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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter3 郷愁ラプソディ
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4.部下からのペイバック -3-

「次」


そう言って私はじわじわ歩きながら、次の標的に照準を合わせる。

突然、道の真ん中の男が射抜かれて吹き飛んだことに混乱しだす漁港の喧騒が耳に入ってくる中、私は手ごろな男を十字線上に納めて引き金を引いた。


再び銃声。強い反動。

そして、弾け飛ぶ標的の体。


2人目が倒れた頃には、悲鳴が上がり、人々が皆、建物の方へと駆けだしていくのが見える。

私の時代だと、スマホで警察沙汰になっていること請負だったが…昭和にそんな便利なものは無い。


私は建物に駆けていく小太りの男を素早く照準にとらえて射抜くと、すぐに駆けだした。


倉庫のように、入り口が大きく開いた建物の1階。

私は銃口を向けながら中に入っていくと、身近に見えた人間を次々と射抜いていく。

4,5人、無抵抗な人間を射殺した私の視界の隅に、建物奥…少し開いたドアの奥から出てくる人影が見えた。


何の違和感も感じずに、私はそれに向けて銃を構える。

そして、間髪入れずに引き金を引いた。


「……」


飛び出してきた男は腹部に銃弾を受けると、蹴破って出てきた扉ごと吹き飛んでいく。

その男が倒れた音が消えた直後、この場は波の音とカモメの鳴き声に支配された。

私はライフル銃の構えを解いて、周囲を見回す。


大口径のライフル弾を至近距離で食らうとどうなるかが如実に現れた地獄絵図が1階の作業場を彩っていた。


私はそれをじっと見下ろすと、ふーっと一つ溜息を付いて、建物の中へと入っていく。

丁度、事務員さんが座ってそうな部屋に入った時、仕事を終えたらしい前田さんと出くわした。


「終わり?」

「全部、外にいます。終わりました」


短く言葉を交わすと、彼女は手に持った注射器のノブを引いて外に出ていく。

パラレルキーパーしか持っていない注射器で、次々に凄惨な姿になった死体を消していく。

本来いては行けない存在を消す注射器のお蔭で、物の数分で虐殺現場が平和な平日の昼間の姿を取り戻した。


「さて…次に行こう…レコードの確認は出来た。最後の1人が消せれば、特に問題はなさそう」

「そうですか……」


私はそういうと、ライフル銃の安全装置を入れる。


「他の場所でもまだ細々と異世界からの流入があるけれど、僕達が防いでるから気にしないでいい。こういうことは別の軸の世界でも良くある話…僕達か、ポテンシャルキーパーの領分……」


彼女はそう言って、短くなった煙草を捨てて足でもみ消した。


「ただ…レナ達に関わるときだけ、今まで通りに行かないのが気になる。本来なら、今の連中だって、混ざり合う前に消した世界の人間なはず」

「どういうことです?」

「そのままの意味。本来もう何処にも居ないはずなのに…こうやって紛れ込んでいる…それだけが気がかり」


彼女はそういうと、立ち止まってレコードを開く。

私はライフルの弾倉を外すと、中身が少なくなっているのを確認して、新しいのと付け替えた。


「微妙にレコードが狂ったせいで、新たに可能性世界が生まれている訳か……」

「……つまりは、もう一人の前田さんがレコードを元に戻せば消えるって訳ですよね?」

「そういうこと…今は……13時24分。結構ある。早いところ最後の1人も消してしまおう…そうすれば、この街は問題ない…」


そう言いながら歩き出す前田さんに付いていく。

車まで戻るまで、前田さんは何かをレコードに書き込んでいる様子だったが、何かまでは分からなかった。


重たいライフル銃を抱えて助手席に収まると、運転席に乗り込んだ前田さんがエンジンを掛ける。


「……レコードに何を書き込んでたんですか?」


ゆっくりと走り出した後、私は興味本位で聞いてみる。

さっきのように、どこか急ぎだす様子も無くなり、余裕が出てきたように見えたから。


前田さんは咥えたばかりの煙草を口から離すと、私の方をチラッと見た。


「知らないの?」

「え?」


珍しく、不思議そうな声色で言った前田さんに私は思わずといった感じで返した。


「僕達の同僚達に警告文を送った。今の事情を踏まえて、この世界は今日の20時まで厳戒態勢でいることって。レコードを使えば、携帯がなくても同じタイプのレコードを持つもの…パラレルキーパーの仲間と意思疎通くらいできる…メール代わりになる…のをまさか知らなかった?」


そう言った前田さんに、私は少し驚いた顔をしてコクリと頷く。

横目に見ていた彼女は口をポカンと開けると、すぐに表情を戻した。


「意外。中森琴ほどのチームにいて、それが常識だと思ってた…昭和に入ってどうやって連絡を取り合ってたの?」

「え?それは…その、住んでるところは同じアパートだから、直接会って……」

「じゃぁ、離れ離れになったら?」

「それは…何も手立てはないですよね。皆で平成って良かったねって良く言い合ってましたから」


それを聞いた前田さんは小さく苦笑いを浮かべて見せる。


「さて…次だけど、函館山の麓に居る…これまで以上に街中だから、PPKでいい。そっちは置いておこう」

「次も、混ざり込んでます?」

「おそらく…今度は反撃もしてくるだろうね」


前田さんは車を走らせながら、そう言って溜息を一つ付いた。


「紛れ込んだ1人は別になんてことのない一般人だけど、紛れ込んだ可能性のある人間は厄介だから」


彼女はそう言って目の前の交差点を左に曲がる。

坂の町らしい、急こう配の登坂になり、石畳の道の振動に少し酔って来た。


「ここを登り切った先の、教会に居るシスターが対象…」

「混ざって来た人間はどんな人なんです?」


私がそういう前に、車は勾配の道の路肩に止まる。

前田さんに促されて車を降りて、彼女の横に着くと、彼女は私の方を向いていった。


「芹沢俊哲と中森琴…その一派。可能性に過ぎないけれど、この一帯で彼らを見つければ容赦はするな。"本物"はまだホテルにいる時間」


私は言われた言葉に驚きながらも、頷いて見せる。

暫くホルスターに入れっぱなしだった小型の拳銃を取り出すと、ポケットからそれに合う消音器を取り出して銃口に括り付けた。


何時ものように、撃鉄を起こしてスライドを引き、その後で小さくスライドを引いて初弾が薬室にあることを目視で確認する。


「東京でもそうだったけど、彼らは一筋縄では行かない。さっきよりは気を引き締めて臨むこと」


前田さんの言葉に頷くと、彼女についていって坂を登っていく。

坂を登り切ったころには、教会の鐘が聞こえてくる。

腕時計に目をやると、時針は14時を指していた。


前田さんと共に、教会の勝手口側に回り込むと、彼女はドアの横に張り付いて私に方に顔を向ける。

私は小さく頷くと、彼女はドアノブを回してそっと中に入っていった。


勢いよく2人で入っていくと、中は狭い玄関のようになっていて、誰もいない。

そこから2つの扉に繋がっていた。


「まずは対象を消そう。本来レコードでは今の時間は誰もいない。居たらすぐに消せ」


そう言って、彼女は2手に分かれた扉の一方を指す。

私はそっち側の扉のノブに手を掛けると、前田さんはもう一方の扉に手を掛けた。

2人向き合って頷くと、同じように扉のノブを回して中に入っていく。


入った先は薄暗い廊下のようだ。

私は慎重に、拳銃の銃口をあちこちに向けながらも、足早に進んでいった。


一番奥まで来ると、重厚な白い扉が私の行き先を遮っている。

扉まで行き、そっと白い扉を開けると、その先は教会の礼拝堂になっていた。

私が出てきたのは礼拝堂の端に付いた扉。

これまでの様子から察するにスタッフオンリーの場所から出てきたようだった。


礼拝堂に出ると、広い空間…多く並べられた椅子に1人の女性が座っているのが見える。

私は姿勢よく座っている女性に銃口を合わせると、口内の唾を飲み込んだ。


「本来、ここには誰もいないはずでしたのに……誰でしょうか…」


引き金に力を込める直前。

女性はふとそう言って、私の方に振り返る。

私は一瞬、動きを止めたが…すぐに視界に入った違和感に気づき引き金を引いた。


カシュ!


消音器で抑えられた銃声と共に、飛び散る血飛沫。

私はそれを見ることもせずに、身を屈めて近場の物陰に飛び込んだ。


同時に私の肩と腕を掠めていく銃弾。

一瞬だけ鋭く走る痛みに目を細めたが、すぐに物陰から腕を出して2,3発牽制弾を撃つ。


「……」


一瞬の交錯の後、不気味なほどに礼拝堂は静まり返る。

私は別に死ぬことは無いのだからと、溜息を一つ付いて物陰から飛び出していった。


バッと出ていった先に見えたのは2人組の男女。

こちら側に向いた2つの銃口が私の世界をスローモーションにして見せた。


光る銃口。

飛んでくる銃弾。


私は腕を数発撃ち抜かれながらも、撃ち抜いたシスターの真横まで飛び込んで行く。

腹部や胸に受けた銃弾の痛みはあまり感じない。

私は不気味な笑みを浮かべると、すぐに立ち上がってお返しとばかりに引き金を引いた。


7発目。

スライドが引きっぱなしになるとすぐにしゃがみ込む。

打ち止めとなった拳銃の弾倉を入れ替えてスライドを引くと、私は臆することなく飛び出した。


「な…!」


広い礼拝堂といえど、駆ければ直ぐの距離。

彼らの持つ銃も、そんなに弾数は多くない。


先に女の方の銃が弾切れになり、やがて男の持つ銃も弾が切れた。

私は銃弾を数発食らいながらも、血だらけになりながら男の方へと飛び込む。


「ぐう!」

「……くっ」


昨日の前田さんのように、私は男の腹上で馬乗りになって、消音器のついた銃口を眉間に押し当てた。


「死なないって素敵じゃない?」

「言ってろ!化け物め……」


そう言って笑いながら見下ろす男の顔は、芹沢さんだ。

私は動じることなく、汗を流して凄い目で睨みつけてくる男の顔に、銃弾を1発撃ち込んだ。


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