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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter2 世紀末クライシス

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4.世界を超えた願い事 -2-

"半径5キロ、レコード該当者ナシ…Code004ニヨル消失"


「どうした?」


レコードを閉じて、引きつった私の顔を一瞬だけ見たレンが言う。


「最悪だ。この世界の人間が消えてってる…徐々に、東京の住民が居ないことになってってるの…」

「何だって?どういうことだ?」

「Code004の副作用!放っておくと世界は徐々に崩壊していく!住民の消えた地域は時空の狭間に変わっていくの!きっとそうなるのはここが一番最初!」


私はそう叫ぶと、シートベルトを取って、手に持ったグレネードランチャーを構えてサンルーフから身を乗り出した。


「うぐ!」


風圧で、一瞬息が詰まるが、それでも体に鞭を打って構える。

フェラーリに狙いをつけて一発…引き金を引いた。


ポン!っという音と共に擲弾が飛んでいき、フェラーリの近くで着弾して破裂する。

派手な爆発音とともに、抉れたアスファルトの破片が、私達の車に降りかかった。


「カハ…!…ああ…」


偶々、鋭利な破片がのど元を貫通し、私は血を噴出しながら車内に崩れ落ちる。

シートに座り込み、再生した。


再生した時に、ふと見えた地図の表記を見てレンの方に振り向く。


「レン、あと4発、構わずに撃つから、このまま真っすぐ突っ込ませて…高速降りて真っ直ぐ!」

「え?」

「木場ってあるでしょ!それまでに当てられたら、そこで終わりにしてやる!」

「……了解」


私はレンの声を聞いて、シフトレバーを握った彼の手をポンと叩くと、再びサンルーフから顔を出した。


私が死んでいる間に、左に右に曲がって、直線に入っていた。

一瞬で潜り抜けた真上の看板は、木場がもうすぐそこまで迫ってきていることを示している。


私はグレネードランチャーを構えて、フェラーリを狙って引き金を引いた。

ポン!という音と共に、擲弾が飛び、狙いからはずれた位置に着弾した。

やはり、高速で揺れる車の上では狙いが全く付けられない。


着弾したのはフェラーリの進路の右側…

派手に爆発し、爆風でフェラーリのサイドガラスが割れた。


小さく舌打ちしてもう一発。

今度の弾は、ほんの少しだけ右にそれて破裂する。


「チェ!」


2発続けて外れ。

それでも、フェラーリの進路修正にはなったらしく、木場の方へフェラーリの鼻先が入っていった。


フェラーリは左側面を激しく壁にこすりつけ、火花が派手に飛び散る。


私は飛んでくる火花をまともに食らいながらも、痛みに顔を顰めながら、再び構えた。


狭くなった道。

一気に下って、駆け抜けていき、遠くには2車線になって…下道への入り口…信号につながる道が見えた。


ここまで追い詰めたのなら、今度は外さない。


そう心に誓って、引き金を引く。


1車線が2車線に切り替わる瞬間。


ポン!と飛び出た擲弾は、フェラーリのテールを切り裂いていき、中のエンジンごと、派手な炎を上げて爆発した。


私は、一瞬で体を室内に引っ込めて、シートの上にしゃがみ込み…ダッシュボードに手を当てる。


もはやグレネードは手から離れて、後部座席の方へと飛んでいく。


レンはアクセルを緩ませずに、むしろ威勢のいい叫び声をあげて車のノーズを、炎を上げたフェラーリに突っ込ませた。


私の体はそのままダッシュボードにたたきつけられて、シートに跳ね返る。

すさまじい音と共に、車は走り続けた。


レンはアクセルを踏みぬいたままらしく、それでもフェラーリに車を押し当てたまま…

エンジンが甲高い音を発しながら、衝突後の減速を巻き返すかのように加速していくのが感じられた。


永遠にも感じられた瞬間。

何かを押していたような感触が消え去り、ふと車の動きが軽くなる。


「あ…」


諦めたようにつぶやくレンの声。

ふわっと浮いた感覚。


私はシートに変な姿勢で押し付けられていたせいで、外の景色が見えない。


だが、その、浮遊感の直後。

激しい衝突音が耳に響き、ぐわん!と激しく脳が揺さぶられる。


痛みに目を見開いて叫んでみると、私の体はフロントガラスを突き破って外に飛び出た。


見えたのは、今まで走って来た道と、ガードレールを突き破って、私と同じ方向に飛んでくる黒いセダン。


そして、真っ赤な車体を真っ赤に燃え上がらせたフェラーリの残骸。


不気味なほどに一般車が居ない、首都とは思えない光景を晒しだした東京の街並みだった。


私は飛んでいる間、痛みも感じず、ただただ浮遊感と、途方もなく遅く過ぎていく時を感じながら空を漂った。


手を黒いセダンに乗ったレンに伸ばそうと、力のない右手を必死に動かす。


レンは突き破られたガラスの向こう側で…破裂したエアバッグの奥にいるのだから、姿ははっきりと見えなかったが…


私はそれでも必死に手を流れに逆らって引き延ばした。


永遠にも感じられた瞬間は、私が何か細い棒状のものに背中から激突した瞬間に終わった。

バキッという嫌な音共に、エビぞりどころかへの字に折れる私の体。

肺の中の空気が一瞬で空になった瞬間、私は意識を失った。


すぐに復活して、背中側に、への字にバッキリと折れた体は元に戻る。

今日だけでもう、7,8回は死んでいるから、ほんの少しだけ、再生後の体の動きは鈍かった。


左手で体を起こして、雑草の上に立ち上がる。

私を受け止めた…というより私が激突した木を見上げて、飛んできた方に振り返る。

前が粉々につぶれた黒いセダンの姿を見て、私は車の方に駆け寄った。


「レン!…いる?ねぇ、レン!」


死なないのは分かっていても、つぶれた車に復活するほど恐ろしいことはない。

私は叫びながら車に駆け寄り、助手席側から運転席を覗き込む。


だが、レンの姿はどこにもなかった。

バッと車から顔を上げて、周囲を見回す。


真っ赤に燃え上がるフェラーリと、ガードレールに真正面から突っ込んだ私達の車以外は、何てことのない光景だった。


唯一、周囲に人が誰もいないことくらいだ。おかしな光景といえば。


私はポツリと、世界にたった一人になってしまった感覚の中でレンを探す。

潰れた車から飛び出ていた私のライフルを拾い上げて、車の後ろに回って、周囲を見回した。


「レン!いるなら返事して!お願い!」


私は得体のしれない不安に駆られながら、レンのことを叫ぶ。


必死に周囲を見回して、燃え上がるフェラーリの方に振り返った時、私は胸元を撃ち抜かれた。


「…!」


燃え盛るフェラーリのドアが開いていて、そこから這いずりだしていた芹沢さんが、私に銃を向けている。


私は撃たれた部分を抑えるが、吹き出る血の勢い負けて硬い地面に崩れ落ちた。

すぐに再生した私は、体中の鈍い痛みに顔を顰める。

地面に倒れたままの私を、何かが引きづった。


声も出せずに、なすが儘に引っ張られる。

半泣きで目を開けると、レンが私のことを心配そうな顔をして見下ろしていた。


「借りるぜ」


そう言って、私の左手に持ったライフルを取り上げると、彼はすっと立ち上がって引き金を引く。


2,3発撃って再びしゃがみ、私の方に手を差し出した。

徐々に動けるようになっていた私は、差し出された手を掴む。


レンに引っ張り上げられるようにして立ち上がり、ライフルを受け取ると、フェラーリの方に顔を向けた。


「おいおい、マジかよ」


レンは驚いた顔で呟く。

きっと、先の銃撃で仕留めたと思っていたのだろう。

でも、芹沢さんはしぶとく生きていた。


地面に落ちた拳銃を拾おうと、満身創痍の体を無様に動かしている。


私はまだまだ鈍い痛みを発する体を強引に動かして、スタスタと芹沢さんの方へと歩いていった。


あとほんの数十センチで手が届く芹沢さんの拳銃をフェラーリの方へと蹴飛ばして、倒れ伏した彼の方に振り返ると、足で蹴って仰向けにさせる。


「先に行っとく。私はコトじゃない。死んだ女を、別世界に来てまで探して今更どうするつもり?」


そう言って、ライフル銃の銃口を、血だらけの彼に向けた。


「……は……馬鹿が何も知らねぇ癖によ…」


芹沢さんは、あきらめがついた、どこか晴れ晴れとした顔で吐き捨てるように言う。


「…コトの事なんざ、どうだって…いいんだ…あんな裏切り者」

「裏切り者?」

「ああ!……チームの輪を乱す裏切り者さ!テメェみたいな腐った面してる女を見ると反吐が出る!」


芹沢さんらしくない口調。

それでも、強烈な一言を発した芹沢さんは、私に意地汚い笑みを浮かべると、ゆっくりと目を瞑った。


「撃てよ、アバズレ。ゲームオーバーだ」


そう言った芹沢さんを見て、私は少しの間何もせずに彼を見下した。

そして、レバーを連発に切り替えて、ゆっくりと彼の顔に向けなおす。


「……裏切り者かは、私が見て決めるさ…貴方はやりすぎた。知りすぎた。もう消える時間……」


そう言って、一発、彼の顔の横に銃弾を撃ち込む。


「さっさと消えてなくなっちゃえ。偽物風情がよくやったよ」


そう言って、今度こそ彼の顔に銃口を向けて、引き金を引いた。

すでに何発か撃っていたからか、連射はすぐに終わった。


遠くに、東京の喧騒が聞こえる。

風が吹いて、私の前髪をかき混ぜる。


フェラーリの燃える音が間近で聞こえて…私は原形もとどめずに散った芹沢さんをほんの少し侮蔑するような目で見下した。


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