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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter3 郷愁ラプソディ
63/125

0.プロローグ

「すっかり落ち着いたよな。何時ぶりだ?」


背後からのエンジン音に負けないくらいの声量でレンが言った。


「それでも1月経ってないよ。3週間くらい」


助手席に座る私は、レコードに目を下ろして言った。

1978年7月…時が昭和に巻き戻ってから早1年と数か月…平日だから普段は高校にいるはずの時間だが、処置があったから今までだけは年齢を改変している。


私とレンは、普段の仕事…レコード違反者の処置のために何時か行った峠の上の茶屋まで向かっていた。


場所が表示されたときに一瞬、カレンだろうか?と思ったが、土産物屋のバイトの男がレコードを犯したのだ。

相変わらず、レコードへの適性はなく…注射器による処置だ。


「そうだ、レン…終わったらさ、そのままレストランに行こう?」

「ああ…いいけど…時間、中途半端じゃねぇか?」


私の言葉に、レンは頷きながらも首を少し傾げた。

左腕に付けた腕時計に視線が一瞬だけそれる。


私も、右腕に付けた腕時計を見た。

4時42分…午後だから、16時42分。


「ううん。大丈夫。部長達がこっち来るって言ってた…皆でご飯食べようって」


そういうと、レンは少し驚いた素振りを見せた。


「……カレンがいるだろ?…大丈夫…なのか?」

「大丈夫だよ。カレンは今日シフト外…ただ…旦那さんがいるみたいだね」

「………いや、大丈夫じゃないよな?」

「いいんじゃない?血縁者じゃないし、同棲していれどまだ結婚はしてない。危険度は高くないよ」


私は少しだけ苦笑いを浮かべて言った。

頬杖をついていた右腕を解いて、ぐるぐるとハンドルを回して窓を開ける。


「それに、カレンは、私と違う。ヤケなんて起こさないよ」


茶屋まではそんなに時間がかからなかった。

レンが快調に飛ばし続け、あっという間に登り切る。

LEDなどとは無縁な、蛍光灯によって照らされる看板を横目に駐車場へと入っていき、一般人の車が止まっていない所に車を止める。


車を降りて、七分丈の薄手の上着のポケットから注射器を取り出して左手に持った。


「ちゃちゃっと済ませてコーヒーでも飲んでよう…」

「だな…どんな人相だ?」


何時ものように、2人並んで駐車場を歩いていく。


「すぐに分かる…土産物屋で、木彫り職人としてやってるみたい…頭にタオルを巻いて…ヒゲ面」

「了解」


木でできた階段を上り、自動ドアが開く。

木の香りが鼻に付き、ホールのど真ん中…床が1段高くなったターンテーブルの端に置かれたピアノが何かを奏で続けていた。


「レン、あの車は?前と違うよ」


私はターンテーブルに飾られた車を指さした。


「あー……?さぁ?」


レンは少しの間時っと見つめて、そう言って肩を竦めた。


「レーシングカーなのは知ってる。名前は知らね」


そう言ったレンに、私はコクリと頷いて答えて、土産物屋の方へと足を進める。


「ああ、あいつか」


少しだけ広いお店だが、対象はすぐに見つかった。

普段、一般人なんて、顔のないモブにしか見えない私達。

レコードを逸脱した人間は、普通の人間のように見えるのだから、探り当てるのは容易かった。


「みたいだね」


私はそう言って、一歩先に踏み出したレンのすぐ後ろを付いていく。


「すいませんね。ほんの少しだけ、お時間貰っていいですか?」


レンはわざとらしい丁寧な言葉を使って、彼の手帳を男に見せつける。

手帳を見せられた男は、これまで処置されてきた人間と同じように、一瞬だけ世界から切り離された。


「失礼…」


私は、呆然とこちらを向いている男の首元に注射器の針を突き立てる。

そして、何時ものように中身をすべて注入し終えると、針を抜いた。


「貴方はあと6年…それじゃ」


注射器を仕舞い、レンと共に男の元から去っていく。


「何時になった?」

「4時55分。あと1時間もすれば皆来るから、それまでだね」


土産物屋を出て、エントランスを横切り、食堂の方まで歩いていく。

仕事道具を仕舞ってしまえば、私達はただの若いカップルだ。


「2人で…奥でいい?」


男のウェイターにそう告げて、この前来た時と同じ、店の一番奥のボックス席に座った。


「今の人がそう?」

「らしいね…カレンの旦那様…ちょっと意外だったかも」


・・


そう言って、私とレンはそれぞれ飲み物を頼んで1時間を過ごした。

昭和に来て1年半近く。私がレンと暮らすようになってからは…丁度2年くらいだろうか。

何もかもに慣れ切っていて、私はこれが永遠に続くのだと信じて疑わなかった。


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