4.世界を超えた願い事 -5-
ホテルから出て、速水さんたちのチームも揃い、空港までマイクロバスで移動中。
速水さん達の高校生チームの面々はぐっすりと眠り、私達も、レンやリンなどが目を閉じて眠っていた。
私はふと、ずっと持っていて渡し忘れていた左手の拳銃を見る。
席を立って、前に座ったカレンの横に行き…補助席を出して座ると、私は何の脈略もなく、銃の持ち手をカレンに差し出した。
「何だ?急に…」
カレンは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに無表情に戻る。
私が差し出す拳銃を手に取ると、手慣れた手つきで銃の後ろ側の部品を引いて弾薬を取り出し…引き金の前にあったらしい弾倉を引き抜いた。
それから、引いた部品を元に戻して…抜いた弾を弾倉に入れ込む。
「随分と懐かしいもの持ってるじゃないか…これは?」
そう言って、銃を見回すカレン。
「ビッグサイトで、可能性世界からこっちに来たカレンの持ってたやつ」
私がそういうと、普段表情を変えない彼女が、ほんの少し動揺した顔を見せた。
「私が……?ああ…芹沢もいたのなら…不思議じゃないか」
「…結婚してたんだね。ミサって、子供の名前?」
私がそういうと、銃を座席のテーブルに置いたカレンは、小さく頷いた。
「……あ、ああ…旦那は居たのか?…その、レンをそのまま老けさせればよく似た顔になる男だ」
「やっぱりそうだったんだ。ビッグサイトで最初に撃ったのがその人だった」
「そうか……娘は?」
「見てない」
私は淡々とカレンの問いに答えていく。
「まさか自分が混ざってるとはな…ただ…どんな気持ちでこっちに来たんだか…」
カレンはほんの少しだけ、虚ろな目をしながら言う。
私はそんな彼女の横顔をじっと見つめていた。
「で、なんでこの銃をくれたんだ?」
「いや…なんとなく…本人が持ってた方がいいのかなって…」
「そうか…ま、今回みたいなときに木偶の坊になるよりはいい…か」
カレンはそう言って、持っていたハンドバッグに拳銃を入れた。
「初めてこれを持ったのが18の時か…銃なんてもう持たない気でいたんだが…な」
そう、少しだけ寂し気な声で言うと、カレンはゆっくりと目を閉じた。
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酔い止めのない、帰りの飛行機で地獄を見た私は、暫く到着ロビーのベンチで休み、1時間ほど体を休めてから駐車場へと歩いていく。
レンはまだほんの少しだけふら付く私を見て、私の方に手を出した。
「ん」
「?」
「鍵」
レンに言われるがまま、私はコートから車のカギを取り出して、彼に渡す。
「いーの?」
「フラフラのレナに事故起こされても敵わんからな」
「うーん……」
私はそういうと、いまだに宙に浮ついた気分で、足を躓かせた。
「っとっと…」
空港の駐車場…乱雑に、白線すらも無視して止まった車に乗り込んでぐったりとシートに体を預ける。
直後に、エンジンがかかって、レンがアクセルを吹かすと、周囲に甲高いエンジン音が鳴り響いた。
少しだけ暖気させてから、ゆっくりと駐車場を出ていく。
国道に出て、車の流れに乗って、のろのろとした速度で帰路を行く。
空港から出て、最初の赤信号で止まった時、コートの内側から携帯電話の着信音が鳴り響いた。
「もしもし…?」
まだフワフワとする頭で、電話に出る。
「酷い声ね…大丈夫?」
「ええ…まだ…遠くに木星が見えますけど…大丈夫です」
「……?……ああ、まあいいわ。電話に出てるってことはレンが運転してるのね?」
「はーい…」
「なら、そのまま家には帰らずにアパートまで来てくれる?」
「はい?」
私はレンの方を見て、頷いた。
「どこですか?」
「高校の裏手側よ。ホラ、高校の裏手の、ちょっとだけ登ったとこにあるアパート…知らない?」
私はそう言われてもピンと来なかったので、一旦電話を耳から離す。
「レン。高校の裏手側にある…何か、登った上にあるアパートって知ってる?」
私の方をチラホラと見ていたレンは、ほんの少し思案顔になると、すぐに頷いた。
「ああ……茜荘?」
そう言われて、電話を耳に押し当てる。
「茜荘?」
「そう。そこ…大丈夫そうね。それじゃ、待ってるわ…貴方達には芹沢さんからプレゼントもあるし、楽しみにしておくことね」
部長はそういうと、電話を切ってしまう。
私は電子音の鳴り響く電話を耳から離して、通話を切るボタンを押すと、コートに電話を仕舞った。
「茜荘がなんだって?」
「今からそこに行って…部長がそう言ってた」
「……まぁ、いいけどよ…アパートって言うか、何だろうな、ちょっと作りの豪華な集合住宅ってところだぜ」
「良く知ってたね」
「高校の友達の家がその奥でな…何回か通って…印象に残ってたんだ。ま、見ればわかる」
「そう…ああ、そうだ。芹沢さんからのプレゼントがあるってさ」
「楽しみにしておきますか」
レンは行先の変更に合わせて、車線を右に変える。
「アパートを確保したっていうけど…茜荘がそうなのかな?」
「さぁな…」
前が開けたからか、レンはアクセルをほんの少し踏み込んで車を加速させる。
私も、徐々に酔いが醒めていき、頭が晴れ渡ってきた。
暗闇に染まった街…車通りが少なくなった街の中を抜けていき、通う高校の横を通り抜けていく。
車通りの多い道道から、1本中に入って、少し距離のある坂道を登っていく。
住宅街の狭い片側1車線道路…左手に高校のグラウンド…右手に雑木林を見ながら、坂を駆けあがっていく。
何か所か、交差点を折れて、さらに登っていくと、レンはアクセルから足を離した。
彼はガラス越しに見えた建物に指を指す。
「あれだ…」
アパートというよりは、一軒家が5つ繋がったような建物…
その建物は、それぞれ玄関と、その真横には大きなシャッターが備えられている。
その前は、アスファルトが敷かれた広場になっていた。
レンはウィンカーを右に出して中に入っていく。
どこに止めていいか分からなかったので…とりあえず邪魔にならなさそうな端に車を止めて、降りると、一番道路側の家の扉が開き、カレンの姿が見えた。




