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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter2 世紀末クライシス
45/125

3.相手は何時かの自分 -1-

芹沢さんの言う通り、目的地にはすぐについた。

途中の湾岸線でスピードメーターの針が250を超えたままになったかというのもあるが…


開発が進んだ土地に、ひっそりと残る一昔前の工場の敷地に車を止める。

2人そろって銃を持って外に出た。


「空港の奴らからこの工場に関する情報が出てきてな…ま、細かいことは中にいる連中を始末してからだな」


そう言って、芹沢さんはマシンガンの安全装置を切って、バッと銃の前部分にあるレバーを引いた。

私も、右側のレバーを下ろして安全装置を切り、カシャン!とレバーを引いて、初弾を薬室に送り込む。


「レナ、お前は上からだ。そこの階段上がって中に入れ。ずっと真っすぐ行けば広い部屋を見下ろせる位置に出る」

「……カギは?」

「掛かってない掛かってない。2階はガラガラだろうよきっと」


芹沢さんは知っているかのような口調で言った。


「俺は1階から、真正面から入ってく。コレで派手に突っ込むからな、それが突入の合図と行こう」

「わかった…でも、やけに知ってるね。昔使ってた?」

「ああ、ちょっと悪いことしてた時にな」

「道警のキャリア組さんが?」

「誰にでも秘密はあるもんさ」


最後に軽口を言うと、私は芹沢さんから離れて、言われた階段を上がっていく。

カン、カンと、音を立てながら上がっていき、重そうな鉄製扉の横に立った。


周囲を見回すと、普通に車が行きかっている。

もう、彼らは本当にただのロボット…プログラム通りに動く機械でしかないから、こんな朝っぱらからライフル銃を持っている女の子のことなど、気にも留めなかった。


もう一度、安全装置が外れていて、単発の位置にレバーがあるのを確認すると、鉄扉のノブに手を伸ばした。

映画に出てくる特殊部隊員の真似をして、ストックを肩に押し付けて、左手で持ったライフル銃の銃口を室内に向けながら入っていく。


昼間なのに、暗い廊下に外の明かりが差し込んだ。

バタンと扉が閉まると、暗い廊下を進んでいく。

何の部屋につながる扉があるわけでもなく、ただただ真っすぐの一本道。

左手で持ち手を握り、右手は弾倉の入り口当たりに添えて、真っ直ぐ進行方向に銃口を向けながら、小走りで突き当たりまで進む。


怖いくらいの静寂の中で、私の足音が廊下に響いた。

でも、廊下には誰もいないのか、まったく反応がない。


突き当たりまで来て、窓がついた扉の前までやってくる。

扉の横に立ち、いつでも飛び出せるような体勢になってから、そっと窓から顔を覗かせた。


ここを出ると、工場の中…キャットウォークに出るらしい。

工事現場の足場のような床が工場の広い部屋の四隅に通っていて、その端っこ…扉がある先に私がいるわけだ。


工場の中は広く、何もなかった。

広すぎる、工場というよりはまるで倉庫のような部屋。


真ん中に唯一置かれた大きなテーブルの周囲に中年の男女がいた。


テーブルの上には雑に置かれた書類。

そして、安物の映画に出てきそうなチープな拳銃…偶に見えるのは散弾銃……


彼らは、1枚の大きな地図の周りに集まり、1人の男の話を聞いていた。


「おっと……」


その男の顔を見た私は思わず口を開く。

それは、ついさっきまで左隣にいた、パラレルキーパー。

芹沢さんに瓜二つの男だった。


さっきまでいた芹沢さんと違って、髪は白髪が大半を占めていて、皺が増えた顔に、相変わらずの鋭い眼光。

パッと見だと、60歳前後だろうか、それくらいだ。


……と、いうことは、周囲に部長やカレンもいるのではないか?


そう思った私は、芹沢さんの話を聞いている男女を細かく見ていった。

だが、どれもこれも知らない顔ばかり。

唯一、芹沢さんの対角にいた白衣を着た男が、榎田さんに似ていると気づいたくらいか。


一通り、下の様子を見終わった私は、芹沢さんの合図を今か今かと待ち構える。

左手の人差し指を引き金にかけて、右手は扉のノブを掴んだ。


瞬きもせずに、じっと待つ。

静寂に包まれた廊下…その直後、人の声が一段と大きくなる。

右手でつかんだ扉のノブを回して押し込み、銃口を向けながら飛び出ていく。


「上だ!」

「し、手榴弾!飛べ、飛べ!」


扉を開けて、耳には喧騒が、絶叫が聞こえてきた。

高まる緊張感。

しっかりと視力が残る左目を見開いて、等倍率スコープの十字線に、1人の人間を映し出す。


引き金を引き、絶叫にかき消された銃声と共に放たれた弾丸は、十字線に映し出した人間の腹部を貫いた。


直後に派手な爆発音。

ほんの少しよろめくが、すぐに銃口を別の人間に向けて引き金を引く。

直後には、芹沢さんの持つマシンガンの轟音が鳴り響いた。


「畜生!引け!」


混乱する相手。

私はキャットウォークを進みながら、淡々と芹沢さんが撃ち漏らした人間を撃ち抜いていく。


4,5人撃ち抜いてから、ほんの少しだけ、照準器から目を反らす。

すると、さっきまで何かを話していた芹沢さん風の男が散弾銃を乱射しながら逃げていくのが見えた。


芹沢さんから見ると、テーブルや人が邪魔で見えない位置。

私は下でマシンガンを撃ちまくる芹沢さんの方を見ると、すーっと息を吸い込む。


「1人奥に逃げた!追うから任せたよ!」


滅多に、というか、まず出さない声を出して、キャットウォークを駆けだす。

カチッと、単発にしていたレバーを連発に切り替えて、出鱈目に下の階に向けて撃って行く。


キャットウォークの突き当たりに来るまでに、1弾倉分撃ち尽くして、素早く弾倉を入れ替えてレバーを引いた。


下に降りて、散弾銃の男が逃げていった扉の方へと駆けていき、中に入る。

小さな部屋だった。


その奥にある扉が開きっぱなしになっている。

私は躊躇なく中に入っていった。


「らぁ!」


扉を抜けた直後、扉の横に隠れていた男が振るってきた散弾銃のストックが私の体を吹き飛ばす。

いとも簡単に吹き飛んだ私は、息を吐きだしながら転がる。

直後に散弾銃の轟音。


「……コトか!?」


一瞬で殺された私は、すぐに再生して立ち上がった。


「残念でした……」

「ヒュー……マジかよ」


その様子を見ていた男は、口にくわえた煙草を落とす。

散弾銃を持って、大きなバッグを肩から下げた、アメリカ映画に出てくるテロリストか、銀行強盗のような初老男。

狂ったようなにやけ顔と、額に浮かぶ汗が、彼の気持ちを代弁していた。


私はニヤッと笑ってダラリと下げられた銃を持ち上げる。


だが、その前に彼が放った散弾によって、体ごと壁に吹き飛ばされた。

ドシャ!っという音と共に、散弾で腕と首が引きちぎれながら壁に血糊をまき散らす。


それでも、すぐに再生して見せて、駆けだして逃げた男の後を追った。


勝手口から外に出て、手に持ったライフルの銃口を視線の先に向けながら、男を探す。

すると、赤い背の低い車に乗り込みかけていた男が見えた。


私は戸惑うこともなく引き金を引く。

数発、男を掠めた後、赤い車体を銃弾が貫いた。


そのまま私は、車を壁にした男の方に回り込む。

迷うことなんてない。


車に近づいて回り込み、銃口を向けた瞬間。

薄汚い笑みを浮かべた男は、私の胸元に大口径の散弾銃の銃口を押し付けた。


私が引き金を引くよりも早く、ゼロ距離で散弾銃の引き金が引かれる。


3度目。

胸元を散弾で撃ち抜かれて吹き飛んだ。

最後の光景は、唯一放った弾丸が、男の腹部を貫いたことくらいだ。


木端微塵に砕かれて、硬いアスファルトに背中から倒れていく。

そのまま、日の光が感じられていた視界は、暗い闇に落ちていった。


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