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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter3 郷愁ラプソディ
64/125

1.そこは異世界の日本 -1-

「コーヒー…ブレンドで1つ」


呼びつけたウェイターにそういうと、彼は小さく頷いて立ち去った。

去年…まだ平成の時を刻んでいた東京で撃ち抜いた男の過去の姿…立ち去っていくその背中をじっと見つめてから、向かい側に座るレンの方に向き直る。


「随分と似てるよな。自分で言うのもなんだけど」


メロンソーダを飲んでいたレンは、グラスから口を離すとそう言った。


「そうだね。東京で老けた顔を見た時も、そっくりだった。レンが50歳くらいになればあんな感じになるんだろうね」


私はテーブルに頬杖を付いて、ふと窓の外を見る。

昭和の、弱い建物の窓が風に吹かれてほんの少しだけ揺れた。

その外から聞こえるのは、ハイトーンの澄んだバイクの音が2台分。


「相変わらずだよね、あのお二人さん」

「いいんじゃない?暴走族でもあるまいし」


甲高い音はこの建物の近くで鳴りやみ、駐車場に2台のバイクが入ってくる。

2人とも、妖しく黒光りするレザージャケットに身を包み、それぞれの好みが反映されたヘルメットを被っていた。


チャーリーは、黒字に黄色の三日月模様…リンは黒字に銃弾で射抜かれたハート模様…

2人とも、見た目はほんの少し日本人離れしているせいで、嫌でも目立つ。


窓をコンコンと叩くと、2人はこっちを見て手を振った。


「あ、気づいた」

「良く気付いたな」


レンもメロンソーダのグラスを片手に手を振る。

チャーリーがそれを指さして砕けた笑みを見せた。


その2人の背後に、真っ赤なスポーツカーが止まる。

私達は2人に、向こうも私達に気を取られていたから気づかなかったが、部長とカレンのようだ。


「気づかなかった」

「部長…?髪型変えたな。レナそっくりだ」


レンの言葉に、車から降りてきた部長に目を向ける。

タンクトップにジーンズと、ラフな姿の部長の髪は、何時ものようなパーマがかった聖子ちゃんカットではなく、私のように顔の半分が隠れるほどの髪型だった。


「イメチェンかな?でも、芹沢さんが見間違うのも分かる気がする。女の子なんて顔半分隠れてれば同じに見えるもの」

「そうかぁ…って思ったけど、ま、パッと見だけじゃ間違うか…」

「顔は似ても似つかわないし。部長は…そうだね。キャンディーズとかにいそうな顔してるから」


私とレンは部長とカレンにも手を振ると、窓から振り返って近場にいたウェイターに声をかける。


「すいません。今から来る4人組…ここに通してもらえます?」


そう言って、すぐ後。

部長達が私とレンで駄弁っていた席に通される。

丁度6人掛けのボックス席。

6人で座ると少し手狭になった。


「お疲れ様です。処置は普通に終わりました」

「ええ。確認してきた…お疲れ様…」


右隣に座った部長にそういうと、彼女は何時ものように返してくる。


「でも珍しいっすね。集まってご飯だなんて。偶に部長の家に押しかけて鍋やるくらいしか集まらないのに」


レンは最後に残ったメロンソーダを飲み干すと、そう言ってメニュー表を真ん中に置いた。


「ま、偶にはねぇ……私というよりも、こっちの希望が強かったんだけど」


そう言って部長は腕でカレンの腕を突く。


「カレンが?」


それを見たチャーリーは手に持っていたお冷を少し零した。

横にいるリンも口を開けて驚いている。


「なんだお前ら。私だって偶には誘うさ」


カレンは口調こそ、普段の憎まれ口だが、機嫌は良いらしい。

普段は上がらない口角がほんの少し上がっていた。


「でもさ、カレンが誘うにしても、ここだとは思わなかったな。いや、ある意味らしいけどさ。にしてもちょっと、こう、イメージと違うよね」

「リンが言いたいのも分かるけどさ、カレン、ここで働いてたんだって」

「え?アウトじゃん!不味くない?」


私の言葉に、リンは思わずといった感じに立ち上がる。

それにチャーリーも続きかけたが、リンの前に座っていたカレンが制した。


「大丈夫だよ。今日の夜は私のシフトの日じゃない。昼までの日だ。ま、旦那がいるが…それも未来の話。今はまだ問題ない」

「そ、そう…なの?」

「カレンが言うならそうなんだろうよ?焦ったぜ…」


2人は安堵の息を吐いて座りなおす。

それから、2人そろって煙草の箱を取り出すと、一本口に咥えた。


「驚かせてすまないな…ただ、見れなくなる前に一目見たかったんだ。この前の東京の一件でも、可能性世界から来てたらしいが…会えなかった」

「ってさ、カレン。クールに言っちゃって…昨日だってさ、こう…ぅぅぅ痛い痛い痛い!」


カレンが淡々と話すのを茶化す部長がカレンに腕を摘まみあげられる。

涼しい顔をしているカレンだったが、やがてほんの少し悲し気な顔になった。


「ま、この調子じゃ酔ったコイツに喋られるのも時間の問題だし、話して楽になっておこう」


そう言って部長から手を離す。


「…その前に、サッサと頼んで食べてしまおうじゃないか。話すって言っても食前に話すコトじゃないしな」


そう言ってメニューを開くカレン。

手慣れた手つきで皆が見えるように広げて見せた。


「仕込みは全部私がやってる頃だな…味は…どうだろう?保証していいよな?」


そう言ってカレンは部長を見る。

部長は肩を竦めて頷いた。


「保証するよ」


私達は一斉に開かれたメニューに目を向ける。


「私はいつものね」

「お前、芹沢と来てるんじゃないから他の頼めばいいじゃないか…」

「良いの」


部長は既に決まっていたらしい。


「元従業員としてのお勧めは?」


私はメニューを見ながら言った。


「サンドイッチの詰め合わせかな…途方もない量作ってるだろうからきっと残ってるだろう…夕食にするもんでもないが…レナなら合うんじゃないか?重くないし」

「ふーん……なら、それでいいや」

「私もそうするか…他は?どうする?」


アッサリ決めた私とカレン。

その他の面々はそこそこのレパートリーがあるメニュー表を見て考え込んでいた。

チャーリーとリンは煙草の灰が少し伸びている。


「俺は…カツカレー気になってたんだよね。ここのカツ。美味しいから」

「ほーう…じゃ、レン、あとでエビフライと交換な。俺はエビフライカレーで」

「じゃ、アタシはお蕎麦かなぁ…冷たいお蕎麦で!」


あっという間に注文が決まり、カレンがウェイターを呼び止める。

レンによく似たウェイターは、特にカレンに気づくわけでもなく、普通に注文を取って去っていった。


「……ま、後だ後…ところでコト、レナとレンに言い忘れてたことあったよな?」


特に普段と変わらず、クールなカレンは部長に言う。


「え?あー…サッパリ忘れてたわ…ごめんなさいね」


部長は普段あまり見ない、ちょっと驚いた顔をして私とレンを見る。


「明日さ、ちょっと日向の彼らのところに行って欲しいのよ、急で悪いのだけれど」

「え?」


部長は驚いた私の顔を見て、顔の前で両手を合わせる。


「ごめんね。私はカレンと明後日からの準備しないとダメだから行けなくって…日向にいたパラレルキーパーの2人がちょっと1週間だけ別の軸に行っちゃったから、上に付く人間がいないのよ」

「ああ…そういうことなら…どうせ明後日からRKCですもんね」


部長の説明を聞いた私は、表情を元に戻して言った。

そういえば、と、思い出したようにポケットからパンフレットを出してテーブルに置いた。


「ま、明日1日くらいなら…って、平日ですけど…私達は学校にも?」

「運良く彼らが通う学校は創立記念日みたいで休みなのよ。ま、何もないでしょうけどね」

「そういうこと…なら、明後日のRKCには日向から向かうことになりそうですね」

「なぁ…話の途中で悪いんだけどよ、RKCってなんだ?」


レンはそう言って、テーブルに置かれたパンフレットを開く。


「レコード・キーパー・カンファレンスでRKC。正式にはその後に年号がついてRKC1978…世界中からレコードキーパーが集まるお祭りみたいなものさ。明後日から5日間。ただ騒ぐだけだな」


チャーリーがそういうと、煙草を消してレンの方に顔を寄せてパンフレットを覗き見た。


「今年は札幌だもんね。普段は遠いせいでこのチームは2人行けないんだけど、今年は皆行けるよね?」

「ええ…ま、講演も展示も普段と変わらないから、代り映えはしないけど…初めてなら楽しめるんじゃないかしら」


部長がそういうと、レンはふーんと鼻を鳴らした。


「レナは?見るもん決めてんのか?」

「うん。榎田さんの講演を聞いて…あとは歴史物かなぁ…ってところ」

「フーン…初めてだし、付いてこ」


そう言いながらも、そこそこページ数のあるパンフレットを捲っていくレン。

そうこうしているうちに、ワゴンに載せられた料理が運ばれてきた。


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