2.RKC 1978 PartⅡ -5-
"明日…1件の銀行強盗が札幌で発生する…そして、明後日…札幌でまんまと銀行強盗を成功させた一味は函館の船着き場に集まり…そこで仲違いを起こすんだ"
"その、仲違いによる騒動を終わらせたのは一発の銃弾だった。この前も、そうなるはずだったし…今回もそう…前回はそうなる前にレコードを外れたけれど、今回はそうならない…ただし"
"その銃弾を放つ人間が、この世界にいないんだ…再構築された中で、居なくなってしまった…なのに、一方で、レコードはそいつに仕事をさせようとしてる…ま、再構築された世界じゃよくあること…僕達パラレルキーパーの仕事は、その、居ないはずの誰かさんの代わりを務めることだよ……"
彼女が昨日…日向の展望台で言った言葉が脳内でリピートされる。
きっと、今レコードに映っていない、この時代の部長を狙撃する人間の肩代わりをするつもりなんだ。
…そう、分かったところで、部長が函館に行く理由が分からない。
簡単だ。例え部長が、この時代の"中森琴"や"芹沢俊哲"に接触した所で、それは明確な違反行為。
たちどころにレコードが検知して、すぐに部長は時空の狭間に送り込まれてしまう。
「どうして今更函館に行ったんでしょうね。部長は」
ひとしきり、頭の中を巡らせたところで私はボソッと口を開いた。
「さぁな…とっ捕まえて本人に聞いてみるしかないだろう。それか、最悪…止めたところで時空の狭間に消えるか…」
「……今、函館には前田さんが行ってるんだ。パラレルキーパーと…あと、ポテンシャルキーパーの」
「ポテンシャルキーパー?前田さん、そっちにもいるのか?」
「うん。同じ軸の世界の、1周目がパラレルキーパー。2周目がポテンシャルキーパーだって」
私はそういうと、レコードを手に持ったまま続ける。
「そうか…別に行かずとも前田さん達に任せてれば終わるか…」
「その場合、部長が居なくなるだろうけど」
「…………ああ、そうだろうな」
カレンはそういうと、私の方を一瞬チラッと見る。
「向こうの仕事の邪魔はしないさ…あくまでも私達はコトを連れ帰るだけ。それでいい」
カレンは言い聞かせるように言った。
私は小さく頷いてレコードに目を落とす。
明日の函館で死を迎える人間の一覧を何となく出してみる。
その気になれば、人の一生を寸分たがわず表示させられる本…私が知りたいことはすぐにページに表示された。
薄暗い車内…目を細めて表示された文字を追う。
明日の函館で死ぬのは都合12人。
6人が病院で持病や老衰で死ぬ…2人は家の中で疾患や発作による死…1人は交通事故で…1人は溺死…そして2人が銃撃による死を迎える。
その2人は、中森琴と芹沢俊哲…
2周目の部長と芹沢さんだ。
レコードを更に絞り込む。
部長と芹沢さんの死の数分前から、生命活動を停止させるその瞬間までのレコードを映し出す。
すると、2人とも、銃撃を受けるわけだが、銃を持った人間が居ない。
先ほど、部長のレコードを表示させたときのようにハイフンだけで表現されている。
そのハイフンの事由を聞いても、調べても、レコードは何も返してこなかった。
私達は、何も喋らずに、ただただ函館に続く道を無言で駆け抜けて行く。
背後に居るレンの車も、変わらずに付いてきた。
日が傾いて、太陽が陰に隠れ、薄すらと夜の空が顔を覗かせる。
ライトが付き、薄暗い道を黄色く、暗いライトが照らし出した。
道を照らす街灯も、暗く心もとない明るさだ。
カレンはアクセルに込めた力をすーっと抜いて速度を落とす。
「平成の時代じゃ使い物にならない暗さだよな」
久しぶりに、独り言を呟いた彼女の横顔は、どこか楽し気だ。
だが、その横顔はすぐに素の無表情に戻った。
先ほどから時々現れる看板に、函館の文字が見えてくるようになる。
あと少しで、部長が最期を迎える土地に着く。
膝上に置いていた小さなマシンガンに目を落とすと、ゆっくりと拾い上げて、初弾を薬室に送り込む。
「やる気は十分って所か?」
「さぁ?複雑な気分。うまく言えないけど」
セレクターレバーを操作して安全装置を掛けると、今度は腰のホルスターに仕舞ってあった拳銃を取り出す。
こちらも、弾倉に銃弾が入ってることを確認して、弾倉を銃に入れてスライドを引く。
その後で、少しだけスライドを引くと、薬室の中に妖しく光る銃弾の弾頭がチラッと見えた。
「カレン。そろそろ函館だけど。私とレンは何をすればいいの?」
手に持った拳銃の安全装置をかけて、ホルスターに仕舞うと、そう言った。
丁度、函館に入ったことを示す看板を通り過ぎる。
「武装してるのはレナとレンだけだからな。コトを探してもらう」
「……?皆で手分けして探すんじゃないの?」
私は少し予想外な答えを聞いて聞き返す。
すると、カレンは右手の人差し指を振って見せると、首を横に振った。
「私は昔の仲間の監視…チャーリーとリンの2人にはそれぞれ、2周目の芹沢とコトの監視をする…コトが函館に行ったってことは、昔の…今の世界の仲間に影響を及ぼさないとも限らない…」
カレンは淡々と続ける。
「私が芹沢やコトの近くに居たいが…私だとダメなんだ。分かるだろ?あの2人とはそれなりに深い付き合いだったんだ。でも、その周囲の人間なら…面識がないから大丈夫ってわけさ」
「……カレンが面識がないってことは、カレンが抜けた後に入った人?」
「そういうことだな。私が抜けた1年で…ちょっと人が増えたらしい」
「……犯罪組織って言葉が似合うね」
「実際、その通りさ」
カレンはそういうと、ハザードランプを付けて路肩に車を止めた。
少しもカクつくことなく止まった後、カレンは私の方に顔を向ける。
「コト、探し出せるよな?」
「レコードの使い方次第だけどね。まだレコードって安定してないんでしょ?2周目の今に」
私はほんの少し表情を曇らせていった。
安定していない…とは、さっき見た、部長を仕留めた人間が存在しないように、1周目の世界との差異をまだレコードが吸収しきれていないのを指す。
レコード…アカシックレコードはこの世の全てを記録している本…だから、その本は未来がなくなって、巻き戻されるなんてことは想定してない。
「ああ…でも、雲を掴むよりかは簡単だろ?」
「簡単って。まぁ、目印が無いよりかはマシだよ。だけど、私とレンで部長に敵う気がしない」
「そうか?私から見て、相手に回したくないのはコトよりかはレナだけど。コトは追い詰められればられるほど隙が増えるからな」
ハザードの音と、アイドリングしっぱなしのエンジン音に紛れてカレンが言う。
私はそんなカレンの一言に、ちょっと目を見開いた。
「普段、追い詰められないように…自分に何かが降ってこないように…結構気を使って動いてるんだ。コトは、計算しつくして動くのが好きなのさ。相手にするときは、どこまでアイツが計算してるかを考えて動くといい。でないと、あっという間にやられる」
カレンはそういうと、親指を背後のレンの車に向ける。
「読み合いの上手さはレンが長けてるだろ。2人でかかれば相手にならないわけじゃない。コトを頼んだ」
カレンにそういわれた私は、何も言わずに頷くと、軽いドアを開けて外に出る。
今までずっと座っていた反動か、少しだけ動きの鈍くなっている体を伸ばして、レンの車を見下ろした。
カレンは私が降りてすぐ、赤い車を走らせて町の流れに消えていった。
ひとしきり伸びをして、流れに溶けていくカレンの車を見送って振り返ると、レンが下りてきて私の元へと歩いてくる。
「カレンは?」
少し疲れた様子のレンが言う。
カギを持って、キーホルダーを指に入れてクルクル回していた。
レンの背後に止まる、背の低いスーパーカーは、ハザードを付けたまま、路肩に止まっている。
「…行ったよ。この時代の部長の仲間を見張るって」
「そっか…俺等はどうする?」
「部長探し…レコードキーパーはレコードに映らないから、ちょっと大変だけど」
私はレンを見ながら言う。
それから、普段の定位置になっているレンの車の助手席を開けて中に入り込んで座ると、レンも運転席に戻って腰を下ろした。
「2周目で、ハッキリしないレコードだけが頼りの綱。とりあえず、この前みたいに、少しでもレコードから"ズレた"人間を探って追おう…レンは函館に土地勘はあるのかな?」
「ない。去年か、家族で来たっきりそれだけさ」
「そう……その前に、おさらいしておこうか…」
レコードを開き、右半分に函館の地図を…左半分でレコードからズレた人間を探り当てて始めた。
次のページには、この時代の部長と芹沢さん…そして、2人の直近のレコードに出てきた人達のレコードと現在地を表示させる。
私は何も変化の無いレコードのページを見下ろしながらそういうと、レンの方に顔を向ける。
「部長がここにいると決まったわけじゃないけど、来るならここしかない。明日、2周目の部長と芹沢さんがこの街で死ぬんだ」
「それを止めに来たってわけか?」
「まさか、レコードキーパーが、故意に人間のレコードを違反させようとしようものなら…それを実行してしまったら…すぐに時空の狭間に飛ばされる」
「だったら何故?」
「それは分からない」
私がそういうと、レンは少し首を傾げる。
「いい。今から私達は部長を探しに町に出る。カレンは2周目の部長と芹沢さん以外の仲間を見張り、チャーリーとリンは2周目の部長と芹沢さんを見張る。それで、部長が昔の仲間に接触するのを防ぐんだ」
私はレンが何も言わないうちに、捲し立てるように言った。
「明日の23時50分まで…部長に余計なことをさせなければ私達の勝ち」
「…つまりは…あれか。ここに部長はいるか分からないが…今の、2周目の部長の仲間に影響がなく、コトを終わらせればいいって?」
「そういうこと…あとそうだ。レン。これ見てよ」
私はレコードの別のページを開き、先ほどの不完全なレコードの文面を見せる。
「明日の23時、部長を撃ち殺す人間が、2周目に存在しないにもかかわらず、レコードは1周目と同じように部長を殺す結末を表現してる」
「……というと?」
「その代わりの役目を、パラレルキーパーか…手伝いに来てるって言ってたポテンシャルキーパーの前田さんが務めるんだよ。昨日、日向で前田さんが言ってたのはこのことで間違いないはずだ。他に明日の函館で最期を迎えるのは居ないから」
私は少し早口に言うと、レンは何度か小さく頷き、自分の中に私の言葉を言い聞かせるように頷いた。




