輪とかを売っている店に数人見えた、見るからにガラの悪い大人たちを見た私はポツリと言った。


「日向じゃ見掛けないよな」

「本当にね。移住したいくらい」


私は軽口を言いながら、車の窓越しに"対象"を探し求める。


「止めて」


私はふと目についた人物を指して言った。


「あいつ?」

「そう……」


私の指先を辿ったレンも気づいたのだろう。

車を路肩に止めてハザードを付けた。


・・


異常はあれどやっていける…だなんてあの時は思っていたし、実際やっていけていた。

だけどその一方で、普段なら絶対にやること忘れていただなんて気づきもしなかった。

実際に立場が変わって初めてそれに気づく…思い出す…あの時の私の教訓だ。

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